声  明
2023年9月30日

旧統一教会の解散命令請求を目前に控えて


全国霊感商法対策弁護士連絡会

代表世話人 弁護士 平岩敬一(横浜)
代表世話人 弁護士 郷路征記(札幌)
代表世話人 弁護士 中村周而(新潟)
代表世話人 弁護士 河田英正(岡山)
代表世話人 弁護士 山口 広(東京)
事務局長 弁護士 川井康雄(東京)

  昨年10月19日、岸田文雄首相は、衆議院予算委員会において、宗教法人法の解散命令の要件である「法令に違反し」(同法第81条1項1号)の「法令」に民法の不法行為も入りうる旨を答弁し、同年11月以降、文化庁は世界平和統一家庭連合(旧世界基督教統一神霊協会。以下、「旧統一教会」という。)に対して7回にわたり報告徴収・質問権を行使した。そして、来月中旬にも、文化庁が旧統一教会に対して宗教法人法に基づく解散命令請求を行うと報道されている状況にある。

 全国霊感商法対策弁護士連絡会(以下、「当連絡会」という。)は、1987年の結成以来、旧統一教会による被害を救済し、新たな被害を抑止するため、旧統一教会による霊感商法・正体を隠した伝道活動・合同結婚式・献金や献身の強要等の被害の深刻さ、さらには組織的で悪質な手口を再三訴え、政府に対してはその抜本的な対策を求め、文化庁に対しては解散命令請求を行うように繰り返し申し入れてきた。

 今般、政府が旧統一教会による被害を直視し、文化庁が解散命令請求を行おうとしていることは、遅きに失した感は否めないものの、当連絡会はこれを高く評価する。

 もっとも、解散命令請求が行われ、裁判所により解散命令が出され、旧統一教会が宗教法人格を失ったとして、旧統一教会をめぐる問題が全て解決するわけではない。過去30年以上にわたり放置されてきた、余りにも多くの被害者のほとんどは未だ救済されておらず、二世問題や被害者の家族の問題も残されている。また、解散命令により宗教法人格を失ったとしても「宗教団体」としては活動可能であるから、その後も旧統一教会による被害が生じることがないよう注視しなければならない。

 以上を踏まえ、当連絡会は、旧統一教会の解散命令請求を目前に控え、旧統一教会及び関係各方面に対し、以下のとおり求める。
 
 第1 声明の趣旨

   1 旧統一教会に対して
    旧統一教会に対し、自身が生み出した過去の被害・被害者に真摯に向き合い誠実に対応し、謝罪の上で損害の一切を賠償するよう改めて強く求める。
その前提として、旧統一教会は、過去の違法・不当行為について第三者を関与させるなどして適切に調査し、献金等の経済的被害を訴える者からの献金記録等の開示請求があった場合は、速やかに当該記録等を開示するよう求める。

   2 解散命令請求事件の迅速な審理
    裁判所及び政府に対し、旧統一教会の解散命令請求事件の審理を可能な限り迅速に進め、速やかに解散命令が出されるように求める。

   3 財産保全の特別措置法
    政府及び各政党に対し、今臨時国会中に速やかに、政府によって解散命令請求がなされた宗教法人について、財産の隠匿・散逸が懸念される場合に、裁判所が当該宗教法人の財産を管理し保全することを可能とする特別措置法を成立させるよう求める。

 第2 声明の理由

   1 声明の趣旨第1項(旧統一教会に対して)について    
     当連絡会は、昨年7月に発生した安倍晋三元首相銃撃事件以後も、旧統一教会に対して、個々の信者らに責任を押し付けることなく、自身が生み出した過去の被害・被害者に真摯に向き合い誠実に対応し、謝罪の上で損害の一切を賠償するように繰り返し求めてきた(昨年9月16日付け及び本年7月7日付けの各声明)。

 しかし、旧統一教会は、相変わらず被害・被害者に真摯に向き合う姿勢を見せていない。それどころか、当連絡会をはじめ、その所属の弁護士や教団への批判者、さらには、旧統一教会との関係を適切に対応しようとする地方自治体を被告として、なりふりかまわず民事訴訟を提起するなどしている。

 今般、文化庁が解散命令請求を行うということは、政府が旧統一教会について「法令に違反して、著しく公共の福祉を害すると明らかに認められる行為をした」(宗教法人法第81条1項1号)、つまり反社会的な行為を法人として組織的に継続して行ってきたものと判断したことを意味する。

 旧統一教会は何よりもこの事実を重く受け止め、真摯に反省し、まず第一に、被害者に対する真摯な謝罪と賠償を行うべきである。

   2 旧統一教会のいう「教会改革」なるものの欺瞞性
    (1)旧統一教会のいう「教会改革」   
       元首相銃撃事件以後、旧統一教会は「教会改革のアクションプラン」などと称して、自らが改革を進めていると盛んにアピールしている。

 しかし、これはいずれも欺瞞的なものであり、世間への目くらましに過ぎない。

 一般には、不祥事を起こした企業や団体であれば、まずは過去の事実をきちんと調査・検証し、被害者に真摯に向き合い、謝罪し賠償するのが当然であり、これが再起に向けたスタートと認められるための条件といえる。

 しかし、旧統一教会においてはそのような姿勢が全くない。被害を訴える声に対し、その被害が教団に反対する者によって捏造されたものであるかのように主張しており、加害者としての自覚や反省が根本から欠けている。それどころか、被害の声を上げる者に対して、その声を押さえ込もうとしたり攻撃したりする姿勢さえ見せている。旧統一教会のいう「教会改革」なるものは、肝心の被害者を置き去りにしたものであり、甚大な被害を生じさせてきた教団の体質を変えるものでは全くない。


    (2)各種データに基づく旧統一教会の主張について
       ア いわゆる「コンプライアンス宣言」  
       旧統一教会は、2009年3月25日に「コンプライアンス宣言」なるものを発出して「教会改革」を進めたとし、以後は、相談件数も裁判件数も急減したとする。そして、これを裏付けるものだとしてウェブサイト上で各種データを提示している
(https://ffwpu.jp/reformation/curent_ffwpu)。

 しかし、「コンプライアンス宣言」なるものはそもそも2009年2月に旧統一教会の関連会社に警察の強制捜査が入ったことを受けて、教団の存続を図るために対外的なアピールとして出したものに過ぎず、「コンプライアンス」などといえるものでは到底ない。その後の「教会改革」なるものも、いわば弁護士対策・裁判対策として行われたものであり、このことは教団の内部資料からも明らかになっている。

 実際には以下のとおり、2009年3月の「コンプライアンス宣言」以後も引き続き多くの相談・裁判が存在しており、同宣言が何ら内部的にも周知・徹底などされていなかったことが明らかである。


       イ 相談件数  
       まず旧統一教会は、消費者庁の相談件数を引用し、近年の相談件数について、「当法人に関する最近の相談は、全体の中では数(2~4)%とかなり少ない」「年々相談が減っていたにもかかわらず、今回の報道後一気に増えた」
(https://ffwpu.jp/reformation/curent_ffwpu)など主張する。

しかし、
        (ア) 当連絡会や、全国の約350名の弁護士で構成される「全国統一教会被害対策弁護団」(全国弁護団)所属の弁護士が交渉・訴訟事件として実際に「受任」した(単なる「相談」は含まない。)、「コンプライアンス宣言」以後の被害は、現時点で判明しているだけでも140件・19億5092万4233円という巨額かつ深刻なものである。

 全国弁護団の依頼者だけを見ても、第1次集団交渉(本年2月)~第5次集団交渉(同年9月)の通知人合計116名のうち、「被害終期」が「10年以内」の方、すなわち2009年3月の「コンプライアンス宣言」以後に被害を受けたという方が実に61名(52.5%)にも上っている。

        (イ)「日本弁護士連合会」(日弁連)が本年3月に出した「霊感商法等の被害に関する法律相談 事例収集(第2次集計報告)」では、全相談件数(762件)のうち510件(66.9%)が旧統一教会に関する相談である(4頁)。

 この510件中、「被害終期」が「現在も継続」と「10年以内」のもの、すなわち「コンプライアンス宣言」以後に被害を受けたという相談は実に229件(44.9%)にも上っている。
        (ウ)「日本司法支援センター」(法テラス)が本年9月に出した「相談状況の分析 『霊感商法等対応ダイヤル』」では、相手方について回答があった全相談(3277件)のうち1033件(31.5%)が旧統一教会に関する相談である(1頁)。

 この1033件中、「金銭的トラブル」が624件あり、その中で「直近の金銭支出時期」が10年以内のもの、すなわち「コンプライアンス宣言」以後に被害を受けたという相談が合計144件(23.0%)にも上っている。
 
         これらのデータは、旧統一教会による違法・不当行為が「コンプライアンス宣言」後も継続していることを端的に示している。

       ウ 裁判件数  
        (ア)次に、旧統一教会は、裁判件数について、「2009年3月のコンプライアンス宣言により教会改革が進み、献金裁判は急減しました。宣言以降2016年3月までの7年間で4件ありましたが、16年3月以降はゼロとなっています。」とし(https://ffwpu.jp/reformation/curent_ffwpu)、「献金に関しては2016年以降は裁判もなく」なっている(https://ffwpu.jp/news/4329.html)とする。

        (イ)この点、旧統一教会のウェブサイトには、「献金裁判は2009年以降4件。2016年以降はゼロ。」とのタイトルの下で図が示され、「『継続性』なし」、「6年9か月にわたり 0」などと大きなフォントで殊更に目立つように強調されているが、よく読むと、図の左下に非常に小さな字で「※最初の出金行為の時点」と記載されている(次頁の図左下の赤矢印参照)。

 これは、実際には「最初の出金行為の時点」を基準とした裁判件数であるにもかかわらず、あたかも旧統一教会に対する献金裁判そのものが「コンプライアンス宣言」以降は4件しかなく、2016年以降はゼロとの印象を与える意図で作成されたものであることが明らかであり、極めて欺瞞的かつ不当なものといえる。



        (ウ)実際には、2009年以降も、旧統一教会に対する献金裁判は、裁判数としては、現在も審理が続いているものを含めて少なくとも14件が存在する。その中で、旧統一教会の責任を認めた判決は、地方裁判所のものと高等裁判所のものを合せて少なくとも21件出ている(第一審裁判所と控訴審裁判所の各判決は別個独立の裁判体の判断であるから、判決自体の数としては別である。)。その21件の判決のうち、4件は2020年代に入ってからの判決である。

 したがって、旧統一教会に対する献金裁判が「宣言以降2016年3月までの7年間で4件ありましたが、16年3月以降はゼロとなっています。」という主張は明らかに事実に反する。

 また、「献金に関しては2016年以降は裁判もなく」なっているという主張についても、実際には2016年以降も上記14件中の6件の裁判は審理が続いていたのであるから、なくなってなどいない。それどころか、上記14件のうちいくつかの裁判は、各地の地方裁判所(東京地方裁判所、前橋地方裁判所、札幌地方裁判所)への新たな提訴により2016年以降に開始されたものである。

 したがって、「献金に関しては2016年以降は裁判もなく」なっているという主張も明らかに事実に反する。

   3 声明の趣旨第3項(解散命令請求事件の迅速な審理)について    
     解散命令請求事件は非訟事件と呼ばれる訴訟類型であり、裁判所による解散命令は、遅くとも、高等裁判所が教団側の抗告を棄却する決定を出した時点で確定する(さらに最高裁判所への特別抗告等も可能であるが、確定自体は高等裁判所の決定時点である。)。

 過去に宗教法人法第81条1項に基づき解散を命じられたのは3教団(オウム真理教、明覚寺、大日山法華経寺)であるところ、解散命令請求がなされてから確定するまでの期間は、オウム真理教の場合で6か月弱、明覚寺の場合で2年10か月弱、大日山法華経寺の場合で9か月強である。

 この点、旧統一教会は今なお全国で活発に活動しているのであるから、審理が迅速に行われなければ被害が拡大することになりかねない。また、後述するとおり財産隠匿・散逸をなす時間的猶予を与えることにもなる。

 そして、なによりも、長年にわたり甚大な被害を生み出し、その責任を認める判決が全国各地で多数確定している旧統一教会が解散命令の要件を満たしていることは明らかであるから、それほど審理に時間はかからないはずである。

 裁判所及び政府は、可能な限り迅速に解散命令請求事件の審理を進めるべきであり、その上で速やかに解散命令請求が出されるべきである。

   4 声明の趣旨第3項(財産保全の特別措置法)について    
     当連絡会は、本年5月16日付け及び7月7日付けの各声明において、政府及び各政党に対し、早急に財産保全のための特別措置法を成立させるように求めた。

 しかし、解散命令請求を目前に控えた現時点においても、政府及び国会にはその成立に向けた現実的な動きは見られない。

 くり返しになるが、今最も大事なのは、解散命令請求をされた宗教法人の財産保全を図るための特別措置法を成立させ、早急に財産保全を行うことである。解散命令だけでは決定的に不十分であり、財産保全がなされて初めて被害救済が実現する道が開かれることになる。

 すなわち、旧統一教会は、これまで毎年数百億円もの資金を韓国やアメリカに送金してきており、組織的に全国の不動産売却を図ったこともある。解散命令請求がなされた後、解散命令の確定が近づくにつれ、海外送金、特に韓国本部への資金流出や不動産の売却等により財産隠匿・散逸を図る現実的な可能性は極めて高い。

 解散命令が確定し清算手続に移行すると、裁判所から清算人として選任された第三者の弁護士が、法人の財産を処分し、債権者へ配当を行うことになる。被害者も債権者と認められれば、清算手続の中で支払を受けることができ、被害救済が図られる。しかし、解散命令が確定し清算手続開始前に財産が隠匿・散逸されてしまえばそれも不可能となり、被害者は泣き寝入りとなってしまうのであり、そのような事態はなんとしてでも避けなければならない。

   5 最後に
     当連絡会は解散命令請求がなされた後も、旧統一教会被害の救済及び抑止という結成以来の目的に向けて、関連各所と積極的に協力・連携し、さらに考え方・意見・政党を問わず政治家の皆様とも協力・連携するなどして、引き続き努力していく決意である。

以上