声  明
2024年07月08日

(安倍晋三元首相銃撃事件から2年を迎えるにあたって)


 全国霊感商法対策弁護士連絡会

  
 代表世話人 弁護士 平岩敬一(横浜)
代表世話人 弁護士 郷路征記(札幌)
代表世話人 弁護士 中村周而(新潟)
代表世話人 弁護士 河田英正(岡山)
代表世話人 弁護士 山口 広(東京)
事務局長 弁護士 木村 壮(東京)

 2022年7月8日に発生した安倍晋三元首相銃撃事件から本日で2年となる。
 同事件を契機として、世界平和統一家庭連合(旧「世界基督教統一神霊協会」。以下、「旧統一教会」という。)が長年にわたって行って来た霊感商法や違法な献金勧誘等によって多くの信者らにその人生を狂わせ家庭が崩壊するほどの深刻な損害を被らせてきたこと、特に、旧統一教会の信者のもとで育った2世の方々に深刻な影響を与えてきたことが広く社会に知られるようになった。

 政府、関係省庁においては、この2年間で、霊感商法や違法・不当な献金勧誘等による被害の防止及び救済を図るための対策が進められた。2022年12月10日には「不当寄附勧誘防止法」(被害者救済新法)が立法され、同月27日には、厚生労働省により宗教2世に対する虐待等を念頭においたQ&Aが作成公表された。また、2023年10月13日には盛山正仁文部科学大臣が東京地方裁判所に対して宗教法人法に基づき旧統一教会の解散命令請求を申し立て、現在、同地方裁判所において審理が行われている。さらに、同年12月13日には旧統一教会による財産散逸・隠匿防止や被害者支援を目的とした「特定不法行為等被害者特例法」が成立した。
 当連絡会は、この間、旧統一教会の被害者救済や被害の防止のために尽力いただいた全ての方に敬意と感謝の意を表明する。

 もっとも、旧統一教会の被害者の救済活動はまだ始まったばかりであり、多くの被害者はまだ何らの救済も得られておらず、なお苦しみから解放されていない。
 また、当連絡会の過去の声明でも表明したとおり、「不当寄附勧誘防止法」も「特定不法行為等被害者特例法」も、被害者救済・被害防止のための立法としては不十分と言わざるを得ない。
 さらに、上記のような深刻な被害が30年以上もの長期間にわたって放置されてきた背景には旧統一教会と政治との癒着があったことが明らかとなっているが、その全容についての徹底した調査・分析もなされていないままである。

 当連絡会は、被害者の救済及び抑止という観点からこれまで繰り返し関係各所に向けて声明を発出してきたものであるが、被害が顕在化するきっかけとなった安倍元首相銃撃事件から2年という一つの節目において、改めて必要な課題を明らかにし、関係各所にご尽力いただきたく、本声明を発出する。


第1 声明の趣旨
1 旧統一教会に対して
      旧統一教会は、自らが生み出した過去の被害・被害者に真摯に向き合い、これに誠実に対応し、謝罪の上で損害の一切を賠償するよう求める。
 上記の前提として、旧統一教会に対し、信者や信者であった者への勧誘経緯、献金・物品購入代金等として支払わせた金額を全て調査し、これらの者やその家族からの要求があった場合には調査結果を開示するよう求める。
      旧統一教会が行って来た不法行為等に関する正当な言論に対して、これを封殺するために不当な損害賠償請求訴訟を提起したり、発言者を誹謗中傷したりするなどの威迫行為を行わないよう求める。

  2 国に対して 
    ⑴ 解散命令請求について 
      文部科学大臣は、昨年10月13日に東京地方裁判所に申し立てた解散命令請求について、裁判所により速やかにかつ確実に解散命令が発令されるように、迅速な主張・立証活動を進めるよう求める。
      東京地方裁判所においては、解散命令請求の審理を迅速に進め、速やかに解散命令を発令するよう求める。
    ⑵ 解散命令前後の被害者救済について
      ① 財産の散逸・隠匿対策について
 文部科学大臣及び文化庁に対し、旧統一教会の財産状況及び動向をこれまで以上に注視し、財産散逸・隠匿のおそれが高まった場合には、速やかに「特定不法行為等被害者特例法」に基づき、旧統一教会を「特別指定宗教法人」に指定するよう求める。
 また、「特別指定宗教法人」に指定したとしても、「特定不法行為等被害者特例法」に基づく手続では、結局、財産散逸・隠匿を十分に防止することができないことから、国会に対し、改めて財産の包括的保全措置を講じることのできる特例法を速やかに立法するよう求める。
      ② 清算人の権限強化等について
 国会に対し、宗教法人法第81条1項1号に基づく解散命令が確定した場合に選任される清算人の権限を強化するなどして、旧統一教会の財産の調査や関連団体等への財産移転等なされた場合にその取戻しを容易にする法整備を行うよう求める。
      ③ 清算後の財産について
 国会に対し、宗教法人法第81条1項1号に基づき解散命令が確定した場合における清算手続後の残余財産について、清算結了後に脱会する信者の被害救済の途が残されるよう法整備を行うことを求める。
      ④ 清算手続後の団体への対応について
政府及び国会に対し、解散手続により宗教法人格を失った後も宗教団体として残存する旧統一教会及びその関連団体について、従前同様の違法行為、人権侵害行為が行われていないかを継続的かつ実効的に注視できる体制構築を求める。
      ⑤ 脱会者等の心理的なサポートについて
 政府に対し、解散命令の前後を通じ、旧統一教会から脱会しようとする現役信者本人及びその家族や、脱会した後の元信者及び2世が、専門家による適切な支援を受けられるよう、より一層充実させた体制を構築することを求める。
    ⑶ 「不当寄附勧誘防止法」について
 消費者庁及び国会に対して、施行後2年を迎えるにあたって、消費者庁または国会内に検討会を設置して、被害者・家族の生の声を聞く場を設け、その声を十分に聞いた上で、「不当寄附勧誘防止法」の執行を強化するとともに、被害実態に即した形で同法の見直しを行うよう求める。
 また、国会に対して、被勧誘者の信教の自由及び自己決定権を侵害する不当な勧誘方法を規制する立法措置を講じるよう求める。
    ⑷ 宗教等2世問題について
      ① Q&A等について
 こども家庭庁及び児童相談所に対して、2022年12月27日に作成公表されたQ&Aを所属する児童福祉司、児童心理司等に周知し、宗教等2世に対する宗教の信仰等を理由とする虐待(以下「宗教虐待等」という。)等に適切に対処できる体制を整えるよう求める。
 文部科学省に対して、教職員、スクールカウンセラー、スクールソーシャルワーカー等に対し、上記Q&Aを周知し、学校現場において速やかに宗教等2世に対する宗教虐待等を発見し、当該児童の健全な成長のための適切な対処ができる体制を整えるよう求める。
 また、上記体制において、宗教等2世の団体と協力し、その知見を十分に活用するとともに、宗教等2世の団体の活動を支援するよう求める。
      ② 第三者による宗教虐待等について
 政府・国会に対して、宗教等2世が受けた宗教虐待等を念頭に、第三者虐待防止法等の新法の制定又は児童虐待防止法の改正により、第三者による宗教虐待等の禁止を法律上明記するとともに、宗教団体等による組織的な宗教虐待等に対処するために国・自治体の権限明確化並びに児童相談所のより一層の充実を図るなどして、宗教虐待等に対処するための法整備及び体制の強化を実施するよう求める。


  3 政党及び政治家に対して
       政治家の皆様(首長を含む。)に対して、旧統一教会との関係を断絶し、旧統一教会やその信者から選挙での支援を受けることがないよう求める。さらに、その所属する各議会においても関係を断絶する決議をするように求める。
 また、各政党並びに国会及び地方自治体の各議会に対し、第三者委員会等のしかるべき機関を立ち上げ、その所属する国会議員及び地方議会議員全員について、旧統一教会(関連団体を含む。)とのこれまでの関係について調査し、メディアへの公表を通じて調査結果を有権者に公表するよう求める。


第2 声明の理由 
  1 声明の趣旨第1項(旧統一教会に対して)について
      旧統一教会は、霊感商法や高額献金による被害は、当連絡会が旧統一教会を壊滅することを目的として作り出したものであるとして、「被害」は存在しないとの姿勢を取り続けている。また、旧統一教会は、一部行き過ぎた献金勧誘が存在したことを認めつつ、これらはいずれも一部信徒の問題行動であるとして、信徒らに責任を押し付け、自らが生み出した多数の甚大な被害に真摯に向き合っていない。
 そして、被害回復請求に対しても、旧統一教会において自ら献金記録等を調査することなく、信徒会なる実在しない組織に被害者及びその家族への対応をさせるなど、不誠実な対応を続けている。
献金記録についても、真っ当な宗教法人であれば、信徒からの請求に応じて開示するのは当然のことであり、これに応じないことも旧統一教会の不誠実さを顕著に表すものといえる。
 そこで、当連絡会は、改めて、旧統一教会に対して、個々の信者らに責任を押し付けることなく、献金記録等の調査及び被害者・家族への開示を行い、自身が生み出した過去の被害・被害者に真摯に向き合って、これに誠実に対応し、謝罪の上で賠償することを強く求める。
      旧統一教会及びその関連団体等は、ジャーナリストや弁護士等に対し、それらの者の旧統一教会等に対する正当な言論活動に対して、名誉棄損等を理由に高額な損害賠償を求める訴訟を提起して来た。これまで、旧統一教会等が起こしたこれらの訴訟はいずれも請求棄却判決がなされていることから明らかなように、これらの訴訟提起は正当な権利行使とはいえず、旧統一教会に敵対するジャーナリストや弁護士、そして、マスコミ等の言論を委縮させるという不当な目的に基づくものと言わざるを得ない。また、このような旧統一教会の言動に呼応して、旧統一教会に敵対するジャーナリストや弁護士のみならず、被害を訴えた元信者や2世、家族に対してまで多数の誹謗中傷がなされている。
 そこで、旧統一教会に対して、訴訟提起等によってジャーナリストや弁護士、そして、マスコミ等の言論の委縮を図るのではなく、まずは自らの生み出した多数の甚大な被害に真摯に向き合い、謝罪と反省の意を公に表明するよう求める。


  2 声明の趣旨第2項(国に対して)について
    ⑴ 解散命令請求について
 旧統一教会は、裁判所の解散命令により宗教法人格を失えば、宗教団体としては存続し得るが、間違いなく組織は弱体化し新しい被害は減ることになる。
 また、解散命令が確定した後の清算手続において被害者救済を実現するためにも、文部科学大臣において、東京地方裁判所での解散命令請求の審理において速やかに主張・立証活動を行い、裁判所において一刻も早く解散命令を出すことが必要である。
 特に、旧統一教会については、これまでに積み重ねられた、旧統一教会の献金勧誘活動の違法性を認めた多数の判決が存在するため、裁判所においては、旧統一教会による、いわば時間稼ぎのための反論に取り合うことなく、可能な限り審理を速やかに進め、早期に解散命令を決定するよう改めて求める。 
    ⑵ 解散命令前後の被害者救済について 
      ① 財産の散逸・隠匿対策について
 旧統一教会は、これまで毎年数百億円もの資金を韓国やアメリカに送金してきており、組織的に全国の不動産売却を図ったこともあり、解散命令の確定が近づくにつれ、財産の散逸・隠匿を図る可能性が極めて高い。特に、最近は韓国本部で資金難が発生しているとの報道もあるため、旧統一教会の資金が韓国に送金される危険性が高まっている。
 そこで、旧統一教会に財産散逸・隠匿の動きがないかどうかを注視する必要がある。
 昨年12月13日に成立した「特定不法行為等被害者特例法」に基づき、本年3月7日、旧統一教会は「指定宗教法人」に指定された。その結果、旧統一教会は、四半期毎に文化庁に財産目録等を提出し、また、不動産を処分等する場合には事前に通知することが義務づけられた。これにより、文化庁が財産散逸・隠匿の動きを一定程度把握できることが期待される。
 しかし、さらに提出された財産目録等を被害者において閲覧し、速やかな保全手続を取るためには、「特別指定宗教法人」に指定される必要がある。
 そこで、文部科学大臣は、財産散逸・隠匿の動きを注視し、散逸・隠匿のおそれが高まった場合には、速やかに「特定不法行為等被害者特例法」に基づき、旧統一教会を「特別指定宗教法人」に指定すべきである。
 また、「特別指定宗教法人」に指定したとしても、「特定不法行為等被害者特例法」に基づく手続では、結局、その後の財産の保全が被害者による個別の民事保全手続に委ねられることから、財産散逸・隠匿を十分に防止することはできない。
 例えば、旧統一教会が一度に韓国に多額の送金してしまうような場合(多数の信者を動員し、現金で韓国に持ち込む場合を含む)には、個別の民事保全手続では、それを防ぐことはほとんど不可能である。財産散逸・隠匿を十分に防止できず、財産が保全されなければ、解散命令確定後の清算手続で被害者へ配当される原資が確保できず、被害者救済が図れないことになる。
 財産散逸・隠匿を確実に防止するためには、包括的な財産保全の制度が必要であるが、「特定不法行為等被害者特例法」ではこれが見送りとなった。当連絡会は、改めて国会に対し、財産の包括的保全措置を講じることのできる特例法を速やかに立法するよう求める。
      ② 清算人の権限強化等について
 旧統一教会には多数の関連団体が存在し、また現在も相当数の信者が現役信者として活動していることから、財産隠匿のため、関連団体や現役信者に旧統一教会の財産を移転することが考えられる。
 こうした動きがあった場合に、清算人には、破産した場合の破産管財人のように否認権が付与されておらず、詐害行為取消権を行使して財産を取り戻す以外の手段がない。そのため、旧統一教会がその財産の一部ないし全部を一挙に関連団体等に移転させた場合、解散命令確定後の清算手続では移転された財産の取戻しに相当長期間を要することになり、被害者救済もその分遅くなってしまい、最悪の場合救済が図られないということになりかねない。
 また、宗教法人法では、清算人の調査権限が明確になっていないが、清算人に旧統一教会の役員らに対する財務状況等に関する報告徴収等の調査権限を付与しなければ、解散された宗教法人の財務状況等を把握することが困難となり、清算手続を迅速かつ円滑に進めることができなくなる。
 そこで、国会に対しては、解散命令が発令されるよりも前に、清算人の権限を強化するなどして財産の調査や財産の取戻しを容易にし、迅速かつ円滑な清算手続が行える法整備を行うよう求める。
      ③ 清算後の財産について
 現在の法制度では、解散した宗教法人の清算後に余った財産(残余財産)の処分については当該宗教法人の規則によるものとされており(宗教法人法第50条1項)、旧統一教会の場合には、残余財産は旧統一教会の指定する他の宗教法人に帰属することになると考えられる。
 清算手続までに脱会し、被害を申告した被害者については、清算手続を通じて救済が図られる可能性があるが、清算手続が完了し残余財産が他の宗教法人に移転されてしまった後になって、ようやく旧統一教会の精神的呪縛から逃れて脱会した信者は、宗教法人に対しては被害回復を求めることができなくなってしまう(宗教法人法第49条の4参照)。そうした信者が将来、ようやく脱会に至った場合に、献金その他の被害を一切回復できないことになれば余りに酷である。
 そこで、国会に対し、こうした清算後の脱会者の被害救済が図られるための法整備(例えば、残余財産を承継した他の宗教法人も、承継する財産の限度で旧統一教会の債務・責任を承継するといった方策が考えられる。)を行うことを求める。
      ④ 清算手続後の団体への対応について
 解散手続により宗教法人格が消滅しても、宗教団体としての旧統一教会は残存することになる。旧統一教会の組織的な違法行為は、日本は韓国に服従しないといけないという教え、万物復帰という教義、教祖の教え(天法)が一般社会における法秩序(地法)に優るといった考え方にその原因がある。旧統一教会に真摯な反省が見られない以上、今後も韓国本部からの高額な献金ノルマの指示が続くと考えられることからすると、宗教法人格を失っても従前同様の違法行為が繰り返されるおそれが大きい。このため、解散命令後の宗教団体としての旧統一教会及びその関連団体について、上記のような違法行為が行われないかを、継続的かつ実効的に注視していく必要性は大きい。
 そこで、政府及び国会に対し、解散手続により宗教法人格を失った後に残存する旧統一教会及びその関連団体について、従前同様の違法行為が行われないかを継続的かつ実効的に注視できるよう、関係機関の連携を含めて体制構築を行うよう求める。
      ⑤ 脱会者等の心理的なサポートについて
 解散命令が発令されれば、旧統一教会からの脱会者や旧統一教会の信者である両親から離脱する2世が増加することが予想されることから、解散の前後を通じ、旧統一教会からの脱会しようとする現役信者、既に脱会した元信者やその家族や2世へのケア、支援体制の整備をより一層進めていくことも重要である。
 旧統一教会の信者は、たとえ無事に脱会できた場合でも、長年にわたって自分の頭で考えることを放棄させられていたり、先祖因縁や地獄の恐怖で縛られたりしていたため、不安や恐怖がぬぐえず精神的に不安定で、一般社会への復帰が容易でないことも多い。このような脱会者に対しては、精神的なケアのための専門家からのカウンセリングや元信者からのカウンセリングなどが必要となる。
 そのため、脱会者等のメンタルサポートを講じることのできる体制を整備することが必要である。
    ⑶ 「不当寄附勧誘防止法」について
 2022年12月に成立した「不当寄附勧誘防止法」(被害者救済新法)は、被害抑止という観点からも被害者救済という観点からも、甚だ不十分なものであった。同法では、禁止行為の範囲や適用対象が狭く、さらには行政措置の要件が厳しいため、被害救済や被害抑止、特に行政による被害抑止が甚だ困難なものとなっている。また、家族の被害については債権者代位権の特例(同法第10条)を設けているが、実効性が乏しい規定である。
 さらに、旧統一教会は、長年にわたって、その名称や宗教団体であることを伏せたまま、被勧誘者の不安等に付け込んで先祖の因縁や地獄の恐怖を植え付け、教義を教え込んで強化し、旧統一教会に隷従させるという違法な伝道教化手法を用いてきた。このような伝道教化手法は、単に多額の献金などの経済的被害をもたらすだけではなく、被勧誘者の生き方そのものに関わる信教の自由や自己決定権(信仰選択の自由)を侵害するものであり、旧統一教会の活動の本質的な問題点といえる。しかし、「不当寄附勧誘防止法」はこの点が十分に考慮されていない。
 旧統一教会の本質的な問題点が「正体隠し伝道」による信教の自由や自己決定権の侵害にあることから、同様の人権侵害が繰り返されることのないよう、このような伝道教化活動に対する正面からの規制も検討される必要がある。
    ⑷ 宗教等2世問題について
      ① Q&A等について
 安倍元首相銃撃事件を起こした山上徹也被告人は、いわゆる旧統一教会の「宗教等2世」である。この事件を契機に「宗教等2世」が信仰の強要等の精神的な虐待、信仰を理由とする進路選択や人的交流の制限、献金被害による貧困等成長の過程で深刻な人権侵害や苦難に直面していたことが明るみになった。
 このような宗教を背景とする児童虐待等について、2022年12月27日に厚生労働省が出した宗教虐待に関するQ&Aは、現在の児童虐待防止法の枠組みの中での最大限の対応指針を示したものとして評価できる。しかし、児童相談所の現場や学校現場では必ずしもこのQ&Aが十分周知されているとは言えない。そこで、まずはこのQ&Aを児童相談所や学校等において周知し、宗教虐待等に適切に対処できる体制を整えることが必要である。また、宗教ごとの特色や宗教等2世の抱える悩みや特性を理解して適切に対処するため、宗教等2世の団体との協力関係を築き、その知見を適切に利用できるようにすることが必要である。
      ② 第三者による宗教虐待等について
 Q&Aの作成、公表は重要な一歩ではあるものの、宗教団体の指導が背後にある宗教虐待等への対応には限界がある。そこで、第三者虐待防止法等の新法の制定又は児童虐待防止法の改正により、第三者による宗教虐待等の禁止を明記するとともに、宗教団体等による組織的な宗教虐待等に対処するための国・自治体の権限明確化を図ることなどが必要である。

  3 声明の趣旨第3項(政党及び政治家に対して)について
 政治家が旧統一教会と決別すべき理由は、ⅰ旧統一教会が反社会的行為を繰り返している団体であること、ⅱ旧統一教会と決別しなければその反社会的活動を是正させることが困難になること、ⅲ旧統一教会との繋がりは反社会的団体の違法活動にお墨付きを与え、違法な行為を助長する結果となることである。
 2022年7月以降、各政党において旧統一教会との従前の関係性を問うアンケートが実施されたり、岸田文雄首相において自民党は旧統一教会との関係断絶を徹底する旨の国会答弁がなされたりするなど、旧統一教会との関係を見直す動きが一定程度見られた。しかし、自民党の調査も自己申告に基づくものにすぎず、その後も旧統一教会との関係が明るみになるケースが相次いだ。また、選挙での協力を得るための組織的関係の見直し、政策形成への影響の検証、旧統一教会の名称変更への便宜供与の存否等についての徹底した調査は行われないままとなっている。
 そこで、旧統一教会と政治家とのこれまでの癒着の実態について、第三者委員会等の機関による十分な調査を行い、膿を徹底的に出し切ることが必要不可欠である。
 また、衆議院の解散が近いと取り沙汰されている中で、旧統一教会や関連団体が選挙支援のために近寄ってくることが危惧されるため、政治家の皆様には旧統一教会との関係を断絶していただき、その支援を受けないよう注意していただくことが是非とも必要である。


  4 最後に
 当連絡会は、上記で指摘した各課題の解決に向けて、旧統一教会被害の救済及び防止という設立来の目的の下に、関連各所と積極的に協力・連携し、さらに考え方・意見・政党を問わず政治家の皆様とも協力・連携するなどして、引き続き努力していく決意である。
以上