全国霊感商法対策弁護士連絡会
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代表世話人 弁護士 平岩敬一(横浜)
代表世話人 弁護士 郷路征記(札幌)
代表世話人 弁護士 中村周而(新潟) 代表世話人 弁護士 河田英正(岡山)
代表世話人 弁護士 山口 広(東京)
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事務局長 弁護士 木村 壮(東京)
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1 はじめに |
本日、2022年7月8日に発生した安倍晋三元首相銃撃事件から3年を迎えた。
この間、世界平和統一家庭連合(以下、「統一教会」という。)による霊感商法や違法な献金勧誘、2世信者に対する人権侵害の実態が広く知られることとなった。
同事件を契機に、被害者救済や新たな被害の防止のために、2022年12月10日には不当寄附勧誘防止法が成立し消費者契約法が改正され、同月27日には、厚生労働省が「宗教の信仰等に関係する児童虐待等への対応に関するQ&A」を公表し、2世に対する虐待への対応方法を示した。
2023年12月には、統一教会の被害者の救済を実効性のあるものとするために、統一教会の財産隠しの防止や損害賠償請求する被害者を経済的に支援するための特定不法行為等被害者特例法が成立した。
一方で、文部科学大臣は統一教会に対して7回に亘って報告徴収質問権を行使し、これを受けて取得した資料、その他綿密な被害調査の結果を踏まえ、2023年10月13日、統一教会に対して解散命令請求を行った。
そして、本年3月25日、東京地方裁判所は、統一教会に対して、統一教会がこれまで引き起して来た類例のない膨大かつ深刻な被害の存在を認定した上で、解散命令の決定を下した。
文化庁は現在、東京地方裁判所の解散命令がなされたことを契機として、解散命令が確定した後に行われる宗教法人としての統一教会の清算手続において被害者を救済するための指針作りに着手している。
当連絡会は、これらの立法や行政手続において尽力されてきた全ての方々に対して改めて感謝の意を表する。
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2 なお残存する課題 |
上記のとおり、2022年7月8日の事件を契機として、この3年間で統一教会の被害救済及び被害抑止のために多くの立法や行政手続が行われてきた。しかしながら、統一教会の被害者の救済や今後の被害抑止のための施策はまだ達成されていない。多くの被害者は何らの救済も得られないままであり、かつ、今後の被害抑止のための立法等も不十分なまま課題として残されている。それにもかかわらず、統一教会の問題についての報道は減っており、当連絡会としては、社会の関心が低くなっていることを強く懸念する。
そこで、事件から3年を迎える2025年7月8日時点で、なお残された課題について以下のとおり指摘する。
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⑴ 東京地方裁判所において解散命令の決定がなされたものの、現在も統一教会は自らが起こした類例のない膨大かつ深刻な被害に対して真摯に向き合わず、解散命令の決定が宗教迫害であるとして、東京高等裁判所に即時抗告し、現在も東京高等裁判所において解散命令についての審理が継続している。
また、全国統一教会被害対策弁護団が申し立てた集団調停に対しても客観的な資料であるはずの献金記録を開示せず、被害者の請求は根拠のないなどと主張するなど不誠実な対応に終始し、未だ集団調停に参加した被害者の救済は全く実現していない。
上記のような統一教会の姿勢からすれば、統一教会自身による被害者救済は全く望めない。被害者の多くは高齢化していることもあり、一刻も早い被害者救済のためには、早急な解散命令の確定及びその後の清算手続での被害救済が望まれる。 |
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⑵ 解散命令確定後の清算手続においても、統一教会が手続に素直に協力するとは考え難く、清算手続を妨害することが懸念される。
さらに、清算手続が終了した際の残余財産の帰属先は、統一教会の2009年の責任役員会決議で、天地正教に承継されることとされている。天地正教は実質的に統一教会の支配下にある宗教法人であり、今後、統一教会の違法な献金勧誘行為等が天地正教の名称で継続されることが強く懸念される。そのような宗教法人に残余財産が帰属することは到底許されない。 |
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⑶ 解散命令後も統一教会は任意団体または個人として活動が継続される可能性があり、また、清算手続終了後は天地正教の名称で活動を継続する可能性がある。
しかし、不当寄附勧誘防止法や改正された消費者契約法は、統一教会の違法な献金勧誘行為等に対して十分に対応できる規定となっておらず、また、違法な勧誘行為等が確認されたとしても行政措置をとるための要件が厳格すぎるため、新たな被害を抑止できない可能性が高い。そのため、今後も統一教会の違法な献金勧誘行為等が十分に抑止できないことが懸念される。 |
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⑷ 統一教会は、解散命令が信教の自由の侵害であるとして全国各地で宣伝活動を盛んに行っている一方、統一教会に対する批判的言論に対して不当に高額な損害賠償請求訴訟を提起し、その言論を封殺しようとしている。このような活動により、統一教会に対して批判的言論を行った弁護士やジャーナリストが不当に高額な損害賠償請求訴訟への応訴を強いられている。
また、統一教会と政治家との関係の実態について未だ十分な調査はなされていない。
そのため、今後、再び統一教会に対する批判的言論が封殺され、統一教会による政治家を通じた社会への浸透工作が復活し、違法な献金勧誘行為等が助長される可能性は否定できない。 |
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⑸ 2世信者に対する虐待等の人権侵害への対応はまだ始まったばかりであり、学校現場等での被害の把握や虐待等の影響により社会に居場所を得られていない信者等への福祉的サービスも十分整備されていない。
信者である親が2世信者の養育に目を向けず際限のない献金等を繰り返す状況を抑止する手段として、不当寄附勧誘防止法は債権者代位権の特例を設けられたが、現実的には行使することが極めて困難であり、また、実効性も乏しい。
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3 求められる措置 |
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⑴統一教会に対して |
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① 統一教会に対しては、解散命令の決定を真摯に受け止め、自らが生み出した過去の被害・被害者に向き合い、これに誠実に対応し、謝罪の上で損害の一切を賠償するよう求める。
上記の前提として、統一教会に対し、信者や信者であった者からの返金請求に対して一部だけの返金をして口封じをするのではなく、信者や信者であった者への勧誘経緯、献金・物品購入代金等として支払わせた金額を全て調査し、これらの者やその家族からの要求があった場合には調査結果を開示するよう求める。 |
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② 統一教会が行って来た不法行為等に関する正当な言論に対して、こ れを封殺するために不当な損害賠償請求訴訟を提起したり、発言者を誹謗中傷したりするなどの威迫行為を行わないよう求める。 |
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⑵ 国に対して |
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① 文部科学大臣において、解散命令請求事件において、東京高等裁判所に対して裁判所により速やかにかつ確実に解散命令が発令されるように、迅速な主張・立証活動を進めるよう求める。 |
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② 東京高等裁判所において、解散命令請求事件の審理を迅速に進め、速やかに解散命令を発令するよう求める。 |
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③ 文化庁において、清算人の権限を強化するなど実効的な被害者救済がなし得るような清算手続についての指針を作成すること、また、統一教会と実質的に同一又は支配下にある宗教法人に残余財産を承継させず、また、清算結了後に脱会した被害者について残余財産から救済を得られるよう適切な措置を講じるよう求める。 |
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④ 政府及び国会に対し、清算手続中及び清算手続後の団体への対応について従前同様の違法行為、人権侵害行為が行われていないかを継続的かつ実効的に注視できる体制を構築し、新たな同種被害の実効性ある防止がなされるよう求める。 |
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⑤ 消費者庁及び国会に対して、不当寄附勧誘防止法施行後2年を迎えるにあたって、消費者庁または国会内に検討会を設置して、被害者・家族の生の声を聞く場を設け、その声を十分に聞いた上で、不当寄附勧誘防止法の執行を強化するとともに、統一教会による違法な献金勧誘行為等の実態に即した形で同法の禁止規定及び家族被害の救済に関する規定の見直しを行うよう求める。 |
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⑥ こども家庭庁及び児童相談所に対して、2022年12月27日に作成公表されたQ&Aを所属する児童福祉司、児童心理司等に周知し、宗教等2世に対する宗教の信仰等を理由とする虐待(以下「宗教虐待等」という。)等に適切に対処できる体制を整えるよう求める。 |
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⑦ 文部科学省に対して、学校の教職員、スクールカウンセラー、スクールソーシャルワーカー等に対し、上記Q&Aを周知し、学校現場において速やかに宗教等2世に対する宗教虐待等を発見し、当該児童の健全な成長のための適切な対処ができる体制を整えるよう求める。
また、上記体制において、宗教等2世の団体と協力し、その知見を十分に活用するとともに、宗教等2世の団体の活動を支援するよう求める。 |
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⑶政党及び政治家に対して |
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政治家の皆様(自治体の首長を含む。)に対して、旧統一教会との関係を断絶し、統一教会やその信者から選挙での支援を受けることがないよう求める。
また、各政党並びに国会及び地方自治体の各議会に対し、第三者委員会等のしかるべき機関を立ち上げ、その所属する国会議員及び地方議会議員全員について、統一教会(関連団体を含む。)とのこれまでの関係や現在関係がないのかについて徹底した調査を実施し、メディアへの公表を通じて調査結果を有権者に公表するよう求める。 |
以上 |