◆損害賠償請求事件 東京地裁判決(平成14年8月21日) (青春を返せ訴訟)) |
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平成14年8月21日判決言渡 同日原本領収 裁判所書記官
平成11年(ワ)第18400号 損害賠償請求事件 口頭弁論終結日 平成14年2月20日 判 決
主 文
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事実及び理由 第1 請 求(略) 第2 事案の概要 1 本件は、原告らが、被告又はその信者らの違法な詐欺的・脅迫的な勧誘・教化行為によって被告に入信させられ、その後長期間被告の献身信者として過酷な生活をさせられて信教の自由を侵害され、また、その過程で献金及び合同結婚式への参加を強要されて財産権及び婚姻の自由を侵害されたとして、不法行為(民法709条又は715条)に基づき慰謝料等の支払を求めた事案である。 2 争いのない事実等(証拠等により容易に認定できる事実については証拠等を記載した。) (1) 当事者 ア 「世界基督教統一神霊協会」(以下「統一協会(統一教会)」又は「統一教会」ともいう。)は、昭和29年に韓国ソウルで設立された宗教団体であり、その教義創始者は韓国人文鮮明である。同会の教えは、昭和33年、日本にもたらされ、同会の教えを奉ずる信者らは、宗教団体日本統一教会を創立し、昭和39年、東京都知事から宗教法人法14条に定める規則を認証する旨の決定を受 け、同年7月16日、被告が宗教法人として設立登記された。(乙第3号証の1、弁論の全趣旨) イ 原告らは、被告に入信していたが、その後脱会したものである。 (2) 被告の教理 被告の教理は統一原理と称され、旧約聖書及び新約聖書を教典とする。その教理解説書は「原理講論」(甲第1号証)であるが、その教理の主な理論は次のとおりである。(甲第1号証、弁論の全趣旨) ア 創造原理 神は、人間が個性完成(第一祝福)、個性完成後の合性一体化による子女の繁殖(第二祝福)、万物世界の主管(第三祝福)の三大祝福のみ言 (ことば)に従い地上天国を実現して喜ぶのを見てより喜ぶために、人間を創造した。神は人間を神に似せて創造したので、人間はそれ自身の責任分担を完遂して初めて完成されるように創造された。それは人間が神も干渉できない責任分担を完遂することにより神の創造性までも似るように し、神の創造の偉業に加担させ、神が人間を主管するように人間も創造主の立場で万物を主管できる資格を持つためである。 イ 堕落論 神が人間を創造する前、神の愛を一身に受けていた天使長ルーシェルは、神がアダムとエバを創造して愛を注いでいるのを見て愛の減少感を感 じ、神の子女であるエバを誘惑して不倫関係を結び、霊的に堕落した。次いでエバは、未完成のうちにアダムと性的関係を結び、肉的に堕落した。堕落したルーシェルはサタンとなり、堕落した人間はサタンの子女となり、その堕落性は、原罪として子孫に綿々と遺伝されることになった。そして、完成した人間が主管するはずであった万物世界は、人間が未完成のうちに堕落し、サタンが万物の主管主として創造された人間を逆に主管するようになったので、サタンは万物世界をも主管するようになった。アダムとエバは、堕落して人類の悪の父母となり、悪の子女を生み地上地獄を造った。 人間の罪には、上記原罪のほか、血統的な因縁をもって、その子孫が受け継いだ祖先の罪である遺伝(的)罪、自身が犯した罪でもなく、また遺伝的な罪でもないが、連帯的に責任を負わなければならない罪である連帯罪、自身が直接犯した罪である自犯罪がある。 ウ 復帰原理 神は、堕落した人類を創造目的本然の罪のない立場に立ち戻らせようと中心人物を立てられ、復帰摂理をすすめられてきたが、それに答えることができず、摂理は延長されてきた。 イエスキリストは、人間を神の創造目的に立ち戻らせるために降臨したメシアであるが、不信と裏切りによって、肉的救いは失敗した。 肉的救いを完成し、地上天国を実現するには、再臨のメシアを待たなければならない。イエスは韓国に再臨する。 3 争 点 (1) 被告と信者組織との関係 (2) 侵害行為 (3) 被侵害利益、違法性 (4) 責任原因 (5) 損害 (中 略) |
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事実及び理由 第3 争点に対する判断 1 争点(1)(被告と信者組織との関係)について (1) 前記第2の2の争いのない事実等に加え、証拠(甲第13号証、第151号証の2、第155号証の1ないし21、乙第1号証、第3号証の1、証人岡村信男の証言)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実を認めることができる。 ア 被告は、その本部を肩書住所地に置き、各都道府県に、教区本部、教会又は伝道所と呼称される布教所を置いている。 イ 被告の規則(乙第1号証)28条には、収益事業として出版業のみが挙げられているが、昭和58年1月、出版部門が株式会社光言社に分離移行されたため、以後、被告は、自ら法的主体となっては収益事業及び経済活動は行っていない。 ウ 被告は、発行人として、株式会社光言社から中和新聞を発行している。 エ 被告は、昭和57年ころ、ビデオによる伝道体制の導入を検討し、同年4月から、全国15か所(渋谷、練馬、荒川、札幌、栃木、岐阜、静岡、津、大阪、寝屋川、和歌山、神戸、広島、山口及び鹿児島)にビデオセンターを設置し、その後も各地に開設していった。 オ 被告は、昭和57年10月、ビデオセン ターの設置について、東京都の総務局行政部指導課に相談したところ、ビデオ受講時に受講生から料金を徴収する場合、収益事業とみなされ、規則にないことは行ってはいけないとの指導を受けたことから、昭和58年1月の責任役員会議において、被告は公式にはビデオ受講施設の設置は行わないことを決定した。 (2) 前記第2の2の争いのない事実等に加え、証拠(中略 証人A、同B、同本田C子(杉山)、同I、同S、同Y及び同魚谷俊輔の各証言、原告らの各本人尋問の結果)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実を認めることができる。 ア 被告に入教するまでの概要 (ア) 被告の新規信者が、ビデオセンターを通じて被告に入教するまでは、概ね、ビデオセンターにおけるビデオ講座の受講、ツーデーズセミナ ー、スリーデーズセミナー又はライフトレーニング、フォーデーズセミナー、新生トレーニング、実践トレーニング、献身という過程をとる。 (イ) ビデオセンターにおける学習は、通所によるビデオ視聴形式を中心とした講義受講の方式が採用され、ツーデーズセミナー及びスリーデーズセミナーは、合宿形式のセミナーである。ライフトレーニングは、通所による集中研修であり、新生トレーニング及び実践トレーニングは、ホームに泊まり込んで集団生活をする長期研修である。 (ウ) 上記各種セミナー及びトレーニングは、いずれも有料であり、受講生は、受講料を支払ってこれに参加する。その内容は、いずれも、そのほとんどが被告の教義の講義であり、ビデオセンターでは、ビデオ視聴形式の講義が行われ、他のセミナー等では、講師によって講義が行われる。 (エ) 上記の各研修過程においては、概ね、スリーデーズセミナー又はライフトレーニングまで、被告の名称や文鮮明の名前は明かされない。ま た、上記の各研修過程では、受講生等(段階により修練生とも称している。)は、各段階で、ビデオセンターのスタッフ等によってその成長度を確認され、次の研修のスタッフ等に情報が引き継がれている。 (オ) 街頭で声をかけられた者のうち、実際にビデオセンターに通うようになる者の割合は、数パーセント程度にとどまり、それらの者のうち献身の段階にまで到達する者の割合は更に低く、途中で相当数の受講生等がやめていくのが通常であ る。 イ 被告の信者の組織及び活動 被告の信者は、地区と称される部署に属し、各地区の下には、青年支部、店舗及び壮婦部と呼ばれる部署があった。青年支部の下には、ビデオセンターから新生トレーニングまでの研修過程を担当する教育部、実践トレーニングが終了した学生が所属し、卒業までの間、伝道活動や物品販売活動を行う学生部、実践トレーニングの終了後、仕事を続けながら伝道活動や物品販売活動を行う信者が所属する青年部が存在した。学生部及び青年部に所属する信者も、いずれは献身するよう説得された。 ウ ビデオセンターへの勧誘(伝道) (ア) ビデオセンターへ誘い込む方法には、 a 見知らぬ人に街頭でアンケートの名目で声をかけ、ビデオセンターに誘い込む路傍伝道 b 知人や親族に手紙や電話等で勧誘するFF伝道 c アパート等で一人暮らしをしている人等を戸別訪問して誘い込む伝道方法 d 各種商品販売展示会(以下「展示会」という。)等を契機として誘い込む方法 がある。 (イ) ビデオセンターでは、新規来訪者をゲス ト、ゲストに対応する担当者をトーカーないし新規トーカーと呼ぶ。ゲストは、ビデオセンターでアンケートへの回答を求められる。トーカーは、予め紹介者から聞いたり、ゲストとの会話や上記アンケート等によって、ゲストの悩み、関心事、問題意識等(ニード)を把握し、ビデオセンターで勉強しようと言い、入会を勧誘する。 (ウ) ゲストがビデオ受講に応じた場合、伝道者を霊の親、被伝道者を霊の子と呼び、霊の親は、霊の子が献身に至るまでの間、途中で辞めることがないよう、アフターケアとして手紙や簡単な贈り物、電話等を頻繁に行って激励する。 エ ビデオ受講 受講生には担当カウンセラーが決められ、カウンセラーは、受講生の状況やビデオ講義に対する反応を常に把握し、ツーデーズセミナーに参加するよう働きかける。 オ ツーデーズセミナー (ア) ツーデーズセミナーは、被告の研修施設等で行われる1泊2日の合宿形式のセミナーであ る。講義内容は、ビデオセンターで受講した創造原理、堕落論及び復帰原理の復習である。講師 は、人間はアダムとエバが堕落したことにより原罪を受け継いでいること、再臨のメシアが現在すること等を語り、メシアが誰であるかは、次のスリーデーズセミナー又はライフトレーニングで明らかにする旨告げる。 (イ) ツーデーズセミナーの終了後、受講生は、ウェルカムパーティーの会場に連れて行かれ、ビデオセンターのスタッフや霊の親から、セミナーへの参加についてねぎらいを受け、感想を求められたりする。この段階で、スリーデーズセミナー又はライフトレーニングに参加することを決めていない受講生は、これに参加するよう説得され る。 カ スリーデーズセミナー及びライフトレーニング スリーデーズセミナーは、被告の研修施設等で行われる2泊3日の合宿形式のセミナーである。ライフトレーニングは、受講生が二週間ないし一か月間程度、毎晩セミナー会場に通い、講義を受けて解散するセミナーである。講義内容は、ビデオセンター及びツーデーズセミナーで受講した創造原理、堕落論及び復帰原理の復習である。講師は、受講生に対し、最終日の講義の最後に、メシアは文鮮明であり、文鮮明の設立した団体が「世界基督教統一神霊協会」であることを明らかにする。 キ フォーデーズセミナー (ア) フォーデーズセミナーは、被告の研修施設等で行われる3泊4日の合宿形式のセミナーである。受講生は、それまでのセミナーと異なり、被告の教義であることを認識した上で講義を受け る。文鮮明の提唱する統一運動や文鮮明の活動軌跡等に関する講義が新たに加わる。講義の要所要所で、感動的な音楽が流されるなど、演出にも工夫が凝らされている。聖歌や祈りの時間があり、全員が祈祷し、泣き出す者も現れるなど、感情の昂揚した状態が続く。 (イ) 班長は、セミナー期間中、受講生と面接を行い、新生トレーニングに参加すること、統一原理の道を歩むよう決意することを働きかけ、決意しない者については、翻意するよう朝まで説得を続ける。献身する旨返事をした受講生は、献身後の活動については具体的なイメージを持っていない。最終日には献身の誓いがあり、受講生は、皆の前で、順番に、生涯かけて原理の道を行く旨宣誓する。 (ウ) ビデオセンターのスタッフは、フォーデーズセミナーの終了後、ウェルカムパーティーを開催し、受講生をねぎらう。 ク 新生トレーニング 新生トレーニングに参加する修練生は、自宅を出て、ホームに泊まり込んで共同生活を送り、ホームから学校や勤務先に通い、帰ってきてから講義を受ける。新生トレーニングでは、修練生は、講義を受けるほか、万物復帰の教義の実践として展示会への動員や珍味販売等の活動を行ったり、街頭でアンケートを利用した伝道活動を行う。また、駅前等で、被告の教義を大声で語る路傍演説を行うこともある。さらに、修練生は、同トレーニング中、献金するように勧められる。 ケ 実践トレーニング 実践トレーニングでは、修練生は、新生トレーニングと同様、ホームに起居して講義を受講す る。また、修練生は、献身者と同様、展示会への動員活動や伝道活動等を経験する。これに先立 ち、当該活動の意義を被告の教義(万物復帰)と関連付けて説く講義があり、修練生は、スタッフの指導の下、マニュアルに基づき、想定問答等の反復練習をする。修練生には、一定の目標も課せられ、修練生は、これらの活動によって文鮮明の苦労の道をしのぶことになり、また、自分だけでなく相手方や世界の救いにもなると信じて、目標を達成すべく活動に励む。 コ 献身 実践トレーニングの修練生は、これまでの職を捨て、家を出てホームで生活をしながら、ビデオセンター等での伝道活動や物品販売活動に専従すること(献身)を勧められる。学生の信者は、卒業までは学生部に所属しながら活動するよう勧められたり、就職が決まっている信者は、青年部に所属して、仕事を続けながら活動するよう勧められることもある。 サ 献身後の信者の活動 (ア) 献身後の信者は、家族からの仕送りや退職金をすべてホームの会計担当者に渡し、ホームの会計から月数千円から1万5000円程度の小遣いの支給を受けることになる。 (イ) 献身後の信者は、伝道機動隊に所属してビデオセンターへの誘い込みをしたり、展示会への動員活動や物品(ハンカチ、茶、宝石、珍味、印鑑等)の販売活動等に従事し、また、教育部に所属してビデオセンターや各種セミナー等のスタッフになったりする。 また、マイクロ隊に所属して、6、7人のチームを組み、改造したマイクロバスやワゴン車に寝泊まりしながら、各都道府県を回り、連日、戸別訪問して珍味等を販売する信者もいる。 上記各活動には達成目標が設定され、献身信者は、これを達成すべく活動に励む。特に、マイクロ隊の隊員は、朝早くから深夜まで戸別訪問を繰り返し、目標が達成できるまでは車には帰らず、帰っても、再度深夜の飲屋街に訪問販売に出掛けるなど、過酷な生活を送る。その結果、健康を損ねたり、居眠り運転で交通事故に遭うこともあった。 (ウ) 献身信者は、アルバイト等をして被告に献金する。また、献身信者は、被告の信者としての成長段階に応じて、被告が主催する21日修練会や合同結婚式(祝福)等に参加する。 (3) 以上(1)、(2)の認定事実を前提に、争点(1)について検討する。 ア 被告は、ビデオセンター、各種セミナー及びトレーニング、ホーム等は被告が運営、主催するものではなく、被告の信者組織である連絡協議会において設置され、管理運営されていたものであるから、被告とは実質的な指揮監督関係にない旨主張する。 しかしながら、前記(2)に認定した事実によれ ば、ビデオセンターから始まる一連の勧誘・教化過程においては、被告の信者獲得のため、被告の教義の教化行為が組織的かつ不断に行われてお り、その結果献身に至った信者も、被告の教義の実践活動として伝道活動や経済活動に励んでいるものということができる。 また、前記(1)に認定したとおり、被告は、昭和57年4月から、ビデオによる伝道システムを検討し、これに着手していたものであるから、東京都の指導がなければ、上記活動は、被告の公式活動として行われていたであろうと推認することができる。この点、被告は、別の公式の研修会(2日修練会、7日修練会、21日修練会、40日修練会)を行っている旨主張するが、同各研修会の具体的な内容や規模を認めるに足りる的確な証拠はなく、むしろ、前記(2)に認定したとおり、同認定のセミナー等を経て献身した信者が、21日修練会に参加しているものということができるのであって、上記各研修会が、被告の検討していた新規信者獲得のための伝道活動に代わるものということはできない。 そして、甲第151号証の1、2及び弁論の全趣旨によれば、前記(2)に認定の一連の過程において、スタッフや講師は、受講生等に対し、その参加しているセミナー等が被告とは別個の信者組織に属する活動であるとは説明していなかったことが認められる。 イ また、前記(1)に認定したとおり、被告は、株式会社光言社から中和新聞を発行しているところ、(中略)によれば、同新聞には、被告自体の活動と特に区別することなく、アンケートを用いた路傍伝道やツーデーズセミナー、スリーデーズセミナー、フォーデーズセミナー、ライフトレーニング、新生トレーニング等の記事が掲載され、被告としても、上記活動を認識し、積極的に推奨していることが認められる。 そして、前記(2)に認定した研修等の過程では、被告に対する献金も行われているのであって、甲第74号証によれば、被告がホームに対し、献金の種類と意義を説明し、献金を励行するよう呼びかけていることも認められるのである。 ウ 以上によれば、前記(2)に認定した一連の被告への入教勧誘・教化行為は、被告の活動として明示的(少なくとも黙示的)に許容され、被告の実質的な指揮監督下に置かれていたものと推認すべきである。 |
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事実及び理由 2 争点(2)(侵害行為)について (1) 証拠(中略)及び弁論の全趣旨によれば、原告大倉について、次の事実を認めることができる。 ア ビデオセンター(NCF) (ア) 原告大倉は、甲大学法学部四年生であった昭和62年4月末ころ、テニスサークルでIと出会い、同人から、学生部が主催するバレーボール大会に誘われ、同年5月5日、同大会に参加し た。この際、Iは、自己が被告に所属していることやバレーボール大会が学生部が主催するものであることは告げなかった。原告大倉は、大会終了後、喫茶店で、Iと同学生部の小隊長(班長)であるHの二人から、「自己啓発のサークルなの で、勉強してみないか。」とビデオセンターへの勧誘を受けたが、これを断った。 (イ) その後、原告大倉は、改めてIから電話で熱心に勧誘され、断り切れず、お茶の水にあるビデオセンターに行った。原告大倉は、ビデオセンターにおいて、スタッフのMとIの2人から、ビデオセンターに入会するよう勧められたが、これを断った。 (ウ) 原告大倉は、Iから、その後何度も電話で勧誘を受けたため、2、3日後に改めてビデオセンターに行く約束をした。同年5月16日午後6時ころ、原告大倉は、日暮里駅でIと待ち合わせをし、日暮里カルチャーフォーラム(NCF)に行った。そこで、I及び所長の菊田は、原告大倉に対し、ビデオセンターでビデオ学習をすれば、もっと視野が広がり、世の中のことが分かるようになって充実した人生を歩めるようになるなどと言い、ビデオセンターに入会するよう長時間にわたって説得した。その結果、原告大倉は、入会を承諾したが、宗教の教義を学ぶことになるとは全く気が付かなかった。菊田は、原告大倉に対し、NCFでビデオ13巻を見て学習し、その後1泊2日の合宿がある旨説明したが、原告大倉は就職活動で忙しく、これ以上関わりを持ちたくなかった上、1泊2日の合宿となるとお金もかかりそうだと思い、合宿に参加することを予め断り、菊田もこれを承諾した。 (エ) 原告大倉は、最初の3回程は、前日にIから確認の電話を受け、同人と待ち合わせの上、ビデオセンターに通い、昭和62年7月22日ま で、総序、創造原理、堕落論、終末論、復活論、メシア論、アダムノア、アブラハム、十戒の順番でビデオ学習をした。 原告大倉は、ビデオに聖書や霊界の話がよく出てくるとは思ったが、菊田が原告大倉に対してアメリカの自己啓発セミナーの内容を勉強している旨説明したので、特定の宗教団体の教義を学ばされているとは全く考えていなかった。 (オ) 原告大倉は、ビデオの内容やカウンセラーとの話により、霊界が実在することや、悪霊が自分に働くと事故が起こったり病気になったりすることを徐々に意識するようになっていった。原告大倉が、NCFに行く約束を破って休んでおり、Iから電話がかかってきた際、金縛りにあったかのように起き上がれなかったことがあった。原告大倉がカウンセラーに対してそのことを話したところ、カウンセラーから、「それは悪霊が働いたんだ。」「これからは多少体調が悪くてもNCFに来たほうがいい。そうしないとまた悪霊が働くよ。」などと言われた。 (カ) 原告大倉は、ツーデーズセミナーへの参加を執拗に勧誘されたが、再三拒否し続けた。このため、カウンセラーの按田は、原告大倉に対し、1日の集中講義のセミナー(ワンデーセミナー)への参加を勧め、原告大倉も、1日だけのセミナーなら参加してもよいと思い、参加を承諾した。 イ ワンデーセミナー 原告大倉は、昭和62年8月末ころ、日暮里総合教育センター(NSC)でのワンデーセミナーに参加した。 ワンデーセミナーの講義の最後に、神が地上につかわしたメシアは韓国人の文鮮明であり、文鮮明が統一協会(統一教会)を創設したことを聞かされた。原告大倉は、この時初めて、これまでビデオセンターで学んできたことが宗教の教義であり、自分が宗教団体に勧誘されていたことに気付いたが、被告や文鮮明のことを全く聞いたことがなかったの で、被告がどのような団体かは分からなかった。原告大倉は、ライフトレーニングへの参加を勧められたが、ビデオセンターや被告から遠ざかろうと思い、これを断り、1か月後にビデオセンターに行くことを約束した。 ウ ライフトレーニング (ア) 原告大倉は、ワンデーセミナーの後、しばらくNCFから遠ざかっていたが、Iやスタッフから、電話で再三来場を勧誘され、断り切れず、昭和62年9月末、再びNCFに行った。その際、按田は、原告大倉に対し、同人の親族を順次尋ね、これを家系図用紙(甲第108号証の1と同様の用紙)に記入していった。按田は、原告大倉の母方の乙家では、原告大倉の母を含めて女五人の後、長男が生まれたものの、その長男(原告大倉の叔父)が家出し、行方不明になったため跡継ぎがいなくなったことや、母の長姉の子が離婚し、次姉の子が18歳で白血病で死亡していること等を踏まえ、「乙家は男が立たない家系で、このままではあなたのお母さんの上の姉さんの子が危ない。その次はあなたの家族が危ない。」と述べた。父親の兄弟には、クリスチャンが一人いたので家系的には守られているが、乙家の方に信仰を立てた人が必要で、原告大倉にその使命があるといった話をした。原告大倉は、按田の説明を聞くうちに、自分には乙家の先祖の因縁を解いて氏族を救う使命があり、そうしない限り、不幸が 次々と家系に訪れ、ひいては自分自身の身にも、病気か事故が起きるのではないかと思うようになった。按田は、その方法を示してくれるメシアである文鮮明が必要であると述べ、ライフトレーニングに参加するよう説得するので、原告大倉は、参加を決めた。さらに、按田は、原告大倉に対 し、恐怖心ばかりを持たないで、前向きの姿勢 で、元気に学ぶ姿を霊界に見せなければならない旨述べた。 (イ) ライフトレーニングは、昭和62年10月15日から2週間、NSCで行われた。修練生 は、日中は学校や勤務先に行き、夕方から講義を受けた。原告大倉は、当初、通いで同トレーニングに参加するつもりであったが、講義が終わってもスタッフから食事等に誘われ、それから自宅に帰るのも大変なので、結局、NSCに2週間宿泊することになった。 (ウ) ライフトレーニングでは、これまでビデオで学んできた創造原理、堕落論、復帰原理等の講義があった。 (エ) 原告大倉は、救いのためには、カイン(部下ないし後輩)はアベル(上司ないし先輩)に従順に屈服すること、すなわち、原告大倉は、班長の言葉を忠実に守ることが必要である旨教えられた。 (オ) 原告大倉は、倉原の講義ビデオで、使命を知った人が使命を果たさないで霊界に行ってしまうと、先祖がバットを持って殴りつける旨の話を聞き、非常に霊界の恐怖を感じた。原告大倉は、ライフトレーニングのスタッフから、「あなたもこれに応えて氏族を救わなければならないんで す。」「あなたの堕落性本性を脱いで罪を清算するためにも、もう少し学んでみるべきだ。」とフォーデーズセミナーに参加するよう説得された。原告大倉は、自分が地獄に行かず、先祖の救いにつながるのであればと思い、フォーデーズセミナーに参加することにした。 (カ) Iは、原告大倉に対し、「今月の末、フォーデーズの予定と聞きました。いよいよですね。この時をどれ程待ち望んだことか。神様も霊界も大倉家先祖も本当に待ったことと思います。」と記載した手紙を送った。 エ フォーデーズセミナー (ア) 原告大倉は、昭和62年10月30日か ら、越谷セミナーハウスで行われたフォーデーズセミナーに参加した。Iは、フォーデーズセミナーに先立ち、「是非、神を意識し、父母様を意識し、背後の霊界を意識して、四日間、臨んでください。」と記載した手紙を送った。 (イ) 講義室には文鮮明の大きな肖像写真が掲げられ、修練生は、毎朝、同写真に向かってあいさつをさせられた。 (ウ) 1日目は、これまで学んできた創造原理及び堕落論の講義が行われた。 (エ) 2日目の講義では、人類始祖以来の原罪を払拭するには、メシアによる原罪の清算を受けなければならず、自分勝手な恋愛や結婚は許されず、メシアの認めた結婚でなければ救われないと教えられた。また、アダムノアやアブラハムの講義では、自分の最も愛するものや大切なものを神の前に捧げてこそ、神への信仰を立てることになる旨教えられた(イサク献祭)。さらに、モーセ路程やイエス路程の講義では、いかに人間が神に不信し、メシアに反逆してきたか、そしてその代価は死であるという話を聞かされ、実例を聖書の中から指摘され、神を信じないで自分の判断で行動すると救われず、神の「み旨」に従って行動しなければならないこと、すなわち、それを教えてくれる班長、講師等の指示には絶対従わなければならないと教えられた。 (オ) 3日目は、主の路程の講義が行われ、文鮮明の再臨主として歩んできた苦労話が語られ、夜には祈祷会が行われた。 (カ) 4日目には、現代の摂理の講義があり、文鮮明が世界を動かす指導者である旨教えられ、その内容のビデオ(甲A第25号証)を見た。 (キ) 原告大倉は、フォーデーズセミナーで講義を受けるうちに、文鮮明こそ再臨のメシアであると考えるようになっていき、フォーデーズセミナーの最後に行われた閉講式で、献身の誓いをし、家系の使命者として、被告の信者として信仰を持ち続けていくことや新生トレーニングに参加して勉強を続けることを考えていた。 (ク) そして、原告大倉は、昭和62年11月3日、フォーデーズセミナー終了後、他の参加者とともにNSCに戻ってウェルカムパーティーに参加し、新生トレーニングに参加することを改めて承諾した。 オ 新生トレーニング (ア) 原告大倉は、昭和62年11月初旬から、1か月間、開成寮というホームで行われた新生トレーニングに参加した。修練生は、同トレーニング期間中、開成寮に泊まり込み、そこから学校や勤務先に通い、昼休みには班長に報連相をした。就寝前には、今日1日、いかに神(文鮮明)の気持ちに近付くことができたかという証し会が行われ、文鮮明の心情に少しでも近付くように誓ったり、願ったりする祈祷が必要であると指示され た。原告大倉は、この指示に従い、祈祷するようになったが、原告大倉は、報連相や証し会で、その日1日の行動について、自分で良かれと判断してとった行動でも、サタンが働いた行為であるとして否定されたりした。 (イ) 初めは、創造原理、堕落論及び復帰原理の講義が行われたが、修練生は、ある日突然、多人数が行き交う上野駅の駅前で、被告の教義を大声で語らされた(路傍演説)。また、原告大倉は、梅山講師から、万物復帰とはお金を神(文鮮明)に返すことであり、自分だけでなく、購入者の救いにもなると教えられ、その実践として宝石展に友人、知人を電話で動員するよう指示され、かつて英会話教室で知り合った男性を宝石展に動員した。 原告大倉は、そのころから、日曜日の早朝に三拝敬礼式に参加し、お祈りをするようになった。 (ウ) 新生トレーニングの期間中、原告大倉は、睡眠不足のため、大学の講義やアルバイトに身を入れることができず、日中居眠りばかりをしていた。 (エ) 原告大倉は、新生トレーニングの中盤以 降、梅山講師の面接の際、実践トレーニングがあることを初めて聞いたが、実践を通してしか罪の清算をできないと考えるようになっていたため、同トレーニングに参加することとした。 カ 実践トレーニング (ア) 原告大倉は、昭和62年12月中旬から1か月間、北千住の一軒家のシャロームで行われた実践トレーニングに参加した。修練生は、その隣のマンションに寝泊まりし、朝拝の後、学校や勤務先に行き、夕方から講義を受講したり実践活動を行ったりした。就寝前には全体の祈祷会があった。 (イ) 平日の夜は、伝道の対象となる友人、知人をリストアップさせられ、班長と面接の上、電話でビデオセンターへの勧誘を行った。伝道の対象者がいないときは、午後9時ころから午後11時ころまで、ボランティア活動(1円缶募金)を装ってアパート等を訪問し、後日、ビデオセンターに勧誘するために住所と電話番号を聞き出した。 (ウ) 週末は、路傍伝道を行い、青年意識調査のアンケートと偽って通行人に声をかけ、ビデオセンターへの勧誘活動を行った。修練生は、約1時間ごとに班長のもとに集合し、班長に対して声をかけた人数やアンケート結果等を報告した。これが班長からホームにいる実践トレーニング隊長等に電話で伝えられ、これを聞いた隊長等からの叱咤激励が班長から修練生に伝えられた。目標を達成できないと、駅前を走るという罰が与えられることもあったし、終電の時間まで街頭に立ち続けたり、深夜にわたって訪問伝道をさせられることもあった。 (エ) 原告大倉は、マスコミ関係に就職する強い希望を有していたが、ライフトレーニング以降、再三にわたり、マスコミはサタンであるからこの希望を捨てるよう指導されていたため、マスコミ関係への就職を断念し、コンピューター会社への就職の内定をもらった。 キ 献身トレーニング (ア) 原告大倉は、昭和63年1月から、カレブ館というホームで行われた献身トレーニングに参加した。その内容は、訪問伝道及び路傍伝道の実践と展示会への客の動員活動がほとんどであっ た。 (イ) 同月中旬ころ、原告大倉は、仙台から上京してきた父に対し、統一協会(統一教会)という団体で勉強をしていることを告げ、このことを献身トレーニング隊長の林孝次に報告すると、無断で親に告白したことについてきつく叱られた。 (ウ) 同年2月、原告大倉は、家族に言われて実家に帰省することになったが、事前にスタッフから、被告の悪いうわさはサタンであるマスコミの作り話なので信じないようにすること、家族から反対を受けたら、反論せずに被告を脱会するとうそをつくこと(偽装脱会)、長期間の話し合いになったら、サタン側の人間から命がけで逃げて来ること等を指示された。原告大倉は、実家で、親族から被告の批判を聞かされたが、指示されたとおり偽装脱会し、コンピューター会社に就職すると言って東京に戻った。 (エ) 原告大倉が、東京に戻ってから、スタッフに対して帰省中の出来事を報告したところ、スタッフから、いったんコンピューター会社に就職 し、機会を見付けて献身するよう指示されたた め、原告大倉は、同年4月からコンピューター会社に勤務し、勤労青年として活動することとし た。同年3月、原告大倉は、再び実家で両親と話し合い、その際、東北学院大学の浅見定雄教授の話も聞いたが、既に被告を脱会した旨うそをついて東京に戻った。 ク 青年部 (ア) 原告大倉は、昭和63年4月、コンピューター会社に勤務を始め、自分で借りたアパートから通勤した。同年7月ころ、東東京ブロック第16支部の団長望月美代子から伝道活動に参加するよう指示され、週末は、ホーム(カレブ館)に泊まり込み、路傍伝道や訪問伝道等の活動を行うようになった。 (イ) 原告大倉は、同年10月、青年部実践隊の基台長(献身者スタッフと班長との橋渡し役)になるよう指示され、各基台(自己と4人の班員)ごとの伝道目標及び経済目標の全責任を負うことになった。そのころの原告大倉の生活は、午前5時30分に起床し、朝拝後朝食をとり、会社に出勤して定時で退社して帰宅すると、その後FF伝道や路傍伝道をした。そして、午後10時30分ころミーティングを行い、全体祈祷会の後、午前1時ころ就寝するという生活であり、原告大倉 は、慢性的に睡眠不足の状態にあった。また、伝道活動のほか、展示会に客を動員する活動も行った。あらかじめ動員目標が決められており、目標を達成できるまで、深夜に及んでまで電話をかけ続けた。 (ウ) 平成元年1月、原告大倉は、実践トレーニングの小隊長(修練生と信者スタッフの橋渡し 役)を指示され、同年8月からは青年部B教育部所属の信者として勤労青年の指導的立場になり、同年11月からは伝道実践を中心とする青年部実践隊に所属した。 ケ 献身 (ア) 平成元年8月上旬、原告大倉の母の姉の子であるEが21歳の若さで水難事故により死亡した。アベルは、原告大倉に対し、同人が献身して伝道実践等、神の「み旨」の責任を十分果たさなかったために氏族が打たれてしまったなどと説明した。また、鈴木マザーは、原告大倉の家族が統一協会(統一教会)に反対するから氏族が打たれたなどと述べた。原告大倉は、このままでは同人や他の氏族にも犠牲が出てしまうと感じ、恐怖を感じた。 (イ) 原告大倉は、当時コンピューター会社に勤務しつつ、勤務後午後5時30分ころから深夜まで、連日ビデオセンターへの誘い込みや展示会への動員活動に明け暮れ、平均睡眠時間は約4時間で、慢性的な睡眠不足の状態であった。 (ウ) 平成2年2月、原告大倉は、再び開成寮で行われた献身トレーニングに参加した。そして、原告大倉は、同トレーニングで、親に知られずにこっそり会社を辞めること、親に献身する旨告知し、その後親から行方をくらますことを指示された。原告大倉は、同月、会社に退職願を提出し、同年3月20日付けで退職した。さらに、親に内緒でアパートを退去した上、仙台の実家に突然出向き、玄関先で献身することだけを宣言して逃げ去った。 コ 献身後の活動 原告大倉は、献身後、次のとおりの活動に従事した。 (ア) 平成2年4月1日から、伝道機動隊に所属し、しんぜん会と称して、ボランティア団体を装いハンカチ売りや伝道活動をした。 売上目標金額が定められ、60分か90分ごとにホームに連絡し、隊長等の指示を受け、実績が上がらなければ叱責された。ホームに帰った後 は、その日の売上金額を報告し、集計がされた。 月初めの1、2日を除き、全く休日がなく、睡眠時間は1日平均3時間であった。39度以上の熱が出てふらふらしていても、風邪は神の願いにそった信仰生活を送っていないから悪霊がとりついたせいであると説明されるため休めず、街頭に出て伝道活動を行った。 (イ) 平成2年6月上旬、千葉修練所における 21日修練会に参加し、最後の1週間は万物復帰の実践として長野県内でお茶の販売活動をした。実績が出ない日が続くと、午前零時過ぎまで飲屋街をまわって訪問販売を続けた。 (ウ) 平成2年7月から、伝道機動隊の小隊長として、伝道活動の現場で隊員のまとめ役やホームへの電話報告等を担当した。 (エ) 平成2年9月には、研修隊隊長として路傍伝道を指揮する役になり、実際に伝道活動を行うことは少なくなった。 (オ) 平成2年10月には、実践トレーニングの班長として、修練生にビデオセンターへの誘い込みや展示会への動員の方法を指導した。さらに、ビデオセンターのトーカーとして、ビデオセンターに来たゲストにコース決定させる役割を与えられた。各トーカーのコース決定率は、団長からチェックされていた。 (カ) 平成2年11月からは、青年部実践隊隊長として、伝道活動を行う勤労青年を管理する役となった。 平成3年春、原告大倉の父の兄で、かつ母親の姉の夫であり、原告大倉が被告に関わることに強く反対していた叔父のOが、癌で死亡した。当時の田中青年部長は、原告大倉に対し、「打たれたんだ、ほらみろ。」と言った。そのため、原告大倉は、自分がメシアの指示に従って神の道を歩 み、大倉家を救う使命を果たさなければ、因縁の犠牲者はどんどん増えていくと思うに至った。 (キ) 平成3年7月には、献身トレーニングの班長をした。どのように修練生を献身させていくかを具体的に検討し、隊長に班員の状況の報告を し、路傍伝道のとりまとめをした。 (ク) 平成3年8月及び9月には、伝道機動隊の隊長をし、伝道活動の現場で、伝道の開始、休憩及び終了の指示を出すとともに、伝道活動や経済活動の目標を設定し、その達成の責任を負わされた。 (ケ) 平成3年10月には、ビデオセンター「サンソレイユ」の所長をした。 (コ) 平成3年11月から平成四年二月までの間は、ライフトレーニングの講師をした。 (サ) 平成4年3月には、献身トレーニングの班長をし、修練生の路傍伝道のまとめ役をした。 (シ) 平成4年4月から平成5年3月までの間 は、ライフトレーニングの講師をした。 (ス) 平成5年4月から同年6月までの間は、ビデオセンター「サンソレイユ」の所長になった。ツーデーズセミナーの参加決定率や献金額について、具体的に目標を定め、上部である青年支部のスタッフ会議に現状を報告した。 (セ) 平成5年7月からは、復活トレーニング (フォーデーズセミナー以後、様々な事情で次のステップに進めずにいた修練生に講義等を受けさせ、新生トレーニングに進ませるためのトレーニング)の講師をした。 (ソ) 平成5年10月には、新生トレーニングの進行をした。 (タ) 平成5年11月から平成六年一月までの間は、ライフトレーニングの講師をした。 (チ) 平成6年2月には、上級トレーニングの講師をした。 同年2月には、心情部において、ゲストに対して原理の講義をし、献金を決意するように仕向ける役をした(ゲストには、献金をさせた後、統一協会(統一教会)や文鮮明を明かした。)。 サ 合同結婚式への参加 平成4年7月、原告大倉は、同人が所属していた台東教会において文鮮明が選んだとされる相対者Kの写真を受け取った。原告大倉は、同年8月25日の合同結婚式の前後の約1週間、ソウルに滞在した。原告大倉は、Kと合同結婚式で初めて会ったが、どうしても同人を好きになれなかっ た。しかしながら、メシアが選んでくれた相手を断ると、救いの道は閉ざされ地獄に行くことになるとか、先祖から様々な攻撃を受け、病気になったり怪我をしたり又は死んだりすることになると信じていたので、好きにもなれないKと顔を合わせ、電話で話をし、同人から手紙を受け取るたびに絶望的な気持ちになった。 シ 還故郷 (ア) 原告大倉は、平成6年4月、還故郷(献身者がその所属部署から離れて親元に帰り、そこで両親や親族等を被告の信者にするために活動すること)を希望し、教会長と話し合いの上、強く慰留されたものの、許可が下り、同年5月18日、仙台に帰った。 (イ) その直前の平成6年5月9日、同人の母の妹の子が交通事故により重傷を負って入院した。原告大倉は、先祖の因縁のために次々と不幸が起こるのであり、自分が信者として尽力し、この因縁を解放する使命と責任があると感じた。 (ウ) 原告大倉は、仙台に帰った後、仙台教会に登録し、毎週日曜日の礼拝に参加しつつ、仙台市内の塾の講師の仕事を始めた。 (エ) 平成7年1月、原告大倉は、仙台市内をバイクで走行中、交通事故を起こし、軽傷を負っ た。原告大倉は、自分が教会活動より現実社会を優先するような生活をし始めていたため、霊界の先祖によって事故が引き起こされたものと考え、このまま教会活動から遠ざかると死ぬこともあるかもしれないと強い恐怖を感じた。そして、そのころから、仙台の青年部のスタッフとして仕事をするようになった。 ス 脱会 原告大倉は、平成8年2月、マンションの一室で両親等から脱会の説得を受け、同年6月、被告を脱会することを決意した。 以上の事実を認めることができ、同認定に反する乙第108号証及び証人Iの証言の各部分は、前掲各証拠に照らし、採用することはできない。 (2) 証拠(中略)及び弁論の全趣旨によれば、原告Tについて、次の事実を認めることができ る。 ア ビデオセンター(WING)(略) イ ツーデーズセミナー(略) ウ 月曜ゼミ及び中級講座ビデオの学習(略) エ スリーデーズセミナー(略) オ 献金 (ア) 平成3年6月25日、原告Tは、映画「ブラザーズサン・シスターズムーン」を見て、聖フランチェスカがすべてを捨てて信仰の道を歩む生き様に感動した。さらに、日本が朝鮮半島を植民地支配していた時代に、日本人が朝鮮半島の人たちに対してひどいことをしてきたという内容のビデオを見せられた。その上で、原告Tは、今泉から、同じ日本人として罪を償うために献金するよう言われた。その際、同席していた杉山も、自分も献金したいと言い、献金を勧めた。 原告Tは、同じ日本人としてできる事を考え、少しであれば献金して韓国で使ってほしいという気持ちになり、献金額等について杉山に相談しようと考え、翌26日の朝、その考えを綴った手紙を杉山に手渡した。杉山は、今泉に連絡し、同人に対して原告Tの上記手紙の内容を伝えた。 (イ) 同月26日、原告Tは、仕事が終わった 後、杉山とともにビデオセンターに行き、ビデオ「恨」を見た。同ビデオは、日本が朝鮮半島を植民地支配していた時代に、日本語の使用、神道崇拝、創氏改名を押し付けた等の内容であった。その上で、今泉は、原告Tに対し、祖父母から戦争時代の話を聞いたことはないかと質問した。原告Tは、既に亡くなった祖母が、痴呆症になった 後、よく「Wが朝鮮人に連れて行かれる。」と言っていたことを思い出し、これを今泉に伝えた。 今泉は、霊界の先祖が原告Tに救いを求めていて、原告Tにその使命があることを強調した。そして、今泉は、「あなたの先祖は罪の清算をしてくれるように望んでいますよ。」「献金をすることによって先祖が救われるのです。」などと原告Tに述べた。 さらに、今泉は、すべてを献金しなければ意味がない旨述べ、「お金や物的なものに執着する気持ちは邪心だ。」「そういう邪心を断ち切らないと罪の清算ができない。」「そうなると霊界に行ったときに地獄に行き、先祖から責められる。」などと執拗に述べた。 杉山も、自分も献金したことがある旨述べ、原告Tに献金するよう勧めた。結局、原告Tは、全財産を献金することに決め、今泉は、原告Tに対し、翌日献金するよう指示した。その日、原告Tは、帰宅後、杉山に宛てて「今日も1日、心の本心と邪心のなかで、ゆれ動いていたのが、ウイングで今泉先生の話を聞きながら、よし、と決まったとたん、心が軽くなりました。いかに自分がお金や物的に執着していたのか分かりました。」 「未練をたちきることによって始まる。出発点なのだと・・・いよいよこれから一歩踏み出したばかりです。一歩踏み出させて下さった親、杉山さんに感謝します。」との内容の手紙(乙第200号証の1)を書いた。 (ウ) 翌27日、原告Tは、昼休みに京橋にある当時の三菱銀行の支店に預金を下ろしに行き、杉山はこれに付き添った。原告Tは、同日夕方、ビデオセンターに100万円を持って行き、これを献金した。 (エ) 原告Tは、同月29日、佐賀県の実家に帰り、同年7月1日から同月5日まで、両親と北海道旅行した。原告Tは、同年6月30日、両親から、原告Tの叔父が、戦前に朝鮮半島に警察官として赴任していたことを初めて聞き、祖母が「Wが朝鮮人に連れて行かれる。」と言っていたの は、そのことで、朝鮮半島の人たちに何か負い目を感じていたからかもしれないと思った。 カ 初級トレーニング(略) キ フォーデーズセミナー(略) ク 実践トレーニング(略) ケ 献身(略) コ 献身後の活動(略) サ 合同結婚式への参加及び入籍 (ア) 原告Tは、平成4年8月25日に行われた合同結婚式に参加を希望したものの、相対者が決まらず、参加できなかった。 (イ) 平成6年5月、原告Tは、大田教会の六波羅教会長から、平成7年8月25日に予定されている合同結婚式に参加し、愛知県豊田市に住む男性信者と結婚するよう指示され、相手の男性の写真を渡された。写真の裏面には、相手の氏名、年齢、生年月日、血液型、身長、入教年月日及び所属教会が記載されていた。原告Tは、相手の男性と1回会い、2、3回手紙のやりとりをした。原告Tは、同人を、おとなしくて誠実そうな男性と感じ、このような相対者を選んでくれたことに感謝し、平成6年11月、中央アフリカ共和国に出発した。 (ウ) ところが、原告Tが日本に帰国した平成7年5月ころ、相対者の男性の様子がおかしいとの連絡があり、会いに行くと、同人は、以前会ったときとは別人のように髪が真っ白で、表情は暗 く、終始手や体を揺すっている状態であった。病院での診断の結果、精神病であることが判明し、原告Tの意思の確認のないまま、平林連隊長(大田教会の信者のトップ)により、この男性との祝福は破棄されることになった。 (エ) 合同結婚式直前の平成7年8月20日こ ろ、原告Tの祝福の相手として、韓国人の男性である金が指名された。同月23日、原告Tは、金と初めて会ったが、同人を相対者として受け入れることができないと思いながらも、同月24日の聖酒式、同月25日の合同結婚式に参加した。 (オ) その後、原告Tは、日本に帰国し、アルバイトをしながら祝福について悩んでいたが、同原告に韓国で活動する被告の信者であるNから、平成8年4月16日付けの手紙が届いた。同手紙には、金には原告Tが知らない色々な問題があり、原告Tにとって一生の問題であるから、話を聞きたいなら、アベルと相談の上、連絡を下さいとの内容であった。原告Tはアベルと相談の上、Nに電話をすると、同人から、金が重度のアルコール中毒であることを知らされ、ショックを受けた。 さらに、原告Tに、韓国の男性信者から電話があり、金は以前にも合同結婚式に参加の申込みをしたが、アルコール中毒であるために参加を拒否されたこと、金の家族がどうしても祝福を受けさせたいと考え、統一協会(統一教会)に多額の献金をすることによって平成7年8月25日の合同結婚式に参加できるようになったことを知らされ、更にショックを受けた。 原告Tは、合同結婚式は再臨のメシアによって原罪を拭い清められ、血統転換してもらう儀式であり、人類唯一の救いの道であると信じるようになっていたため、祝福による結婚を希望していたが、相対者について、上記のとおりの話を聞き、どうしても金を受け入れる気持ちにはなれず、悩み、苦しみ続けた。 (カ) 千葉教会の浅野家庭部長は、原告Tに対 し、金と入籍手続をとるよう指示し、原告Tはこの指示に従わざるを得ず、平成8年10月末こ ろ、婚姻届を提出した。しかしながら、原告Tの苦悩と混乱は一層深まり、胃潰瘍と十二指腸潰瘍を再発し、混乱状態の中、同年12月10日こ ろ、佐賀県の実家に帰省して約4か月間の通院治療を受けた。 シ 脱会等 (ア) 原告Tは、治療を続けながら家族と話し合い、牧師にアパートで会ったりして、これまで知らされなかった被告についての様々な情報にも接し、平成9年6月、被告を脱会することを決意した。 (イ) その後、原告Tは、福岡地方裁判所に、婚姻無効確認の訴えを提起したが、その係属中の平成12年11月13日、金は死亡したが、平成13年4月25日、婚姻の無効を確認する判決が言い渡され、同判決は確定した。 以上の事実を認めることができ、同認定に反する乙第105、第109号証、証人今泉及び同Cの各証言は、前掲各証拠に照らし、採用することはできない。 (2) 証拠(中略)及び弁論の全趣旨によれば、原告Mについて、次の事実を認めることができ る。 ア ビデオセンター(CAL)(略) イ ツーデーズセミナー(略) ウ ライフトレーニング(略) エ フォーデーズセミナー (ア) 原告Mは、昭和60年1月20日から、川崎市内の宮崎台修練所(その後宮崎台研修センターと改称)で行われたフォーデーズセミナーに参加した。 (イ) フォーデーズセミナーの講義は、創造原理からの復習であった。吉川均講師(以下「吉川講師」という。)は、創造原理の講義で、「皆さんは今真理に出会ったので、霊界に行くと先祖がとても喜んで、よくぞやってくれたと7日間お祝をするんですよ。」「もし真理を不信してメシアを信じられなかったりすると、霊界に行ったとき、先祖たちは、なぜお前は離れたかと石を投げつけて怒り狂うんですよ。」と言い、原告Mは恐くなった。堕落論の講義では、講師は黒板を叩き、足で教壇を踏みならしながら、「この堕落エバのせいで、全くこの世界は悲惨になった。」と訴え た。 (ウ) 世界情勢の講義では、吉川講師は、「今まさに世界は赤化されようとしています。原理に 出会った皆さんがそれを救わなければなりませ ん。」「今世界は武力戦で大戦になるか思想戦で大戦になるかの分岐点を迎えています。」「もし皆さんが失敗したら、第三次世界大戦は核戦争になります。」と激しく講義した。 (エ) また、吉川講師は、統一協会(統一教会)を批判するマスコミは、共産党に操られてうそをついており、サタンであるなどと述べ、原告Mは、そのような話を聞いているうちに、一生懸命になってくれるスタッフとともに勉強することが批判されるのはおかしいと思うようになり、また、血統の汚れた自分たちだけど、文鮮明に出会ったことでそれが解決すると思うようになった。 (オ) 原告Mは、フォーデーズセミナーの後半 に、新生トレーニングへの参加を決めた。最後の日、原告Mは、献身の誓いをさせられ、混乱と恐怖感で泣き続けた。 オ 新生トレーニング(略) カ 学生部及び教育部での活動(略) キ 献身 原告Mは、昭和61年4月、大学を卒業すると同時に、家族の反対を押し切って献身した。原告Mは、それまでに原理の道を離れると、霊界で先祖に讒訴されるとか、死後、霊界の地獄で苦しむことになるなどと言われていたため、卒業したら献身するしかないと思うようになっていた。 ク 献身後の活動(略) ケ 合同結婚式への参加 (ア) 平成4年7月末、原告Mは、台東教会で、祝福の相手としてZを指名され、写真を渡された。Zは、当時、セイロンジャパンのシンガポール支店に勤務していた。 (イ) 原告Mは、当時、祝福を受けないと、死後霊界の低い位置で苦しみ、先祖から責められて石を投げられると教えられていた。 (ウ) 原告Mは、Zと電話であいさつをしただけで、同年8月22日、合同結婚式に参加するために渡韓し、そこで初めてZと会った。原告Mは、結婚式及び聖酒式を終え、同月28日、日本に帰国した。 (エ) 平成5年1月及び同年7月、原告Mは、シンガポールから一時帰国したZと会った。 コ 世界宣教への派遣 (ア) 平成6年1月、原告Mは、済州島での2週間の修練会に参加した。そこで文鮮明から、1600名の女性信者を世界宣教に派遣する方針を告げられ、原告Mは、そのメンバーになり、任地はくじによりラオスと決まった。 (イ) 原告Mは、世界宣教に出発する前、Zの実家に行き、原告Mの家族が原告Mを被告から脱会させようとする動きをした場合に備え、婚姻届に署名押印し、Zにこれを預けた。原告Mは、平成6年6月、世界宣教に出発し、タイのバンコクを経由してラオスに入国した。 (ウ) 原告Mは、平成7年2月20日ころ、5日間ほど日本に帰国し、祝福家庭を出発するため、Zとともに家庭修練会に参加した。 (エ) その後、原告Mはバンコクへ戻りラオスに渡ったが、平成7年4月20日ころ、ラオスの ヴィエンチャンに滞在していたとき、赤痢になってしまい、高熱と激しい腹痛を伴う下痢に襲われた。偶然知り合った日本人の夫婦から、赤痢に違いないと言われ、急いで薬と治療方法を教えてもらい、一命をとりとめることができた。その後Zは、原告Mに会うため、3回ほどバンコクまで来た。 (オ) 原告Mは、平成7年7月13日、日本に帰国し、同月18日までの間、Zと埼玉県内のアパートで暮らした。 サ 脱会等 (ア) 原告Mは、同月19日、家族から結婚の許可を得るため、実家に帰った。その際、両親からとことん話をしようと言われ、これに応じる気になった。そして、平成8年2月、被告のでたらめさや自分が今までやらされていたことの実態が分かり、被告を正式に脱会した。 (イ) Zは、平成7年7月22日、預かっていた前記婚姻届を提出した。原告Mは、これを知り、浦和家庭裁判所に対し、平成9年1月31日、婚姻無効の審判を申し立て、同年3月26日、婚姻無効の審判があり、同審判は、同年4月10日に確定した。 以上の事実を認めることができ、同認定に反する乙第107、第112号証、証人S及び同Yの各証言は、前掲各証拠に照らし、採用することはできない。 |
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事実及び理由 3 争点(3)(被侵害利益、違法性)について (1) 一般に、宗教を広めるために勧誘・教化する行為、勧誘・教化された信者を各種の活動に従事させたり、献金させたりする行為は、それが社会的に正当な目的に基づいており、方法、結果が社会通念に照らして相当である限り、宗教法人の正当な宗教活動の範囲内にあるものと認めるのが相当である。しかしながら、これに反し、当該行為が、目的、方法、結果から見て社会的に相当な範囲を逸脱しているような場合には、違法であるとの評価を受けるものというべきである。 (1) 勧誘・教化行為の違法性について ア まず、原告らに対する一連の勧誘・教化行為の方法について検討する。 (ア) 原告大倉に対する勧誘・教化行為の方法 は、前記2(1)に認定したとおりである。これを要するに、 a 原告大倉は、Iから自己啓発サークルであるとの説明を受けてビデオセンター(NCF)に入会し、特定の宗教団体の教義であるとは気付かないまま被告の教義を学習し、霊界や悪霊の存在を徐々に意識するようになっていったが、入会の約3か月後、ワンデーセミナーに参加し、そこ で、被告の名称や伝道目的を知るに至り、この時点で、ビデオセンター等から遠ざかることを決意した。 b しかしながら、その後、ビデオセンターのスタッフは、原告大倉をビデオセンターにつなぎ止める目的で、原告大倉から特に要請がなかったにもかかわらず、原告大倉の家族や先祖の病歴や不幸な歴史を聞き出し、いずれ原告大倉の家族にも不幸が訪れるなどと述べ、ビデオセンターで徐々に霊界や悪霊の話が植え付けられていることを利用して、その心理的弱みにつけ込み、次のセミナーに参加することを勧め、その後のセミナー及びトレーニングで、原告大倉には氏族を救う使命があり、使命を知った者がこれを果たさないと、先祖が救われず不幸な出来事が家族や親族に次々と起こるだけでなく、死後霊界の地獄で先祖に責められるなどと教え、原告大倉を被告の教義から離脱することを困難な精神状態にさせ、平成元年8月、原告大倉のいとこのEが21歳の若さで水難事故で死亡した際には、鈴木マザーが、死亡の原因は、原告大倉の家族が統一協会(統一教会)に反対するからであるなどと述べ、原告大倉の不安を更にあおって献身に至らしめた。 c さらに、セミナー及びトレーニングの講師等は、救いを求める心情をあおられた原告大倉に対し、救いの条件として、カイン(部下ないし後輩)はアベル(上司ないし先輩)の指示に絶対服従しなければならないなどと教え、また、原告大倉の判断に基づく行動をサタンが働いたなどと述べ、同原告に対し、自己の判断で行動することを許さなかった。 (イ) 原告Tに対する勧誘・教化行為の方法は、前記2(2)に認定したとおりである。これを要するに、 a 原告Tは、自己の生き方に悩んでいたところ、Cからビデオセンターで人生について学べると説明され、ビデオセンターに行ったところ、姓名判断で転換期を迎えているなどと言い当てら れ、ビデオセンターに入会することを決めた。 b そして、ツーデーズセミナーの後、ビデオ講座で、低い霊界に行った先祖の協助があると不幸な出来事が起こること、先祖の願いに応えないと先祖の救いが絶たれ、霊界で先祖から責められるといった教えを受け、職場の人間関係で行き詰まっていたことと先祖の協助を結び付け、自己が先祖を救う立場にあることを意識するようになったころ、ビデオセンターのスタッフから、日本の朝鮮半島の植民地支配時代の行為について罪悪感を持たされ、その後、自己の叔父が朝鮮半島で警察官をしていたことを知ったため、先祖の罪を具体的に意識させられた。 c また、初級トレーニングでは、自己の罪を意識するように言われ、徹底的にメシアの心情と自己の罪を理解しようと努め、自己の罪深さを実感するようになっていった。また、アベル(上司ないし先輩)に絶対服従するように教えられ、班長にその日1日の出来事を報告し、それが神様に近い出来事であったのか又はサタンが働いたものだったかを教えられた。 d フォーデーズセミナーのころになり、原理を知ってその道を行かなければ、知らないでその道を行かない人よりもっとひどい地獄に堕ち、先祖、子孫ともに苦しみ続けるなどと言われ、被告の教義から離脱することが困難な状態となり、献身するに至った。 (ウ) 原告Mに対する勧誘・教化行為の方法は、前記2(3)に認定したとおりである。これを要するに、 a 原告Mは、ビデオセンター及びツーデーズセミナーにおいて堕落論を学習し、自己の堕落性を強調され、このまま神の願わない自分勝手な結婚をすると、罪が子に遺伝すると教えられ、不安な気持ちにさせられたが、自分が罪を解決する方法についてはその場で教えてもらえず、これを知るには次のライフトレーニングに参加せざるを得ないという気持ちにさせられてライフトレーニングに参加し、そこで、被告の名称や伝道目的を知らされた。 b 上記の時点で、原告Mは、被告に対する抵抗感を感じたものの、スタッフから、仮に今まで学んできたことが真理であったら大変なことになると言われて不安に思い、その後のセミナー等にも参加したが、そのうち、原理の道を知った者が原理の道を離れると、原理の道を知らない者より罪が重くなり、死後、霊界で苦しむなどと言われるようになって、被告の教義から離脱することが困難な状態になり、献身に至った。 c また、その過程で、スタッフは、原告Mに対し、堕落エバなどと呼んで度々叱りつけ、堕落人間であることを強く意識させ、その判断に自信をなくすようにし向けた。 イ 次に、原告らに対する一連の勧誘・教化行為の目的について検討する。 (ア) 上記目的が被告の新規信者の獲得にあることは自明であるが、甲第29、第34、第48、第73及び第206号証によれば、被告の献身信者の間では、伝道に当たり、被告の教義とは直接関係がなく、かつ、本人の求めがないのに姓名判断をし、今が転換期であるなどといった話をしたり、家系図に基づく因縁話をしたりすることがマニュアル化されていることが認められる。すなわち、被告の信者らの伝道活動は、純粋に被告の教義を広めることを目的としたものではなく、相手方を畏怖困惑させ、それによって被告の教義からの離脱を困難にすることに主眼を置いていたものといわざるを得ない。 (イ) そして、前記1(2)及び2(1)ないし(3)に認定したとおり、一連の勧誘・教化行為によって献身に至った信者は、被告の新規信者獲得のために伝道活動を行うほか、その教義とは直接関係がない商品(ハンカチ、茶、宝石、珍味、印鑑等)の販売行為に従事させられるところ、その活動には厳しい達成目標が課せられており、信者の努力よりも実績を重視する実績至上主義が採用されてお り、献身信者に対して上記活動に見合う対価の支払はなく、売上金の使途が信者に明らかにされているものとも認められない。また、後記(4)アに認定したとおり、被告の信者が被告の教義上原罪から解放される唯一の手段である祝福に参加するには、140万円という多額の感謝献金をすることが条件となっていた。 (ウ) また、甲第91、第120及び第207号証によれば、伝道の対象者からは、実践メンバーとしてやっていけない者、身体の不自由な者、病人、時間のない者を排除するよう指導されていたことが認められるのであり、被告の新規信者獲得のための伝道活動は、純粋に宗教上の目的に出たものであるかどうかは疑わしく、献身後、過酷な伝道活動や物品販売活動に従事できる者を獲得することにあったものと推認することができるのである。 (エ) 以上によれば、原告らに対する勧誘・教化行為は、原告らに献金及び無償で物品販売活動等を行わせること及びそのような行為をする被告の信者を再生産することによって、経済的利益を上げることもその目的であったものと推認するのが相当である。 ウ 以上の判示によれば、上記勧誘・教化行為は、前記イ認定の不当な目的で行われていたにもかかわらず、原告らに対しては、その不当な目的を秘匿したまま、先祖の因縁話をしたり、霊界の先祖からの働きかけや自己の罪深さを意識させるなどして不安をあおり、それによって、次の教化プログラムに進ませ、ある程度被告の教義を教え込んだ時点で、被告の教義を知った者がこれから離れると、より罪が重くなり、死後霊界で低い場所に行って苦しむとか、先祖の救いの道が絶た れ、霊界で先祖に讒訴されるなどと述べ、被告の教義から離脱することを困難な精神状態にしたものというべきである。さらに、その過程では、原告らが、堕落人間であることを意識させられ、救いを求める心情をかきたてられているのを利用して、救いのためには堕落人間である自分が自己の判断で行動することは許されず、アベルの指示に絶対服従しなければならないなどと指導し、その上、原告らの考えや行動をサタンの働きであるとか堕落エバなどと述べ、また、被告に反対する意見をサタンであるなどと述べ、これに耳を傾けさせず、結果として、原告らの自由意思を阻害しているものといわざるを得ない。 エ(ア) 被告は、統一原理における地獄観は恐怖心を抱かせるものではなく、被告の信者は、恐怖心から被告の教化プログラムを受け、入教に至ったわけではない旨主張し、これに沿う証拠とし て、乙第107ないし第109、第111号証、証人太田等、同C、同I、同岡村信男及び同Sの各証言がある。しかしながら、 a 甲第2号証によれば、文鮮明のみ言とし て、「あなたがたが失敗したら救いがない。失敗したらそれ程低い霊界に落ちていって救いがない・・・あなたがたが勝手に離れた場合、先祖が70代までもひっかかるのである。」「今後もし失敗したらその悲惨さはあなた達には決して分らない。これは実に悲惨なものである。・・・創造のアダム・エバが堕落した地獄より以上の恐ろしい所である。」「今からは霊界で見るのは誰の血統が一番清い血統を維持するか、ということであ り、今からその競争である。」というものがあることが認められる。 b 甲第3号証によれば、文鮮明が、昭和57年3月13日、「下降して行き着く先はどこですか、地獄です。統一教会に入ってきた後で、何かほかに良いものを求めて教会を去って行く人は、必ずいずれはみじめな立場にならざるを得ませ ん。その意味で統一教会というところは恐ろしい所です。ここではどっちつかずの生ぬるい立場は許されません。」と語ったことが認められる。 c 甲第8号証によれば、被告の発行する「信仰と生活」に、「皆さんがこの統一教会に来て、これこそ真実の道であると分かったら、如何なる苦労をしても、この道に連れて来てあげねばならない。もし、それをしなかったら、霊界に行っ て、何だこんな素晴らしい所に来られるのに、愛するお父さんや、お母さんを何故、放っておいて地獄に行かせたのだと讒訴されるよ。」という記載があることが認められる。 d 甲第15号証の二によれば、文鮮明が、平成5年8月1日、「霊界に行った時、地上でいかにできのよい人であっても他の人の世話になり、受けることを好み、与えることを嫌がる人は皆、真っ暗な地獄に行くのです。統一教会の人たちの中にも、「私は教会の世話になります」と言う人は、地獄一番底へ行かなければなりません。「私は統一教会のプラスになります。先生の手助けをします」と言う人たちは、先生と共に高い所に行くのです。」と語ったことが認められる。 e 甲第21号証によれば、文鮮明は、平成6年1月21日、「統一教会に反対する者はみな、霊界に連れていくのです。不思議です。韓国においても卓明煥氏が死にました。政界において、先生の指示を無視して政党をつくろうとした者も、同じ日に死にました。恐ろしいことです。」と語ったことが認められる。 f 甲第26号証によれば、信者の間で使用されていた伝道マニュアルに、「特に親戚と親友を伝道しなければあの世に行ってから彼らのざん訴を免れる事は出来ない。」と記載されていることが認められる。 g 甲第92号証の2によれば、かつて被告の信者であった菊池俊江は、自分は氏族のメシアとしての使命があり、これを放棄したら地獄にいる先祖は救われないし、自分も地獄に行って、先祖から救いの道を閉ざしたことを責められ、攻撃されると教えられていたことが認められる。 h 甲第146号証によれば、被告は、地獄は暗くて悪臭が漂い、つらさ、ねたみ、嫉妬、不便なものがあまりにも多く、そこでは何事も思い通りにならず、自由に呼吸することさえできないこと、地獄は地上で犯した罪悪の姿を最悪に表現して生きていく所で、物質に目がくらんだ者は何かを食べ続け、腹が破裂して、はらわたがはみだしているにもかかわらず、それでも食べ続けているなどといった地獄の悲惨さを強調した上で、先祖は、地上にいる子孫の協助がなければ霊界で永遠にその罰を受けなければならない旨教えていることが認められる。 i 甲第225号証によれば、文鮮明が、その執筆した本に、「地獄という所は、一度はまれば永遠に抜け出せない所です。それでも、皆さんは自分のお父さん、お母さん、そして親戚が地獄に行くということを実感できません。ただ「どうにかなるだろう」と思って、それでおしまいです。しかし、愛する父母が本当に地獄に行くと考えてみなさい。この世の監獄にさえ入るとなると、泣いたりわめいたりしながらありとあらゆることをしてでも引っ張り出そうとするのが人情であるならば、まして天情によって結ばれた息子、娘が、自らの父母と親戚、兄弟と姉妹が永遠に出てくることのできない監獄に行くということを知れば、そのような考えをするのでしょうか。」と記載したことが認められる。 以上によれば、被告は、信者に対し、地獄の恐怖と先祖の苦しみを強調し、信者は、子孫として先祖を救う使命があり、被告の教義を捨ててその使命を放棄した場合の恐怖と罪悪感を教えているものと認めることができ、前記被告の主張は採用できない。 (イ)a 被告は、原告らはアベル・カインの教義を曲解しており、同教義は、アベルはカインを愛してカインのために尽くし、愛の実践と人格によってカインを自然屈服させるのがアベルの正道であるという教えであって、アベルとしての権威や立場を振りかざして屈従的な意味での追従や屈服を強制的に強いる教えではない旨主張し、これに沿う証拠として、乙第20、第21、第107ないし第109、第111号証、証人太田等、同 C、同I及び同岡村信男の各証言がある。 b しかしながら、甲第112号証によれば、原告大倉は、ライフトレーニングにおいて、(a)カインは神の立場に立ってアベルを愛し、(b)カインはアベルを仲保として神の愛を受け、(c)カインはアベルに従順に屈服し、(d)カインはアベルより善のみ言を受けて善を繁殖することが堕落性を脱ぐための蕩減条件である旨教えられたことが認め られ、同趣旨のことは信仰生活マニュアル(甲 第51号証)、魚谷俊輔の講義テキスト(乙第 217号証)及び原理講論4日間用講義案(乙第222号証)にも記載されていることが認められるところ、被告の主張するようなアベル・カインの教義解釈については、原告大倉は講義ノート に書き残しておらず、上記甲第51号証、乙第217号証及び第222号証にも記載されていないことが認められる(なお、甲第51号証には、アベルの立場として「カインのために犠牲にな る。」との記載や「アベルはカインの為にカインはアベルの為に助け祈り合おう。」と被告の主張に沿うかのような記載はあるが、アベルがカインに屈従的な屈服を強いることを戒める内容ではなく、上記認定を妨げるには足りない。)。 c さらに、甲第6号証及び第8号証によれば、被告の発行する刊行物である御旨の道第1集(甲第6号証)には、「命令に従順でありなさ い。たとえその命令が正しくなくても従順であってみなさい。そうしたら、その命令を守ることによってその権限を代行するようになる。」「神様は歴史的な従順な者を探しておられる。それ故、命令に従順なる者とより大きい命令を待機する者になろう。」との記載があり、同じく被告発行の信仰と生活(甲第8号証)には、「それだから心霊を管理するには絶対不平不満は禁止です。」 「カインとアベルはどういうものかわかっていますか?絶対に天の道に立ってカインが、夜でも昼でもいかなる命令をされようとも、その命令に従って100%行動せよ。」「中心者に侍る生活を通して、天国と地獄は分立することを知ろう。」「毎日報告し、中心とつながる生活をしよう。」など原告らの理解に沿う記載があることが認められ る。 d また、甲第121号証によれば、フンジンからの12の指示事項には、「真の父母に対する絶対的信仰が必要です。絶対に、疑ったり、カイン的になってはいけません。」「中心との一体化が必要です。中心はオモチャではありません。真の父母には尽くすが、中心には尽くさない人は偽善者です。」との条項があることが認められる。 e 以上によれば、献身信者の間で、被告の主張するようなアベル・カインの教義解釈が一般的なものであったものとは認めることはできず、信者は、アベル(上司ないし先輩)に従順に屈服すべきものであると教えられていたものと認めるのが相当である。 (ウ) 以上のとおり、原告らは、被告の教義を捨てると救いの道が絶たれ、それに伴う霊界での苦しみに対する恐怖等から、被告の教義を捨てることが困難な精神状態になったものというべきである。そして、このように、教義からの離脱自体が罪であるという教義を内包している場合には、その教義に深入りすればする程、教義からの離脱が心理的に困難になるのであるから、その教化の方法には、相手方の信教の自由に対する慎重な配慮が求められるというべきであるところ、そもそも、原告らが、被告の教義に深入りしていくようになったのは、先祖の因縁、霊界の先祖からの働きかけ及び自己の罪の遺伝等について恐怖心をあおられ、次の教化プログラムに進まざるを得ない心境にさせられたからであるというべきである。このような非科学的な超自然的な現象についての話は、科学的・論理的な検証が不可能であって、個人差はあっても、これを聞いて漠然とした不安を抱くことになる者がいるのは明らかであり、その上で自分や家族の具体的な事実と結び付けられると、恐怖を感じることは避けられないのであるから、上記のような教義に深入りさせる方法としては、相当性を欠くものといわざるを得ない。 (エ) さらに、原告らは、上記の理由で、被告の教義に深入りせざるを得なくなっているが、その過程では、自己が堕落人間であることを繰り返し教えられ、救いを求める心情をかきたてられている。このような状態を利用し、救いのためには堕落人間である自分が自己の判断で行動することは許されず、アベルの指示に絶対服従しなければならないなどと指導し、また、原告らの考えや行動を、サタンの働きであるとか、堕落エバなどと否定したり、被告に反対する意見をサタンであるなどと述べてこれに耳を傾けさせなかったことは、勧誘される者の信教の自由の前提となる自由意思に基づく判断の形成を阻害するものというべきものである。 オ したがって、以上によれば、上記判示の原告らに対する勧誘・教化行為は、不当な目的に基づく社会的相当性を逸脱した方法で、結果として原告らの自由意思を阻害しているものといわざるを得ず、原告らの信教の自由を侵害する違法な行為というべきである。 (3) 献金強要の違法性について ア 今泉が、原告Tに献金をさせた方法は、前記2(2)オに認定したとおりである。すなわち、平成3年6月25日、今泉は、原告Tに、日本が朝鮮半島を植民地支配していた時代のビデオを見せ、原告Tに対し、同じ日本人としての罪悪感を持たせて献金を勧め、少額であれば献金してもよいという気持ちにさせ、翌26日、今泉は、再度ビデオ「恨」を見せ、原告Tの罪悪感を更にあおった上、霊界の先祖が救いを求めている旨話を し、献金によって罪を清算するよう述べ、さら に、お金に執着する気持ちは邪心であるなどと言い、原告Tの預金全額を献金するよう要求し、献金の日を翌日と指定し、100万円を献金させ た。 イ また、前記2(2)オに認定した事実によれ ば、(ア)今泉が原告Tに見せたビデオは、被告の教義とは直接関係ないものであり、受講生の誰もがビデオセンターで見せられるわけではなく、原告Tも特に視聴を希望したものということはでき ず、(イ)それまで献金の意向を持っていなかった原告Tが、同日中に献金を考え始めており、ウ原告Tがビデオセンターに初めて行ったとき、アンケートで預金額を回答させられていたものということができるのであって、以上によれば、今泉の前記行動の目的が、原告Tに献金を決意させることだけにあったことは明らかである。 ウ しかも、前記2(2)オに認定したとおり、今泉の説得の方法は、原告Tがもともと献金の意向を持っていたわけでもないのに、ビデオによって日本人としての罪悪感をあおり、先祖の救いが献金にかかっているかのような発言をして原告Tを困惑させるものである上、執拗であって、また、原告Tの預金全額という不相当に高額な献金をするについて、熟慮の余地を与えず、即断を迫っているものであり、その結果として、原告Tは、100万円を献金してしまっている。 エ 以上によれば、今泉の原告Tに対する献金説得行為は、その目的、方法及び結果において、社会的に相当な行為であるとはいうことはでき ず、違法というべきである。 (4) 合同結婚式への参加強要の違法性について ア 証拠(甲第2、第5、第6、第11、第96、第142、第143号証、第145号証の2、第147号証、第150号証の2、第170、第225号証)及び弁論の全趣旨によれば、合同結婚式について、次の事実を認めることができる。 (ア) 合同結婚式とは、被告の教義に基づく結婚を指し、祝福とも呼ばれ、被告の教義上、人間がアダムとエバから受け継いだ原罪から解放され、救済が実現する唯一の方法であるとされている。 (イ) 被告の信者は、氏族のメシアとして血統を転換する使命がある旨教えられる。 (ウ) メシアによって祝福されていない夫婦関係や結婚しないことは、ともに被告の教義に反するとされ、メシアによる結婚以外は罪の繁殖であ り、メシアによる結婚のみが原罪からの解放となるなどと言われていた。 (エ) 祝福の相手方は、相対者と呼ばれるが、相対者は文鮮明によって選ばれ、信者が自由に選ぶことはできない。 (オ) 祝福を受ける条件として、霊の子が3人いること等の条件があるが、時期等によって若干異なる。また、祝福に参加するには、140万円の感謝献金をすることが必要とされる。したがっ て、被告の信者は祝福を受けることを目標に、伝道活動や経済活動に励むことになる。 (カ) 合同結婚式に参加した後も、すぐに婚姻届を提出し、同居するわけではなく、聖別期間として少なくとも3年以上の別居期間が必要とされている。 イ 被告は、メシアの選んだ相対者を断ることも可能であった旨主張する。しかしながら、 (ア) 本件全証拠によっても、信者が文鮮明の選んだ相対者を断った場合、次の祝福を受ける機会が保障されていたものとは認めることはできず、信者としては自己や先祖の救いの道が永久に閉ざされることになると考えざるを得ない上、前記(2)ウ(ウ)認定のとおり、勧誘・教化行為の過程で教え込まれたカイン・アベルの教義により、文鮮明の選んだ相対者を自己の意思で断ることが困難な精神状態に置かれていたものというべきである。 (イ) また、甲第2、第11、第21及び第143号証によれば、文鮮明のみ言には、上記被告の主張に反するものがあることが認められる。すなわち、甲第2号証(御言選集)によれば、「だから相対がなかった場合は祝福を受けることはできないことを思えば感謝しなければならない。・・・だから旦那さんが目玉がなくても、鼻がなくてもそれが問題ではない。」との記載があることが認められ、甲第11号証(祝福)によれば、文鮮明が、「統一教会の祝福を与えようとするのに、それを嫌がって受けなければ、霊界に行って問題になります。」と語ったことが、甲第21号証 (女の道)によれば、文鮮明が、「祝福を受けて不満を抱いた人もいますが、祝福を受けなければもっと悪くなるのです。・・・女性であればいいのです。その女性も、一番大きい女性、黒人で馬のような女性を、自分は最も愛する相対(妻)として愛することができるかという訓練です。真の父になるためには、自分の相対(妻)に対して、「いや」という言葉を残すことはできないので す。」と語ったことがそれぞれ認められる。ま た、甲第143号証(ファミリー)によれば、文鮮明のみ言に、「自分好みで女性を嫁にする立場はない。神がその人を与えてくださる。それが創造原理です」「祝福を簡単に思ってはいけない。相対者を気持ち悪いとかいえる立場ではない」というものがあることが認められる。 (ウ) そして、甲第145号証の2によれば、Sは、原告Mに対し、祝福を受けさせてもらえるのであれば辞退してはいけないこと、どんなに辞退の理由が謙虚であっても、天が与えたいのに辞退したら、「けった」のと同じことになることを手紙で注意していることが認められるのであり、被告の信者の間では、合同結婚式への参加を断る自由があるという理解はなかったものと認められる。 (エ) 以上によれば、信者には、文鮮明の選んだ相対者を断る自由はなかったものというべきである。 ウ そして、原告らは、前記(2)に判示した違法な方法、目的により、自己の罪を強く意識させられ、救いを求める心情をかきたてられた上、その教化プログラムの中で、上記ア及び前記2(1)ないし(3)に認定したとおり、合同結婚式が、アダムとエバから受け継いだ原罪から解放される唯一の方法であり、合同結婚式に参加しなければ自己や 先祖の救いがない旨教えられ、信じさせられていたものということができる。 エ 以上の判示によれば、原告らに対する合同結婚式への参加に向けられた各行為には、原告らの婚姻の自由を侵害する違法があるものというべきである。 |
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事実及び理由 4 争点(4)(責任原因)について 前記1に認定したとおり、原告らに対する各行為に携わった信者の活動は、被告の活動として明示的(少なくとも黙示的)に許容され、被告の実質的指揮監督下に置かれていたものと認められ、かつ、同各行為は、被告の教義の伝道及びそれに基づく実践活動の場で行われたものであるから、被告の事業の執行についてなされたものということができる。 したがって、被告は、前記2及び3に認定した原告らに対する違法行為について、民法715条1項に基づき責任を負うものというべきである (民法715条1項に基づく責任があると判断される以上、民法709条に基づく請求については判断する必要はない。)。 5 争点(5)(損害)について (1) 原告大倉について ア 勧誘・教化行為等による損害 原告大倉は、前記2(1)に認定したとおり、勧誘から脱会までの間、被告の教義から離脱することに不安や恐怖を感じさせられ、献身後は、平成2年4月から平成8年2月までの間、過酷な経済活動や伝道活動に従事して労役の提供を余儀なくされ、さらに、献身するために勤務先の会社をやめることを余儀なくされるなど献身期間中、従前の人間関係や社会生活等を破壊された。 以上の判示及び前記2(1)に認定した諸事実によれば、原告大倉は、違法な勧誘・教化行為及びその後の組織的活動への従事により、相当の精神的苦痛を被ったものということができ、これを慰謝するには、200万円の慰謝料の支払を命ずるのが相当である。 イ 合同結婚式への参加強要等による損害 原告大倉は、前記2(1)に認定したとおり、相対者としてKを指定され、合同結婚式に参加したものの、どうしても同人と結婚する気持ちにはなれずにいたが、文鮮明の選んだ相対者を断ると、自己や先祖の救いの道が閉ざされ、病気や怪我をしたり又は死んだりすることになるとか、死後地獄に行くことになるなどと思って苦悩し、相当の精神的苦痛を被った。 上記精神的苦痛を慰謝するには、20万円の慰謝料の支払を命ずるのが相当である。 ウ 弁護士費用 本件事案の性質、内容、審理の経緯等に照ら し、違法行為と相当因果関係に立つ弁護士費用は20万円が相当である。 エ よって、被告は、原告大倉に対し、損害賠償金240万円及びこれに対する不法行為の後である平成8年5月1日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払義務を負う。 (2) 原告Tについて ア 勧誘・教化行為等による損害 原告Tは、前記2(2)に認定したとおり、 (ア) 勧誘から脱会までの間、被告の教義から離脱することに不安や恐怖を感じさせられ、献身後は、平成3年10月から平成8年12月までの間、過酷な経済活動や伝道活動に従事して労役の提供を余儀なくされ、 (イ) その間には、特に過酷なマイクロ隊での活動に従事したほか、海外宣教として中央アフリカ共和国に派遣され、言葉の通じない外国で、慣れない生活を送らされ、 (ウ) さらに、献身のためにアルバイトをやめることを余儀なくされ、献身期間中は、家族から直接連絡をとることができなくなるなど、従前の人間関係や社会生活等を破壊された。 以上の判示及び前記2(2)に認定した諸事実によれば、原告Tは、違法な勧誘・教化行為及びその後の組織的活動への従事により、相当の精神的苦痛を被ったものということができ、これを慰謝するには、200万円の慰謝料の支払を命ずるのが相当である。 イ 献金強要による損害 前記2(2)に認定した事実及び前記3(3)の判示によれば、原告Tは、献金相当額100万円の損害を被ったものということができる。 ウ 合同結婚式への参加強要等による損害 原告Tは、前記2(2)に認定したとおり、 (ア) 相対者として金を指定され、合同結婚式に参加したものの、同人が重度のアルコール中毒 で、以前合同結婚式への参加を拒否されたことがあり、金が平成7年8月25日の合同結婚式に参加できたのは、同人の家族がどうしても祝福を受けさせたいと思い、統一協会(統一教会)に多額の献金をしたからであることを知り、同人を結婚相手として受け入れることはできないと感じたが、 (イ) メシアの選んだ相対者を断ると、救いの道が閉ざされ、先祖とともに地獄で苦しむことになるなどと思い、苦悩し、 (ウ) さらに、婚姻届出の手続をするよう指示され、これに従ったため、婚姻無効確認の訴えを提起する労力を余儀なくされた。 上記精神的苦痛を慰謝するには、40万円の慰謝料の支払を命ずるのが相当である。なお、上記訴えについての手続費用については、これを認めるに足りる的確な証拠はない。 エ 弁護士費用 本件事案の性質、内容、審理の経緯等に照ら し、被告の違法行為と相当因果関係に立つ弁護士費用は30万円が相当と判断する。 オ よって、被告は、原告Tに対し、損害賠償金370万円及びこれに対する不法行為の後である平成9年6月20日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払義務を負う。 (3) 原告Mについて ア 勧誘・教化行為等による損害 原告Mは、前記2(3)に認定したとおり、 (ア) 勧誘から脱会まで、被告の教義から離脱することに不安や恐怖感を感じさせられ、献身後 は、昭和61年4月から平成7年7月までという長期間、過酷な経済活動や伝道活動に従事して労役の提供を余儀なくされ、 (イ) その間には、海外宣教としてラオスに派遣され、言葉の通じない外国で、慣れない生活を送らされ、 (ウ) さらに、被告に反対する家族や友人にはサタンがついているなどと教えられ、これまでの人間関係を破壊されたほか、献身期間中は、家族から直接連絡をとることができなくなるなど、一般社会の人間関係等を遮断された。 以上の判示及び前記2(3)に認定した諸事実によれば、原告Mは、違法な勧誘・教化行為及びその後の組織的活動への従事により、相当の精神的苦痛を被ったものということができ、これを慰謝するには、250万円の慰謝料の支払を命ずるのが相当である。 イ 合同結婚式への参加強要等による損害 原告Mは、前記2(3)に認定したとおり、 (ア) 勧誘・教化の過程で、合同結婚式に参加せざるを得ないという気持ちにさせられ、これに参加することを余儀なくされ、 (イ) 合同結婚式参加後は、原告Mの家族が同原告を被告から脱会させようとする動きに対抗するために、婚姻届に署名させられ、 (ウ) また、Zが、原告Mが実家から帰らなくなった後、同届を使用して婚姻届出の手続をしたため、婚姻無効確認の審判の申立てをする労力を余儀なくされた。 上記精神的苦痛を慰謝するには、30万円の慰謝料の支払を命ずるのが相当である。なお、上記審判申立ての手続費用については、これを認めるに足りる的確な証拠はない。 ウ 弁護士費用 本件事案の性質、内容、審理の経緯等に照ら し、被告の違法行為と相当因果関係に立つ弁護士費用は30万円が相当である。 エ よって、被告は、原告Mに対し、損害賠償金310万円及びこれに対する不法行為の後である平成8年2月28日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払義務を負う。 (4) 原告らは、勧誘・教化行為において、家族や友人等との関係をサタン側における人間関係として遮断されるという損害を被った旨主張する が、献身前の時点においては、これによって慰謝料の支払を要する程度の精神的苦痛を受けたとまでは、本件全証拠によっても認めることはできない。また、かけがえのない青年期を有害無益な被告の活動に長期間費やしたことに対する無念の思いをいう点については、前記(1)ないし(3)の各アの慰謝料の支払によっても回復できないほどの精神的苦痛ということはできない。さらに、原告ら が、元被告の信者として否定的な社会的評価を受け、現実社会の適応に苦しめられたことをいう点については、これを認めるに足りる的確な証拠はなく、被告に、本件訴訟を責任転嫁であるとか踏み絵訴訟であるなどと非難されたことをいう点については、これを勧誘・教化行為と相当因果関係にある損害ということはできない。 6 よって、主文のとおり判決する。 |
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東京地方裁判所民事第50部 裁判長裁判官 小 泉 博 嗣 裁判官 前 田 志 織 裁判官 齋 藤 憲 次 |
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