声   明
2023年5月16日

解散命令請求時に財産保全の立法を


 全国霊感商法対策弁護士連絡会          
代表世話人 弁護士 郷路征記(札幌)
代表世話人 弁護士 中村周而(新潟)
代表世話人 弁護士 河田英正(岡山)
代表世話人 弁護士 平岩敬一(横浜)
代表世話人 弁護士 山口 広(東京)
事務局長 弁護士 川井康雄  
      
 
 第1 声明の趣旨

  政府または各政党に対し、可及的速やかに、裁判所に宗教法人法第81条1項に基づき宗教法人の解散命令が請求された場合に、裁判所が対象宗教法人の財産を管理し、保全することを可能とする特別措置法案を提出し、今国会中に成立させるよう求めます。

 第2 声明の理由 

  1 世界平和統一家庭連合(旧統一教会)に対する解散命令請求

     文化庁宗務課は、昨年11月から本年3月まで合計5回に亘って旧統一教会に対して宗教法人法78条の2の規定に基づいて報告徴収を行い、旧統一教会の調査を進めています。また、文化庁次長は週刊文春の取材に対して「統一地方選の後に解散命令請求を断念というのは、私ども官僚としての矜持の観点からも無い」と述べており、さらには、5月10日の松野博一官房長官は、記者会見で「旧統一教会については報告徴収質問権の行使をするとともに、文部科学省において被害者の方々や被害の事案を良く知る全国弁連からも資料や情報提供をいただき、分析を進めている。」「こうした対応を着実に進め、そのうえで法律にのっとり必要な措置を講じる」旨述べています。

 当連絡会としては、被害者の救済や新たな被害の予防の観点から旧統一教会に対する解散命令請求はなされなければならないと考えておりますし、このような政府や文化庁の姿勢から解散命令請求は近いうちになされるものと信じております。また、裁判所において1日も早く解散命令が下されることを願っております。


  2 宗教法人解散請求の際の財産保全規定の不存在

     しかし、旧統一教会の田中冨廣会長は3月29日の共同通信のインタビューにおいて、解散命令請求に対して「とことん裁判に臨む。引くことはない。」と述べていることからしても、政府によって旧統一教会に対する解散命令請求がなされたとしても、最高裁判所で解散命令が確定するまでに相当期間を要することになりかねません。

 宗教法人法に基づいて裁判所で解散命令が下された過去の事例の中には、オウム真理教に対する解散命令請求のように、約7か月で最高裁判所により教団側の特別抗告が棄却された例もありますが、明覚寺の事案では1999年12月に解散命令請求がなされ、和歌山地方裁判所での命令が出たのが2002年1月、大阪高等裁判所で明覚寺の即時抗告が棄却され解散命令が確定したのが2002年9月であり、最高裁判所で明覚寺の特別抗告が棄却されるまでの期間を含めると約3年間を要しています。このような過去の事案からしますと、旧統一教会に対する解散命令請求についても確定まで一定の期間を要することが危惧されます。

 このように解散命令請求からその確定まで相当の期間を要する可能性があるにもかかわらず、宗教法人法にはこの間の財産の散逸隠匿を回避するための財産保全の規定が置かれていません。まさに法の不備が存在する状態にあります。


  3 旧統一教会の解散命令請求にあたっての財産保全の必要性

     旧統一教会は韓国に本部があり、世界各地に支部を有する宗教団体であり、日本国内のみならず海外においても多数の関係組織や個人が存在します。そのため旧統一教会がその財産を移動・隠匿させることは容易であり、一度散逸させてしまえばその十全な回復は困難です。

 実際、旧統一教会は、アメリカ合衆国ワシントンDCの裁判において、UCIという関連団体に対して2010年まで毎年1億ドルを超える送金をしていたと認定されています。

 また、日本は、教義上「エバ国家」として「アダム国家」である韓国を支える使命を負わされており、これまでも日本から韓国へ、毎年数百億円もの送金がなされています。

 さらに、特に旧統一教会にも警察の捜索が行われた2009年の新世事件以降は、日本の信者らは韓国の清平で直接先祖解怨献金をするよう指示されたり、韓国のウリィ銀行に送金するよう指示されたりしており、日本の信者らの献金を日本法人を経ることなく韓国本部に集める方策を講じています。このように韓国本部に日本の信者らの献金を集めようとしていることは今年5月初めから同月6日まで行われた韓国本部の総裁である韓鶴子の誕生日を祝う献金についてもウリィ銀行に送金するよう求められていることからも明らかです(資料)。

 加えて、前述の共同通信による田中会長のインタビューでは、田中会長は6月にも日本の信者の献金を韓国本部に送金再開することの可否を判断するとしています。実質的に日本法人の財産を韓国に流出させることを公言するに等しい暴挙的発言です。

 このような事情からすれば、旧統一教会に対する解散命令請求がなされた場合には、日本の信者らによる膨大な金額の献金が野放図に海外へ移転散逸させられる危険性が高いことは明らかです。

 一方、全国統一教会被害対策弁護団では、本年2月及び4月の2回に亘る集団交渉の申し入れで被害者70名について19億円を超える損害賠償請求がなされており、今後もさらに損害賠償請求が追加されることが見込まれています。しかも、旧統一教会の被害者は、このような社会的批判にさらされる事態になってもなお教団から抜け出せないほど強い霊界や地獄の恐怖やいわゆるマインドコントロールによって精神的に支配されており、数年ないし十数年後にようやく脱会して被った損害についての賠償請求をすることも十分に考えられます。そのため、このような被害者を救済するためにも財産を保全する必要性は切実です。


  4 まとめ

     以上のとおり、解散命令を請求された旧統一教会は、解散命令がなされるまでの間、ほぼ自由にその資産を隠匿散逸させることが可能な状態にあります。このような財産の隠匿散逸行為が自由に行える状態が放置された場合には、日本の信者らによる膨大な金額の献金が野放図に韓国等に送金されてしまい、現在損害賠償請求をしている被害者のみならず、今後損害賠償請求をする可能性のある潜在的被害者が賠償を受けることができず、旧統一教会の被害者は泣き寝入りすることとなってしまいます。

 よって、以上のような旧統一教会の特殊事情及び近い将来の解散命令請求が予想される状況に鑑み、今国会において、財産の保全措置を講じることを可能にする特別措置法を成立させるよう関係各機関及び政党に求める次第です。


 以上