全国霊感商法対策弁護士連絡会
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代表世話人 弁護士 平岩敬一(横浜)
代表世話人 弁護士 郷路征記(札幌)
代表世話人 弁護士 中村周而(新潟)
代表世話人 弁護士 河田英正(岡山)
代表世話人 弁護士 山口 広(東京) |
事務局長 弁護士 川井康雄(東京)
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本年2月22日、東京地方裁判所において、世界平和統一家庭連合(旧世界基督教統一神霊協会。以下、「旧統一教会」という。)に対する解散命令請求事件の審問手続が実施された。当連絡会は、これまでも裁判所による迅速な審理により早期に旧統一教会に対する解散命令が発令されることを要望してきたし、近い将来、これが実現されるものと確信している。
そこで今般、今後の解散命令に至るまで、そして解散命令が発令された後における旧統一教会問題の残された課題を明らかにし、関係各所にご尽力頂きたく、本声明を発出する。
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第1 声明の趣旨
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1 解散命令請求・清算手続に関する要望について
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(1)速やかな審理への要望
裁判所に対し、旧統一教会に対する解散命令請求事件の審理を可能な限り速やかに進め、早期に解散命令を発令していただくよう求める。
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(2)財産保全関係に関する要望 |
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ア 文部科学大臣、文化庁に対し、指定宗教法人に指定された旧統一教会の財産状況、動向をより一層注視し、財産隠匿の可能性が確認された場合には速やかに特別指定宗教法人に指定していただくよう求める。
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イ 国会に対し、宗教法人法第81条1項1号に基づく解散命令請求が出された宗教法人に対する、より実効性のある包括的な財産保全の法制を整備するよう求める。
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(3)清算人の権限強化等に関する要望
国会に対し、宗教法人法第81条1項1号に基づく解散命令が確定した場合に選任される清算人の権限を強化するなどし、関連団体等への財産移転等がなされた場合にその取戻しを容易にする法整備を行うよう求める。
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(4)清算後の財産に関して
国会に対し、宗教法人法第81条1項1号に基づき解散命令が確定した場合における清算手続後の残余財産について、清算結了後に脱会する信者の被害救済の途が残されるよう法整備を行うことを求める。
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2 清算手続後の団体への対応に関する要望について
政府及び国会に対し、解散手続により宗教法人格を失った後も宗教団体として残存する旧統一教会及びその関連団体について、従前同様の違法行為、人権侵害行為が行われていないかを継続的かつ実効的に注視できる体制構築を求める。
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3 解散前後の脱会者に対する支援に関する要望について
政府に対し、解散命令の前後を通じ、旧統一教会から脱会しようとする現役信者本人及びその家族や、脱会した後の元信者が、専門家による適切な支援を受けられるよう、より一層充実させた体制を構築することを求める。
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第2 声明の理由
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1 声明の趣旨第1項(1)について
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(1)解散命令請求事件の審問手続後に旧統一教会が明らかにしているところによれば、旧統一教会は、宗教法人法は宗教法人に関する公益性を前提としていないからこれを前提として解散命令請求をしている文化庁の主張は誤っている、あるいは、宗教法人法第81条1項1号の「法令」には民法が含まれない、文化庁は条文を特定しようとしていないから解散命令は認められない、といった主張を展開しているようである。
しかしながら、宗教法人が税制優遇を受けられることの根拠はその公益性以外ないことは明らかであるし(民法第33条2項。法人税法上も、宗教法人は「公益法人等」とされている。同法別表第二)、また、上記「法令」には民法が含まれることが法文上から明らかであり、首相答弁でも明言されているところである。そして旧統一教会が不法行為(民法第709条)や使用者責任(民法第715条)に反することを繰り返してきたことは、これまでの裁判例からも明らかである。
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(2)一方で、旧統一教会の被害者の中には、高齢の方や家族に深刻な断絶が生じている方などが多数存在し、一刻も早い救済のためにも、あるいは新たな被害者を生み出さないためにも、旧統一教会の早期解散が必要不可欠である。
裁判所においては、旧統一教会による、いわば時間稼ぎのための反論に取り合うことなく、これまで積み重ねられた裁判例や、そこで認定されてきた被害実態から、可能な限り審理を速やかに進め、早期に解散命令を下していただくよう改めて求める。
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2 声明の趣旨第1項(2)について
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(1)同アについて
現在も救済が図られていない旧統一教会の被害者の被害救済のためには、旧統一教会による財産隠匿をさせないことが重要である。
昨年12月13日に成立した特定不法行為等被害者特例法に基づき、本年3月7日、旧統一教会が「指定宗教法人」に指定された。この結果、旧統一教会は、四半期毎に財産目録等を文化庁に提出し、また、不動産を処分等する場合には1か月前までに所轄庁に通知をしなければいけなくなった(同法第10条、第11条)。
当連絡会が繰り返し指摘している通り、旧統一教会の財産隠匿の可能性が特に高まるのは、一審で解散命令が発令された後、控訴審で同命令が確定するまでの間である。
特に同時期には旧統一教会に財産隠匿の動きが無いかどうかを注視する必要がある。なおかつ、財産隠匿の兆候が確認された場合には、従前の旧統一教会による海外送金の実態などの過去の経緯も含めて財産隠匿のおそれを判断し、直ちに特別指定宗教法人に指定する手続に入るべきである。
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(2)同イについて
前記の特定不法行為等被害者特例法では、包括的な財産保全の規定が盛り込まれなかった。同法では、財産隠匿のおそれが発生して初めて特別指定宗教法人への指定がなされるものとされており(同法第12条1項2号)、例えば、当該宗教法人の財産の大部分が第三者に一括して移転された場合などでは、保全措置が間に合わなくなるおそれがある。
もとより、旧統一教会のように、所轄庁が宗教法人法第81条1項1号に基づいて解散命令請求を申し立てられた宗教法人の場合には、所轄庁の質問権行使その他の調査により、既に公共の福祉を著しく害した宗教法人であると判断されているのであり、そのような宗教法人であれば、被害者のために速やかに財産を保全する必要性が高い。一方で、当該宗教法人による日常的な取引に関しては保全下でも可能とするなどの配慮をすれば、清算手続までに当該宗教法人の財産に一定の制約を課すことにも十分な許容性が認められる。
そこで、国会に対し、改めて、少なくとも所轄庁が宗教法人法第81条1項1号を理由に解散命令請求を申し立てた宗教法人の場合には、被害者救済のための包括的な財産保全ができる旨の法整備を行うことを求める。
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3 声明の趣旨第1項(3)について
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(1)前記の通り、特に解散命令が一審で言い渡された後、控訴審で同判断が確定するまでの間に、旧統一教会による財産隠匿の動きがなされることが強く懸念される。
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(2)旧統一教会には多数の関連団体が存在し、また現在も相当数の信者が現役信者として活動していることから、上記財産隠匿の動きとして、例えば関連団体や現役信者に旧統一教会の財産を移転することが考えられる。
こうした動きがあった場合、破産法における破産管財人であれば否認権行使により上記の如き取引行為を否定し、財産を取り戻す権限があるが(同法第160条、第173条)、清算人にはそのような権限が無い。このため、財産隠匿のため財産移転がされていた場合には詐害行為取消権を行使して財産を取り戻す以外の手段がないが、立証には困難が伴う。
このような現状の法制度の下では、旧統一教会がその財産の一部ないし全部を一挙に関連団体等に移転させた場合、解散命令確定後の清算手続では移転された財産の取戻しに相当長期間を要することになり、被害者救済もその分遅くなってしまい、最悪の場合救済が図られないということになりかねない。
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(3)また、宗教法人法では、清算人の調査権限が明確になっていないが、清算人に旧統一教会の役員らに対する財務状況等に関する報告徴収等の調査権限を付与しなければ、解散された宗教法人の財務状況等を把握することが困難となり、清算手続を迅速かつ円滑に進めることができなくなる。
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(4)そこで、国会に対しては、解散命令が発令されるよりも前に、清算人の権限を強化するなどして財産の取戻しを容易にし、迅速かつ円滑な清算手続が行える法整備を行うよう求める。
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4 声明の趣旨第1項(4)について
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(1)現在の法制度では、解散した宗教法人の清算後に余った財産(残余財産)の処分については当該宗教法人の規則によるものとされており(宗教法人法第50条1項。なお同条2項で、規則が無い場合には他の宗教団体ないし公益事業のために残余財産を処分できるものとされている。)、旧統一教会の場合には、残余財産は旧統一教会の指定する他の宗教法人に帰属することになると考えられる。
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(2)この点、清算手続までに脱会し、被害を申告した被害者については清算手続を通じて救済が図られる可能性があるが、上記現行法の建て付けでは、清算手続が完了し残余財産が他の宗教法人に移転されてしまった後に脱会した信者は、宗教法人に対しては被害回復を求めることができなくなってしまう(宗教法人法第49条の4参照)。
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(3)旧統一教会は、文化庁による質問権行使や解散命令請求、あるいはそれを求める世間の声について、同団体に対する不当な宗教弾圧であるとして、内部の引き締めを必死に図っている。
それでも、裁判所の判断により解散命令に至れば、一定数の信者が教団の言っていることのおかしさに気付き、脱会に至るものと思われるが、先祖の因縁や地獄の恐怖で精神的に長く縛り付けられていたことから、おかしいと思っても簡単に脱会に踏み切れない信者も多くいると考えられる。
そうした信者が将来、ようやく脱会に至った場合に、献金その他の被害を一切回復できないことになれば余りに酷である。
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(4)そこで、国会に対し、こうした清算後の脱会者の被害救済が図られるための法整備(例えば、残余財産を承継した他の宗教法人も、承継する財産の限度で旧統一教会の債務・責任を承継するといった方策が考えられる。)を行うことを求める。
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5 声明の趣旨第2項について
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(1)解散手続により宗教法人格が消滅しても、宗教団体としての旧統一教会は残存することになる。
旧統一教会の組織的な違法行為は、日本は韓国に服従しないといけないという教え、万物復帰という教義、教祖の教え(天法)が一般社会における法秩序(地法)に優るといった考え方、にその原因があり、今後も韓国本部からの高額な献金ノルマの指示が続くと考えられることからすると、宗教法人格を失ってもなお、旧統一教会本体、あるいは関連団体を通じ、従前同様の違法行為が繰り返されるおそれが大きい。
このため、解散命令後の宗教団体としての旧統一教会及びその関連団体について、上記のような違法行為が行われないかを、継続的かつ実効的に注視していく必要性は大きい。
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(2)そこで、政府及び国会に対し、解散手続により宗教法人格を失った後に残存する旧統一教会及びその関連団体について、従前同様の違法行為が行われないかを継続的かつ実効的に注視できるよう、関係機関の連携を含めて体制構築を行うよう求める。
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6 声明の趣旨第3項について
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(1)解散命令が発令されれば、旧統一教会からの脱会者が増加することが予想されることから、解散の前後を通じ、旧統一教会からの脱会者とその家族へのケア、支援体制の整備をより一層進めていくことも重要である。
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(2)まず、脱会に向けた話し合いを行う場合、信者本人だけでなく、その家族もカルト問題の特質を理解する必要があり、そうした家族へのカウンセリングが必要なことも多い。
次に、実際に脱会するに際しても、カウンセラー等の専門家が協力をしなければならない場合があるが、そうした専門家は、まさにカルト団体と正面から対峙することになり、様々なリスクに晒されることになる。
こうした脱会を試みる信者やその家族、カウンセラーに対する社会の理解、支援は、不当な団体からの離脱を進める上で極めて重要であり、そうした理解や支援無しでは、こうした脱会、人権侵害からの救出に向けた活動を継続していくことは不可能である。
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(3)さらに、無事に脱会できた場合でも、特に長年に亘って自分の頭で考えることを放棄させられ、あるいは先祖因縁や地獄の恐怖で縛られてきた信者は、一般社会への復帰が容易でないことも多い。このような脱会者に対しては、精神的なケアのための専門家からのカウンセリングや元信者からのカウンセリングなどが必要となる。
また、旧統一教会内で働いていた信者の場合、年金にも加入できておらず、多額の献金被害と相まって、老後の破綻に直面するという事例も多い。
国は、こうした実態を認識し、社会がこの問題を理解するための啓蒙活動を行うと共に、上記信者や家族、カウンセラー等への様々な支援をしていくべきである。
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7 最後に
当連絡会は、上記で指摘した各課題の解決に向けて、旧統一教会被害の救済及び抑止という目的の下に、関連各所と積極的に協力・連携し、さらに考え方・意見・政党を問わず政治家の皆様とも協力・連携するなどして、引き続き努力していく決意である。 |
以上 |