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◆脱会救出を巡る裁判の判決例 (横浜地裁 平成16年1月23日判決)
横浜裁判:地裁→高裁→最高裁
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平成16年1月23日判決言渡
平成11年(ワ)第14号 損害賠償請求事件
口頭弁論終結日 平成15年7月4日
判 決
K県 |
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原告 |
X |
同所 |
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原告 |
Y |
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上記2名訴訟代理人弁護士 |
今井 三義
(外1名) |
Y県 |
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被告 |
A |
同所 |
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被告 |
B |
Y県 |
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被告 |
C |
Y県 |
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被告 |
D |
同所 |
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被告 |
E |
Y県 |
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被告 |
F |
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上記6名訴訟代理人弁護士 |
平岩 敬一 |
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同 |
小野 毅 |
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同 |
鈴木 健 |
横浜市戸塚区 |
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被告 |
K・S |
名古屋市名東区 |
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被告 |
S・Y |
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上記2名訴訟代理人弁護士 |
山口 広 |
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同 |
紀藤 正樹 |
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同 |
渡辺 博 |
主 文
1 |
原告らの請求をいずれも棄却する。 |
2 |
訴訟費用は原告らの負担とする。 |
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事実及び理由
第1 請求(略)
第2 事案の概要等
本件は、世界基督教統一神霊協会の信者である原告(以下X)が、被告(以下A)、同(以下B)、同(以下C)、同(以下D)、同(以下E)及び同(以下F)が、日本基督教団の伝道師、牧師である被告KS及び同SYの指示、指導のもと、同原告の意思に反して、違法に、同原告を拉致してマンション等の居室内に監禁し、同協会からの脱会を強要し、同SYが、同原告の意思に反して、違法に、同原告と面談して同協会からの脱会を強要したと主張して、被告らに対し、信教の自由、婚姻の自由等の権利に基づき、上記行為の差止を求めるとともに、共同不法行為に基づく損害賠償請求権に基づく損害賠償金1319万5816円及びこれに対する被告らに対する本件訴状の最後の送達日の翌日である平成11年1月15日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の連帯支払を求め、世界基督教統一神霊協会の信者である原告Yが、原告Xに対する被告らの上記行為により、固有の損害を被るとともに、同原告が、原告Xの拉致を防ごうとした際に、被告らに暴行を受け、傷害を負ったと主張して、共同不法行為に基づく損害賠償請求権に基づく損害賠償金579万8450円及びこれに対する原告Xと同様の遅延損害金の連帯支払を求めた事案である。
1 前提事実
(1) 当事者
ア 原告ら
(ア)
原告Xは、大学在学中の平成2年12月ころ、関連団体である全国大学連合原理研究会に入会した。
(イ)
原告Yは、大学在学中の平成2年5月ころ、統一協会の信仰を持った。
(ウ)
原告らは、平成7年、市長に対し、婚姻の届出をした。
イ 被告A、同B、同C、同D、同E及び同F
(ア)
被告Aと同Bは、昭和44年に婚姻し、長女X、次女C及び三女Zをもうけた。
平成7年当時、被告Aは、勤務し、ABC及びXは、同居していた。
(イ)
被告Cは、平成7年当時、勤務していた。
被告Cは、平成3年6月ころ、原告Xに誘われて原理研究会に入会し、その後、統一協会のセミナー等に参加し、平成5年3月ころ、統一協会に入会し、信者として活動していた。
(ウ)
被告Dは、被告Bの弟であり、原告らの主張する不法行為発生時である平成7年から平成9年までの間単身赴任していた。
被告Eは、被告Dの妻である。
被告Fは、本件当時、被告Aと交際があった。
ウ 被告KS(昭和23年生まれ)は、本件当時、横浜市戸塚区内所在の日本基督教団教会の伝道師、牧師として活動していた。
被告Kは、昭和63年ころ、同被告の姪が統一協会に関わったことをきっかけとして、統一協会の信者やその家族に対するカウンセリング活動を行っていた。
被告SY(昭和29年生まれ)は、本件当時、群馬県太田市内所在の日本基督教団教会の牧師(主任担任教師)として活動していた。
被告Sは、大学在学中に統一協会に入信して、信者として活動した後、同協会を脱会した経験を持ち、統一協会の信者やその家族からの相談に応じるなどしていた。
(2)
事実経過
ア 原告Xは、平成5年3月に大学を卒業し、アメリカ合衆国内の大学に2度留学するなどした後、平成7年5月23日付の手紙で、被告A夫妻に対し、統一協会の信仰を持っていることを打ち明けたが、同被告夫妻は、これに反対した。
イ 平成7年6月27日、被告A夫妻は、教会に被告Kを訪ね、原告Xが統一協会の信仰を持っていることについて相談した。その後、被告Kは、被告A夫妻に対し、被告Sを紹介した。
ウ 平成7年8月25日、原告らは、大韓民国ソウル市で、統一協会及びその関連団体が主催した国際合同結婚式に、互いを主体者(配偶者)として、参加した。
原告Xは、国際合同結婚式参加後、統一協会の教義に従い、原告Yと同居することな
く、被告A夫妻宅で生活していた。
エ 平成7年10月22日ころの深夜、原告Xは、被告A夫妻とともに、同被告夫妻宅から、県市内所在の10階居室に移動し、同月25日ころまで、同居室に滞在した。
オ 平成7年10月25日、原告Xは、被告A夫妻及び同D夫妻とともに、から、県市内所在のマンション2階居室に移動し、同月27日まで、同居室に滞在した後、同居室を退去した。
カ 平成9年1月10日の晩、原告Xは、原告Y及びCとともに、市区内所在の店で食事をした後、同日午後10時40分ころ、被告A夫妻らとともに、同店駐車場(原告Y
は、同所で暴行を受けたと主張している。)から、市区内所在のマンション302号室に移動し、同年2月15日まで、同居室に滞在した。
キ 平成9年2月16日、原告Xは、被告A夫妻らとともに、マンション302号室から、県市内所在の101号室に移動し、同年4月10日まで、同居室に滞在した。
ク 平成9年4月10日、原告Xは、被告A夫妻らとともに、101号室から、県市内所在の630号室に移動し、同年6月9日まで、同居室に滞在した。
ケ 平成9年4月19日、被告Sは、630号室を初めて訪れ、原告Xと面談した。
コ 平成9年6月9日、原告Xは、被告B及び同Cとともに、教会に赴き、被告Kと面談し、同日午後5時ころ、市内のJR駅付近で、被告B及び同Cと別れた。
2 争点
(1)
被告A夫妻らの行為が、原告Xの意思に反する、違法な、拉致、監禁及び統一協会からの脱会の強要にあたるか。
(2)
争点(1)につき、被告牧師らの指示、指導があったか。
(3)
被告Sの行為が、原告Xの意思に反する、違法な、面談及び統一協会からの脱会の強要にあたるか。
(4)
被告A夫妻らが、原告Yに暴行を加えた事実があったか。
(5) 差止の必要性の有無
(6) 原告らの損害の有無及び額
3 争点に関する当事者の主張(略) |
事実及び理由
第3 争点に対する判断
1 前提事実及び証拠(略)によれば、以下の事実が認められる。
(1)
平成7年10月ころまでの状況
ア 原告Xは、平成7年5月23日付の手紙で、被告A夫妻に対し、統一協会の信仰を持っていることを打ち明けたが、同被告夫妻は、これに反対し、同原告と何度か話合いをしたが、双方の主張は平行線を辿った。
イ 平成7年6月初旬ころ、被告A夫妻は、日本基督教団の存在を知って連絡を取り、教会の被告Kを紹介され、同月27日、同教会に赴き、同被告と初めて面談した。
被告A夫妻は、統一協会の元信者やその家族から、同協会入会の経緯や生活状況等の話を聞き、原告Xが統一協会の信仰を持った経緯を理解することを、被告Kに勧められ、これ以降、教会に通った。
平成7年7月30日、被告A夫妻は、原告Xの誘いにより、統一協会主催の講演会に参加した際、その会場で被告Cに会い、同被告も統一協会の信仰を持っていることを知っ
た。
ウ 平成7年8月ころ、原告Xは、被告A夫妻に対し、国際合同結婚式に参加することを話した。
エ 平成7年8月20日ころ、原告Xは、被告A夫妻に対し、国際合同結婚式における主体者(配偶者)が原告Yであることを話したが、同被告夫妻は、原告Xが、国際合同結婚式に参加することを、表だって反対はしなかった。
平成7年8月25日、原告らは、大韓民国ソウル市で開催された国際合同結婚式に参加し、同月27日、帰国したが、統一協会の教義に従い、原告Xは、同Yとすぐには同居することなく、被告A夫妻宅で生活を続けた。
オ 原告Xは、国際合同結婚式参加後、外泊や深夜帰宅が多くなり、被告A夫妻は、希望する同原告との話合いができなかった。
被告A夫妻は、平成7年9月ころから、統一協会主催の講演会に、原告Xと参加する一方で、教会で毎週水曜日に開催されていた聖書研究会及びその後に催される統一協会の元信者らの集まりに参加し、同人らの話を聞くなかで、周囲から遮断された環境のもとで、原告Xと、統一協会の教義や活動について話合いを行う必要があると考えるようになっ
た。
被告A夫妻は、被告Kから、日本基督教団の統一原理問題全国連絡会で面識のある被告Sを紹介され、平成7年10月15日ころ、被告Aは、教会に、被告Sを訪ねた。
カ 被告A夫妻は、被告Sから紹介された人物から、10階居室を、原告Xとの話合いのための場所として借り受けた。
(2)
平成7年10月23日から同月27日までの状況
ア 平成7年10月23日の深夜、原告Xが帰宅した際に、被告A夫妻が、同原告に対し、10階居室へ行こうと提案したところ、同原告は、渋々これに応じ、同月24日の午前4時ころ、同マンションに到着した。この居室には、被告E、同被告の弟であるe、Aの叔母であるN、被告Dの母であるdが来ており、上記の者らのいずれかが、常に原告Xの相手をしていた。
原告Xが上記居室に到着した後、被告Bは、同原告が、同居室内の浴室で、原告Yと携帯電話で連絡を取っているのを発見し、同被告がこの携帯電話を預かることとした。
イ 平成7年10月24日当時、勤務していた被告Cは、勤務が終了した同日被告A夫妻の要望に応じ、マンション7階居室に赴いた。
被告Cは、同月27日ころ、上記居室を訪れた被告Sと、統一協会に関して話合いを行い、同協会から脱会する意思を表明した。
ウ 平成7年10月25日、被告Aは、被告Eから、10階居室入口ドアが、何者かに叩かれたことを聞き、知人から、マンション2階居室を借り受け、同日晩に、同原告と同居室に移動した。
エ 平成7年10月27日、原告Xは、マンション2階居室窓の鍵を安全ピンで開けてベランダに出て、雨樋を伝い2階から1階に飛び降りて、原告Yのもとに戻った。
(3)
平成7年10月28日から平成9年1月初めまでの状況
ア 原告らは、平成七年、市長に対し、婚姻の届出をし、平成8年3月ころ、原告ら
は、同市内のアパートで、同居するようになった。
イ 被告A夫妻は、原告らと被告Cが、平成9年1月10日ころ、食事をする際に、再度話合いの機会を設けようと考えた。
(4)
平成9年1月10日から同年6月9日までの状況
ア 平成9年1月10日午後3時ころ、原告Xから、被告Cに電話があり、被告Bは、同日の晩に、原告Xと被告Cが会うとの情報を得た。
イ 被告A夫妻は、被告Cが外出した後、被告D夫妻、被告F及びeと、同日午後7時ころ、店付近のうどん屋で待ち合わせた。
原告らと被告Cは、同日午後8時ころ、店に入り、共に食事をした。
ウ 同日午後10時40分ころ、原告両名及び被告Cが、店から出てきたところ、被告Bが原告Xに駆け寄り、被告Aもこれに続き、eはワンボックスカーを運転移動させて、その付近に停めた。
被告Bが原告Xの腕を取ろうとしたところ、同原告は、悲鳴をあげ、ワンボックスカー付近で仰向けになって、同車の左前タイヤ部分に右足を掛けて抵抗したが、被告A夫妻
が、同原告を抱き起こし、同車内にいた被告Eとともに、同原告を同車に乗せ、被告Cも同車に乗り込んで、eが同車を運転して、マンション302号室に移動した。
エ 原告Yは、同原告の自動車に乗ろうとした際、原告Xの状況に気付き、同原告の方に駆け寄ろうとしたが、途中で転倒し、アスファルトの地面に四つん這いの姿勢になり、眼鏡が外れた。原告Xを乗せたワンボックスカーが発車した後、原告Yは、駐車場に残った被告Dと同Fに対し、左手及び両膝を負傷したことを抗議しなかった。
オ 平成9年1月11日、原告Yは、病院で診察を受け、左手及び両膝窩部外傷で、加療約一週間を要するとの診断を得て、当該負傷部位及び破損したスラックスの写真を撮影した。
カ 被告Aは、平成9年1月6日から10日まで、前記勤務先に出勤した後、同月13日から同年3月途中まで年次休暇を取り、同年5月26日まで欠勤した。被告Bは、パートタイムの仕事を辞め、被告Cは、平成9年1月末ころ、退職した。
被告A夫妻は、上記居室の玄関ドア防犯チェーンが弛まないように、チェーンに南京錠を取り付けた。
被告Cは、家事全般を担当し、原告Xは、昼ころ起床して、2時間程入浴し、被告Bや同Cが、同原告の体をマッサージしたり、同原告とトランプなどのゲームをすることもあったが、同原告が統一協会から脱会する意思を表明した同年5月23日まで、同原告が、以後滞在した居室で1人となることはなかった。
原告Xは、当初、被告A夫妻らの行為に抗議したが、平成9年1月末ころから、被告A夫妻に対し、統一協会の信仰を持った経緯や同協会の教義について話をするようになっ
た。
キ 平成9年2月初めころ、被告A夫妻は、前記マンション住人から、同被告夫妻らが騒音を立てたことに苦情を言われたため、知人を通じて、101号室を借り受け、同月
15日、被告Fが運転する自動車で、原告X、被告Eとともに、同居室に移動した。
被告A夫妻は、同居室の窓に、ボルト付の金属棒やサッシ止めを取り付け、ビニールシートを貼り付けるなどした。原告Xは、このころ、日本基督教団発行の統一協会に関する冊子を読み、被告A夫妻らと、その感想を述べ合うなどした。
ク 平成9年4月初めころ、被告A夫妻は、被告Sから紹介を受けた人物から、630号室を借り受けた。
同月10日、被告A夫妻は、上記居室の鍵を預かっていた被告Sの案内で、上記マンションに自動車で移動した。被告Sは、このとき、原告Xとは会話をしなかった。被告A夫妻は、上記居室の玄関ドア防犯チェーンに、南京錠を取り付けた。
ケ 原告Xは、630号室において、平成9年4月10日から同月19日ころまで、引き続き日本基督教団発行の前記冊子を読み、被告A夫妻らと、その感想を述べ合うなどした。
同月19日午後7時ころ、被告A夫妻の依頼で、被告Sが上記居室を訪問し、原告X
は、被告Sの問いかけに対し、キリスト教と統一原理の違い及び統一協会の問題点について、説明を求めた。
被告Sは、その後、同年5月中旬にかけて、7回程度、上記居室を訪問し、統一協会の教義や活動について説明したが、原告Xが、これに反発することもあった。
コ 平成9年5月23日、原告Xは、被告A夫妻に対し、統一協会から脱会する意思を表明したが、これは、同原告の真意によるものではなかった。同月25日、同居室を訪
れ、原告Xと面談した被告Sも、同原告の真意に気付かなかった。
平成9年5月26日、原告Xは、被告A夫妻及び同Cと教会に赴き、統一協会の元信者と会って話をし、これ以降、同原告は何度か同教会に赴き、礼拝などに参加するようになり、被告Sとともに、統一協会の信者がその家族と滞在しているマンションの居室に赴くなどした。
サ 平成9年6月4日、原告Xは、被告B及び同Cとともに教会に赴き、同教会で開催された聖書研究会及び統一協会の元信者らの集まりに参加し、統一協会の元信者らと話をした。その後、外出から戻った被告Kは、原告Xと夕食を摂りながら話をした。
平成9年6月5日、原告Xは、被告Bと教会に赴き、被告Sと話をした。
平成9年6月7日、原告Xの発案で、被告A夫妻及び同Cと埼玉県内の温泉に出かけて一泊したが、この宿泊先は、同原告が本屋で旅行関係の本を買い、自ら探して電話を架けて予約した。
シ 平成9年6月9日、原告Xは、事前に被告Kに電話で連絡し、被告B及び同Cと教会に赴き、被告Kと、今後の身の振り方について話をした。
同日午後5時ころ、原告Xは、市内のJR駅付近で、被告B及び同Cと別れた。
2 争点に関する判断
(1) 争点(1)
(被告A夫妻らの行為が、原告Xの意思に反する、違法な、拉致、監禁及び統一協会からの脱会の強要にあたるか。)
ア 原告らは、被告A夫妻は、被告C、同D夫妻及び同Fと共謀し、2度にわたり、原告Xを、同原告の意思に反して、違法に、拉致、監禁し、統一協会からの脱会を強要したと主張する。
イ しかし、原告Xは、被告A夫妻と、前記各マンション居室に移動した際、自ら歩いて入室し、同被告の求めに対し、統一協会の信仰を持った経緯や同協会の教義について話をするようになり、この点について、同原告が抵抗する意思を示したと認めるに足りる的確な証拠はないこと、前記各マンション居室では、被告Cや同Bが家事をし、原告Xは、昼ころ起床して、2時間程度入浴することもあり、被告Bや同Cが、同原告の体をマッサージしたり、同原告とトランプなどのゲームをすることもあり、被告A夫妻らが、同原告に対し、有形力を行使したことはなかったと認められること、原告Xは、平成7年10月27日及び平成9年6月9日、被告A夫妻と別れた後も、被告らの行為が違法な拉致、監禁であると、警察に対し、訴え出た事実もないこと、被告A夫妻は、原告Xを思いやる心情から、被告Kと面談し、教会の統一協会の元信者やその家族から、同協会への入会の経緯や生活状況等の話を聞くなかで、同被告が、周囲から遮断された環境のもとで、同原告と、統一協会の教義や活動について話合いを行う必要があると考え、前記認定のとおりの行動に出たことからすれば、前記各マンション居室における原告Xの生活状況は、平穏なものでなかったとまでは認められず、被告A夫妻らの前記行為は、原告らの主張の、原告Xに対する、同原告の意思に反する、違法な、拉致、監禁及び統一協会からの脱会の強要とまで認めることはできない。
(2)
争点(2)
(争点(1)につき、被告牧師らの指示、指導があったか。)について
ア 原告らは、被告牧師らは、日本基督教団の、統一協会に対する激しい反対運動を展開する統一原理問題全国連絡会に所属し、常習的に統一協会の信者に対する拉致、監禁及び脱会の強要を行っていたものであるが、統一協会の壊滅を図る目的で、争点(1)
の被告A夫妻らの不法行為を指示、指導したと主張する。
イ しかし、前記説示のとおり、争点(1)
について、被告A夫妻らの前記行為が、原告Xの意思に反する、違法な、拉致、監禁及び統一協会からの脱会の強要とまで認めることができないのであるから、原告らの主張は、前提において失当であり、理由がない。
(3)
争点(3)
(被告Sの行為が、原告Xの意思に反する、違法な、統一協会からの脱会の強要にあたるか。)
ア 原告らは、被告Sは、平成9年4月19日以降、少なくとも都合7回、630号室を訪問し、原告Xに対し、同原告の意思に反して面談をし、統一協会を批判する趣旨の資料や同被告が関与する同協会に関する裁判資料を読ませ、キリスト教が絶対に正しいという立場から、統一協会の創始者やその教義及び同協会の機関誌などについて一方的な批判を行い、あるいは、統一協会の信者は、同協会にマインドコントロールされ、善悪の判断もできないのであるから、監禁と牧師による説得が必要であるとの独自の見解に基づき、統一協会の信者に対する監禁を手段とする同協会からの脱会説得の必要性を主張し、同原告に対し、同協会からの脱会を強要し、同原告が、同被告に対し、少しでも反論すると、「お前は自分の頭で考えていない。一生そうやって生きていくのか。」、「分からないくせに、どうして真理といえるのか。」、「知能が低いから分からないんだ。」などと、激しく同原告を叱責したと主張し、原告Xは、これに副う供述をする。
平成9年4月19日午後7時ころ、被告A夫妻の依頼により、被告Sが、630号室を訪問し、原告Xと初めて面談し、その後、同年5月中旬にかけて、7回程度、上記居室を訪問していること、被告Sは、統一協会の教義や活動について、同原告と話合いを行ったが、同原告が、これに反発することもあったこと、同年5月23日、同原告は、被告A夫妻に対し、統一協会から脱会する意思を表明したが、これは、同原告の真意によるものではなかったことは前記認定のとおりである。
イ しかし、原告Xは、被告Sの問いかけに対し、キリスト教と統一原理の違い及び統一協会の問題点について、説明を求めるなどしたことは、前記認定のとおりであり、同原告も、統一協会の教義や活動について、被告Sと検証しようとする姿勢を見せていたことが窺われるのであって、同原告の前記供述はにわかに措信できず、これを否定する趣旨の被告Sの供述に照らして採用できず、他にこれを認めるに足りる的確な証拠はない。
(4)
争点(4)
(被告A夫妻らが、原告Yに暴行を加えた事実があったか。)について
ア 原告らは、被告A夫妻らが、平成9年1月10日午後10時40分ころ、原告Xを拉致、監禁しようとした際に、被告D及び同Fが、これを防ごうとした原告Yの両腕両肩を掴み、前方にうつ伏せに押し倒して、地面に組み伏せるなどの暴行を加え、同原告に、加療約一週間を要する左手及び両膝窩部外傷の傷害を負わせたと主張する。
原告Yが、同原告の自動車に乗車しようとした際、原告Xの状況に気付き、同原告の方に向かって走り寄ったこと、その後、アスファルトの地面に四つん這いの姿勢になり、眼鏡が外れたこと、平成9年1月11日、原告Yは、病院で診察を受け、上記主張のとおりの診断を得て、当該負傷部位及び破損したスラックスの写真を撮影したことは前記認定のとおりである。
イ しかし、原告Yは、本件行為時の状況が、状況再現写真のとおりであるなど、原告ら主張に副う供述をするところ、その際の具体的な被告A夫妻らの位置関係などについての供述がない。
また、原告Xを乗せたワンボックスカーが発車した後、原告Yは、駐車場に残った被告Dと同Fに対し、左手及び両膝を負傷したことについて抗議したと認めるに足りる的確な証拠はない。
ウ 被告A夫妻らは、原告Yが、同原告の前に立ちふさがった被告Fにぶつかって、前に倒れて、膝をついて負傷したに過ぎないと主張し、被告C及び同Dもこれに副う供述をするところ、原告Yの負った上記負傷は、当該負傷部位をアスファルトに強く擦過することによって生じたものと認められるが、これは、被告A夫妻らの主張する行為態様によって生じたと考えても、必ずしも矛盾しない。
エ 以上の点に照らせば、原告ら主張の暴行の事実があったと認めることはできず、他にこれを認めるに足りる的確な証拠はない。
第4 結論
以上より、原告らの請求は、その余について判断するまでもなくいずれも理由がないからこれを棄却することとし、主文のとおり判決する。 |
横浜地方裁判所第8民事部 |
裁判長裁判官
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松 |
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田 |
|
|
|
清 |
裁判官
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|
加 |
|
藤 |
|
美 |
枝 |
子 |
裁判官
|
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吉 |
|
川 |
|
健 |
|
治 |
|
|
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