| 全国霊感商法対策弁護士連絡会 |
代表世話人 弁護士 平岩敬一(横浜)
代表世話人 弁護士 郷路征記(札幌)
代表世話人 弁護士 中村周而(新潟) 代表世話人 弁護士 河田英正(岡山)
代表世話人 弁護士 山口 広(東京) |
| 事務局長 弁護士 木村 壮(東京) |
| 第1 声明の趣旨 |
| 1 |
世界平和統一家庭連合(以下、「旧統一教会」という。)に対し、真に独立した第三者委員会を設置し、献金勧誘や霊感商法問題を徹底的に調査させた上で、被害者に対し、速やかにその被害の全額を賠償するよう求める。 |
| 2 |
旧統一教会による献金等の被害に遭われた皆様に対し、適切な賠償を受けるために、旧統一教会が設置した補償委員会ではなく、全国統一教会被害対策弁護団等の旧統一教会問題に精通した専門家にご相談いただくよう勧める。 |
| 3 |
消費者庁及び各政党に対し、不当寄附勧誘防止法の速やかな改正に取り組むよう求める。 |
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| 第2 声明の理由(声明の趣旨1及び2について) |
| 1 |
旧統一教会は、2025年10月29日、補償委員会を立ち上げて献金被害者への補償に取り組む旨を表明した。 |
| 2 |
しかし、この旧統一教会による補償委員会の立ち上げは、2022年7月8日の安倍元首相銃撃事件から3年以上も経過し、かつ、全国統一教会被害対策弁護団による最初の集団交渉の申入れがなされた2023年2月22日から2年半以上も経過してなされたもので、遅きに失した取り組みである。そもそも旧統一教会が全国統一教会被害対策弁護団の集団交渉や集団調停、個々の被害者の被害申告に対して迅速かつ真摯に対応していれば、補償委員会の設置自体不要であった。
現状、旧統一教会に対する解散命令事件の審理が東京高裁に係属しており、東京高裁から旧統一教会及び文部科学大臣に対して本年11月21日までに主張立証を全て尽くすよう指示がなされていたことからすれば、今般の補償委員会の設置は真摯な反省に基づくものではなく、同日までに被害者への補償に尽力している外形を示し、解散命令を回避することを目的としたとしか考えられない。 |
| 3 |
補償委員会は、旧統一教会とは利害関係のない外部の弁護士を中心に補償についてのみ審理することになっている。東京地裁の解散命令では、旧統一教会は、コンプライアンス宣言以降も「組織体質及び相当数の信者の行動の在り方を大きく変化させるような、根本的な対策」が講じられた形跡は窺われないと厳しく指摘されている。東京地裁が指摘する「根本的な対策」のためには、まず、旧統一教会による過去数十年にわたる献金勧誘や霊感商法問題について十分に調査をし、原因を分析することから始めなければならないが、旧統一教会はこのような最初の調査すら予定していない。
そのため、補償委員会の設置によっても、旧統一教会が組織的に引き起こして来た献金勧誘や霊感商法問題に対する「根本的な対策」には全くならない。 |
| 4 |
また、補償委員会の委員の報酬は旧統一教会から支払われるものと思われる上、補償委員会の委員らは、法人等の所有するあらゆる資料、情報、社員へのアクセスが保障されておらず、独自に調査する権限は与えられていない。
補償委員会は献金被害等の審査にあたって献金記録を旧統一教会から提供を受けるとされている。しかし、旧統一教会はこれまでの訴訟で教会には献金記録は存在しないと主張してきており、補償委員会に対しても献金記録の全部または一部を開示しないおそれがある。また、補償委員会の委員らが旧統一教会の献金勧誘や霊感商法問題の実態に精通しているとは考えられず、被害者から被害の実態を適切に聴取することは困難であり、被害者自身も被害の一部の記憶しかないのが通常であり、結局、旧統一教会の主張する献金額と一部資料が残っている被害のみを補償の対象とする限定的な救済しかされないことが強く懸念される。さらには、補償委員会による救済は、委員以外の弁護士や裁判所の関与もなく、しかも、一旦合意してしまうとその後に新たな被害が判明したとしても請求が難しくなるというリスクもある。 |
| 5 |
このように補償委員会は、解散命令を回避する便法として設置されたもので、旧統一教会の献金勧誘や霊感商法問題を根本的に解決するものではない上、被害者に対する救済も十分になされないおそれがある。そこで、旧統一教会に対して日弁連の「企業等不祥事における第三者委員会ガイドライン」に則った委員会を設置し、献金勧誘や霊感商法問題を徹底的に調査させた上で、被害者に対し、その被害の全額を補償するよう求める。 |
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また、上記のとおり、補償委員会では十分な被害救済がなされないおそれがあることから、旧統一教会による献金被害に遭われた皆様には、適切な賠償を受けるために、補償委員会ではなく、全国統一教会被害対策弁護団等の旧統一教会による被害に精通した専門家に相談し、自己の被害を回復していただきたい。 |
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| 第3 声明の理由(声明の趣旨3について) |
| 1 |
不当寄附勧誘防止法は施行後2年の見直しが当然の前提とされた法律
2022年12月10日に「法人等による寄附の不当な勧誘の防止等に関する法律」(以下「不当寄附勧誘防止法」又は「法」という。)が成立してから、明日で3年となる。
不当寄附勧誘防止法は、2022年7月8日の元首相銃撃事件以降、急激に社会の関心が高まった旧統一教会による多額の献金被害等に至急対応するために急遽制定された法律であったことから、実効性ある法律にするために、成立後も積み残した課題について検討を重ねていき、施行後2年で見直すことが当然に想定された法律であった。このことは、法附則第5条において「政府は、この法律の施行後二年を目途として、この法律の規定の施行の状況及び経済社会情勢の変化を勘案し、この法律の規定について検討を加え、その結果に基づいて必要な措置を講ずるものとする。」と規定されていること、参議院の附帯決議においても「法人等による寄附の不当な勧誘の防止等に関する法律附則第五条の検討に当たっては、国会における審議において実効性に課題が示された点について検討し、必要な措置を講ずること。その際、不当な勧誘行為による被害者、被害対策に携わる弁護士等関係者を含む多様な者の意見を聴取しつつ、検討を進めること。」と決議されていることから明らかである。
このように、不当寄附勧誘防止法は元々「実効性に課題」があるものであり、現に被害救済の現場では、要件が厳しすぎるためほとんど全くと言っていいほど使われていない。したがって、「施行後二年」の見直しが必要不可欠であり、かつ、極めて重要である。
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| 2 |
改正の必要性をあえて無視する消費者庁の極めて不誠実な態度
ところが、不当寄附勧誘防止法を主に所轄する消費者庁は、2025年9月18日「法人等による寄附の不当な勧誘の防止等に関する法律附則第5条に係る報告書」(以下「消費者庁報告書」という。)を公表し、「法の全面施行から2年しか経過しておらず、見直しを行える程度にまで事案が蓄積していない現時点において、法改正すべき立法事実は認められない。」、「特定の宗教的行為に関する判例においては約10年周期で事件が発生してきているものがあることなどにも鑑みると、少なくとも10年間ほど事案の積み上げを見てからでないと判断できない問題であると思う。」(消費者庁報告書7~8頁)などの意見をもとに、不当寄附勧誘防止法の見直しについて極めて消極的な見解を示した。
これは、立法府が法律に定めた2年後見直しを無視する態度であり、このような消費者庁の態度は、極めて不誠実であり、極めて遺憾である。
(1)「法律施行日前の事案」を完全に無視
消費者庁は、「法律施行日前の事案と認められるもの」は、立法事実の範囲外と してしまった(消費者庁報告書77頁参照)。しかし、ここで挙げられている被害は、以下のとおり、決して無視できるものではない。そもそも「施行後二年」を目途に見直すとされたのは、短期間で法律を成立させたことから、国会において十分審理を尽くすことができなかったことが理由であり、「施行後二年」という期間は、これらの被害の予防や救済のための規定を設けるのに、必要な分析・検討をするために設けられた期間であって、「法律施行日前の事案」を検討課題から外すためのものではない。
(2)当連絡会の相談実績や被害者の声を無視
消費者庁は、当連絡会、全国統一教会被害対策弁護団及び被害者8名からの聴取も行っている(消費者庁報告書140~165頁)。そこでは被害の実態、法律の不備、被害予防・救済のために必要な法律などが極めて詳細に述べられている。特に、これまで旧統一教会によって引き起されてきた献金被害を予防、救済するためには、現在の不当寄附勧誘防止法の規定では不十分であることが繰り返し意見されている。
しかし、消費者庁は、被害者の声も、被害救済に長年取り組んできた弁護士の意見も、完全に無視した。これは、形式的に聴取しただけであり、実質的には、「法人等による寄附の不当な勧誘の防止等に関する法律附則第五条の検討に当たっては、国会における審議において実効性に課題が示された点について検討し、必要な措置を講ずること。その際、不当な勧誘行為による被害者、被害対策に携わる弁護士等関係者を含む多様な者の意見を聴取しつつ、検討を進めること。」とした参議院の附帯決議を無視するものであり、遺憾である。
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| 3 |
「施行後二年」の見直しで改正すべき点
当連絡会は、不当寄附勧誘防止法の制定時から、被害の実態に即して、被害を予防・救済するために必要な法制度について述べてきた。不当寄附勧誘防止法を直ちに改正すべき点のうち、重要なものは以下のとおりである。
(1)禁止行為等の範囲、適用対象が狭いこと
不当寄附勧誘防止法では、禁止行為や取消権等の対象となる行為の範囲が狭すぎる。特に、寄附の勧誘に関する禁止行為(第4条)の「寄附の勧誘に際し」「困惑」「必要不可欠」といった文言は、裁判において禁止行為の範囲が限定される可能性が高い。正体を隠した違法な伝道活動によって信教の自由を侵害し、不当に判断基準を変えることで、長年にわたり多額の出捐をさせていく旧統一教会のような被害については、現在の不当寄附勧誘防止法の規定ではほとんど被害救済に役立たない。
配慮義務(第3条)については、最後の修正で「十分に」との文言が入り、勧告・公表に結びつけられたものの、被害防止・救済の実効性という観点からは不十分なものに留まったと言わざるを得ない。
そこで、見直しの際には、被害実態に即した規定にした上で、配慮義務(第3条)も禁止行為に改められるべきである。
なお、最高裁は不当寄附勧誘防止法第3条(配慮義務)を引用して違法性の判断基準を示しており(最高裁令和6年7月11日判決)、これは被害救済のため一定の評価はできるものであるが、これは不法行為責任に関する判断であって、不当寄附勧誘防止法の改正の必要性を減少させることには全くならない。
(2)個人への寄付が対象から外れていること
不当寄附勧誘防止法の適用対象は、法人や代表者若しくは管理者の定めのある社団・財団に対する寄附に限られる。旧統一教会は、今後、解散命令により法人格を失ったとしても、その幹部信者が個人として、あるいは代表者等を定めないまま宗教団体として違法な寄附勧誘を継続するおそれが高いが、不当寄附勧誘防止法ではそうした事態に対処できない。
そこで、見直しの際には、少なくとも対象範囲を個人にまで広げるべきである。
(3)行政処分による救済可能性や被害抑止が不十分であること
不当寄附勧誘防止法は、行政処分について、「遵守すべき事項を示して、これに従うべき旨」(第6条1項)、「当該行為の停止その他の措置をとるべき旨」(第7条2項)を勧告ないし命令等できるとしているに留まり、当該法人へ寄附の返金を求めることまで含まれるのかが明らかでない。
そこで、見直しの際には、寄附の返還の効果も定めるべきである。
また、令和5年4月17日付けの不当寄附勧誘防止法の行政処分についての処分基準では、配慮義務違反に基づいて行政処分をするのは、配慮義務違反を認定して不法行為責任を認めた判決が存在する場合等としている。このように民事判決後に行政処分をするのでは、民事判決が確定するのには数年を要する可能性が高いことから、その間に被害が拡大することが懸念され、この点も見直されるべきである。
(4)家族被害の救済が図られないこと
不当寄附勧誘防止法では、家族被害の救済について、債権者代位権行使の特例(第10条)により行うものとされている。しかし、この制度は要件も取消の範囲も狭く、家族被害の救済にはならない。特に未成年者である2世が権利行使するのが極めて困難な制度になっており、この点は衆議院の附帯決議でも「親権者が寄附をしている場合には未成年の子が債権者代位権を行使することは困難である」とされているところである。
制定前に開催された消費者庁の霊感商法検討会でも成年後見制度の改正を含めた財産管理制度を設けるべきとの意見が出されている。家庭裁判所の監督の下で第三者が権利行使をする制度であれば、家族間の対立が生じにくく、家族問題で苦しんでいる2世にとっても利用しやすくなる。
そこで、見直しの際には、家族被害を抜本的に救済し、かつ、被害者本人の保護を図っていくために、家庭裁判所の監督の下で第三者が本人に代わって寄附を取り消し管理する制度が定められるべきである。
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至急改正すべき必要性
旧統一教会は、解散命令後も、任意団体または個人として活動が継続される可能性が高い。また、清算手続終了後は、天地正教という別法人により活動を継続する可能性が高い。
しかし、不当寄附勧誘防止法は、旧統一教会の違法な献金勧誘行為等に対して十分に対応できる規定となっておらず、また、違法な勧誘行為等が確認されたとしても行政処分をとるための要件が厳格すぎるため、新たな被害を抑止できない可能性が高い。そのため、今後も旧統一教会の違法な献金勧誘行為等が十分に抑止できないことが懸念される。
また、信者である親が2世信者の養育に目を向けず際限のない献金等を繰り返す状況を抑止する手段として、不当寄附勧誘防止法は債権者代位権の特例を設けられたが、現実的には行使することが極めて困難であり、また、実効性も乏しい。
そこで、不当寄附勧誘防止法は、旧統一教会による違法な献金勧誘行為等に対応できるように、至急改正されなければならない。 |
| 以上 |