全国霊感商法対策弁護士連絡会 |
代表世話人 弁護士 平岩敬一(横浜)
代表世話人 弁護士 郷路征記(札幌)
代表世話人 弁護士 中村周而(新潟) 代表世話人 弁護士 河田英正(岡山)
代表世話人 弁護士 山口 広(東京) |
事務局長 弁護士 木村 壮(東京) |
|
声明の趣旨 |
第1 |
指定宗教法人の清算手続において、残余財産が指定宗教法人に指定されて解散命令を受けた法人と同一性の認められる団体に承継されることがないようにする立法措置を講じるよう求める。
|
第2 |
政府、各政党並びに国会及び地方自治体の各議会に対して、第三者委員会等のしかるべき機関を立ち上げ、その所属する国会議員及び地方議会議員全員について、旧統一教会(関連団体を含む。)とのこれまでの関係について調査し、メディアへの公表を通じて調査結果を有権者に公表するよう求める。
|
声明の理由 |
第1 声明の趣旨1項について |
|
1 |
文部科学大臣は2023年10月13日に世界平和統一家庭連合(以下、「統一教会」という。)に対する解散命令の申立てを行い、東京地方裁判所は2025年3月25日に統一教会に対して解散命令の決定を下した。
その後、統一教会は2025年4月7日に東京高等裁判所に即時抗告し、現在、東京高等裁判所に抗告審の審理が係属しており、遠くない将来に解散命令請求についての判断が示されるものと思われる。
東京高等裁判所において、統一教会に対する解散命令を妥当として抗告棄却決定を下した場合には、統一教会に対する解散命令は確定し、清算手続が開始されることになる。
|
|
2 |
このような情勢下で、文化庁は、各宗教団体から選出された委員や学者、法律家等を委員とする指定宗教法人の清算に係る指針検討会を発足させ、指定宗教法人に対する解散命令が確定した後の清算手続に関する指針の策定を始めた。指定宗教法人とは、特定不法行為等被害者特例法において、解散命令請求がなされ、その解散命令請求等の原因となった不法行為による被害者が相当多数と見込まれ、かつ、財産処分・管理状況を把握する必要があるとして指定を受けた宗教法人であり、現時点で指定を受けているのは統一教会のみである。そのため、この清算手続に関する指針は統一教会の解散命令が確定し、清算手続が開始された場合に適用されることになる。
同検討会は、本年5月28日に第1回の会議が開催され、その後、6月27日、9月3日の計3回に亘って開催され、同検討会の中での検討を経て、指定宗教法人の清算に係る指針案が作成、公表された。
|
|
3 |
この文化庁作成の指定宗教法人の清算に係る指針案は、指定宗教法人の清算手続きに関する基本的な考え方を示した上で、清算法人の財務状況の調査等、調査妨害や財産の散逸・隠匿等への対応、清算法人の財産の管理・処分、債務の弁済等と清算法人の残余財産の引渡しについての指針が示されている。
このうち、清算手続においては、清算人が被害者の損害賠償債権について債権届を受け付け、債権届のあった債権者の損害賠償債権について清算人が債権の存否、金額を確認した上で、統一教会の財産から配当をすることになる。このような被害者への配当が終了した後に、統一教会の財産が残っていた場合、現行法では、その残余財産は宗教法人法50条1項に基づき、解散する宗教法人の規則に従って処分されることになる。
統一教会の規則では、清算手続後の残余財産の帰属先については、責任役員会及び評議員会議で決定することができることになっている。そして、東京地方裁判所の解散命令決定において、統一教会が、傘下の販売会社である有限会社新世が特定商取引法違反で刑事摘発を受け、傘下の教会にも捜索がなされた後の2009年6月23日に、責任役員会及び評議員会議を行い残余財産の帰属先を「天地正教」とする決議を行っていたことが明らかとなった。
そのため、現状では統一教会の清算後の残余財産は「天地正教」に承継されることとなる。
|
|
4 |
東京地方裁判所の解散命令決定では、令和4(2022)年度末の統一教会の総資産は1181億円に及ぶとされている。一方で、現在、統一教会被害対策弁護団の統一教会に対する請求総額は現時点で60億5367万3263円である。統一教会に対する解散命令が確定すれば、さらに多くの被害者によって被害の申告がなされることが見込まれる。しかし、実際には不安をあおられ、生活を破綻させられるような高額の献金をさせられた被害者であっても、なお信仰を持ち続けて被害に気付けなかったり、被害には気付いているものの返金請求した場合には地獄に落ちるのではないか等という恐怖から逃れられなかったりして被害申告のできない被害者が相当多数残るものと思われる。
このような被害者が、時間をかけてようやく脱会し自身の被害に気付いたり、恐怖を乗り越えたりして被害申告できるようになっても、その時点で統一教会の清算手続が終了し、残余財産が「天地正教」に移ってしまった場合には、被害の救済を受けることができなくなる事態となることが懸念される。
|
|
5 |
また、そもそも統一教会に対する解散命令請求は、献金勧誘等において悪質な不法行為を継続的、組織的に実行して来た統一教会に宗教法人として便宜を与えないことを目的としている。
しかし、「天地正教」は、弥勒菩薩を信仰対象としているところ、初代教主が統一教会の教祖である文鮮明こそが弥勒菩薩であるとの啓示を受け、以降、統一教会と密接な関係を維持し、統一教会の霊感商法を担った霊石愛好会の道場が天地正教の道場として認定されたこともあった。実際、統一教会の被害に遭った者の中には、天地正教の道場に勧誘されたことがきっかけとなった者も相当数存在する。そして、「天地正教」は1999年3月には、和合宣言により、事実上統一教会に吸収合併された。そして、札幌地方裁判所平成24年3月29日判決等において、統一教会と天地正教との間には指揮命令関係があったと認定されている。
このように「天地正教」は、統一教会の指揮命令下にある団体で、実質的に同一性が認められる団体である。このような「天地正教」に、統一教会の清算後の残余財産が承継された場合には、統一教会は、実質的に、銃残の資産の一部を利用して「天地正教」の宗教法人格を利用して活動を継続することになる。
このような事態は悪質な不法行為を継続的、組織的に実行し続けて来た統一教会の解散命令の目的を無にするものであり、かつ、解散命令の原因となった霊感商法や違法な献金勧誘による被害の抑止の実効性を失わせることとなる。
|
|
6 |
以上のとおりであるため、清算後の残余財産の承継について宗教法人法50条1項を適用することは、清算手続後にようやく被害申告することができるようになった被害者の救済及び新たな被害の抑止の観点から認められるべきではなく、速やかに、残余財産が指定宗教法人に指定されて解散命令を受けた法人と同一性の認められる団体に承継されることがないようにする立法措置を講じることが必要である。
|
第2 声明の趣旨2項について |
|
1 |
韓国では、本年7月30日に統一教会の韓国本部の世界本部長であった尹永浩(ユンヨンホ)が、尹錫悦(ユンソンニョル)前大統領の妻金建希(キムゴニ)氏に対し、2022年4月から7月にかけて、高級ネックレス等の金品を贈り、見返りにカンボジアでの統一教会関連事業の便宜を図るよう依頼した容疑で逮捕された。その後、統一教会の韓国本部のトップである韓鶴子総裁も、金建希に対する容疑に加え、保守系の国会議員である権性東(クォンソンドン)に統一教会への支援の要請のために1億ウォンを渡した容疑等で捜査を受け、今月18日には逮捕状が請求されており、近く逮捕される見通しとなっている。
|
|
2 |
統一教会は、1960年代から韓国や日本の保守系の議員との関係を深めることで教勢を拡大してきた経緯がある。このような統一教会の政治家との関係構築は、統一教会の違法な活動の抑止を困難にさせる上、統一教会による違法な活動にお墨付きを与え、これを助長する結果を招くことになる。このことが統一教会による霊感商法や違法な献金勧誘を40年以上に亘って温存させてきた一因となっている。
現在、韓国で進められている今回の捜査は、統一教会がどのようにして政治家に近づき、政治家を利用して来たのか、統一教会の実態を明らかにする重要な機会である。
|
|
3 |
ところで、我が国では、2022年7月以降、各政党において統一教会との従前の関係性を問うアンケートが実施されたり、岸田文雄前首相において自民党は統一教会との関係断絶を徹底する旨の国会答弁がなされたりするなど、統一教会との関係を見直す動きが一定程度見られたものの、自民党の調査は自己申告に基づくものにすぎず、捜査機関や中立な第三者機関による統一教会と政治家の関係の調査は全く行われていない。
そのため、選挙での協力を得るための自民党による組織的関係の構築の有無、政策形成への影響、統一教会の名称変更への便宜供与の存否等についての徹底した調査は未だ行われていない。現状は、一部の政党が統一教会との関係を断絶するとの決意を表明しただけであり、今後、同様の問題が繰り返されないようにするための実効性のある具体的な施策については何ら講じられていない。来月には自民党総裁選挙が予定されているが、政治と統一教会との関係を争点にする候補者が一人もおらず、候補者が取り組む気配は今のところ全くない。
|
|
4 |
そこで、当会としては、韓国で統一教会と政治家との関係について捜査が行われ、実態が解明されていく、この機会に、日韓双方の政府において、日本における高額献金、霊感商法を通じて集金された金銭が、韓国の統一教会本部に流れ、どのようにして韓国の政界工作に使われたのか、そして日本の政界において統一教会がどのような役割を果たしてきたのか等につき、あらためて徹底解明するとともに、統一教会の被害者の救済につながる施策をどう実現していくのか等の施策の検討を改めてお願いしたい。
また、各政党及び政治家においても、改めてこの点について議論していただいた上で、中立な第三者機関を設け、統一教会と政党、政治家との関係について徹底した調査を行い、継続的に違法な活動を行っている団体の活動が維持、助長されないよう、また、我が国の政治に不当な影響を与えることのないよう実効的な施策を講じるよう求める。
|
以上 |