公 開 申 入 書 
 2022年10月11日 
文部科学大臣 永岡 桂子 殿
法務大臣   葉梨 康弘 殿
検事総長   甲斐 行夫 殿
     
 全国霊感商法対策弁護士連絡会    
代表世話人 弁護士 郷路征記(札幌)
代表世話人 弁護士 中村周而(新潟)
代表世話人 弁護士 河田英正(岡山)
代表世話人 弁護士 平岩敬一(横浜)
代表世話人 弁護士 山口 広(東京)
 事務局長  弁護士 川井康雄(東京)

 第1 申入れの趣旨
   1 文部科学大臣は、世界平和統一家庭連合(旧統一教会)に対し、速やかに、宗教法人法第81条1項に基づき解散命令を請求されたい。
   2 法務大臣は、検察官を通じ、世界平和統一家庭連合(旧統一教会)に対し、速やかに、宗教法人法第81条1項に基づき解散命令を請求されたい。

 第2 申入れの理由
   1 はじめに
   世界平和統一家庭連合(以下「旧統一教会」という。)に対し解散請求をすべきである理由は、当連絡会が本年9月16日に採択し、文部科学大臣、法務大臣に対しそれぞれ同月21日付で送付した声明文の、声明の趣旨2項及びその理由のとおりである。
しかしながら、これと前後し、文化庁宗務課から、解散請求を行うことに対する消極的な意見が随所で明らかにされたので、当該意見が誤りであり、不当であることを指摘する必要がある。
また、上記声明後に行われた旧統一教会による動きについても、解散請求との関係で説明を行い、さらに、解散請求については文部科学大臣と検察官とが共同して行うべきであると考えるのでその理由も明らかにする。


   2 文化庁宗務課の消極意見について
     (1)オウム高裁決定について
     文化庁宗務課が「解散請求が難しい」とする理由は、宗教法人法第81条1項の「法令に違反」の解釈について、オウム事件の高裁決定(平成7年12月19日、判例タイムズ894号43頁)が「刑法等の実定法規の定める禁止規範又は命令規範に違反」することであると判示しているところ、ここでいう「禁止規範又は命令規範」に民法が含まれるのかどうか判然としない、というものである。
 しかし、これは旧統一教会に対する解散請求を消極的に解する理由にはならない。

       ア 同高裁決定は、たしかに「解散命令制度が設けられた理由及びその目的に照らすと、右規定にいう『宗教法人について』の『法令に違反して、著しく公共の福祉を害すると明らかに認められる行為』(1号)、『2条に規定する宗教団体の目的を著しく逸脱した行為』(2号前段)とは、宗教法人の代表役員等が法人の名の下において取得・集積した財産及びこれを基礎に築いた人的・物的組織等を利用してした行為であって、社会通念に照らして、当該宗教法人の行為であるといえるうえ、刑法等の実定法規の定める禁止規範又は命令規範に違反するものであって、しかもそれが著しく公共の福祉を害すると明らかに認められる行為、又は宗教法人法2条に規定する宗教団体の目的を著しく逸脱したと認められる行為をいう」としている。
 ただし、同判示よりも前の判断を見ると、「同法が81条1項1号及び2号前段において宗教法人に対する解散命令制度を設けたのは、宗教団体が、国家又は他の宗教団体等と対立して武力抗争に及び、あるいは宗教の教義もしくは儀式行事の名の下に詐欺、一夫多妻、麻薬使用等の犯罪や反道徳的・反社会的行動を犯したことがあるという内外の数多くの歴史上明らかな事実に鑑み、同法が宗教団体に法人格を取得する道を開くときは、これにより法人格を取得した宗教団体が、法人格を利用して取得・集積した財産及びこれを基礎に築いた人的・物的組織等を濫用して、法の定める禁止規範もしくは命令規範に違反し、公共の福祉を害する行為に出る等の犯罪的、反道徳的・反社会的存在に化することがありうるところから、これを防止するための措置及び宗教法人がかかる存在となったときにこれに対処するための措置を設ける必要があるとされ、かかる措置の一つとして、右のような存在となった宗教法人の法人格を剥奪し、その世俗的な財産関係を清算するための制度を設けることが必要不可欠であるとされたからにほかならない」(下線は当職らによる加筆)としている。
 すなわち、同決定は、前記判示後半の禁止規範又は命令規範の例示である刑法「等」に対応する内容として、「反道徳的・反社会的行動」「法人格を利用して取得・集積した財産及びこれを基礎に築いた人的・物的組織等を濫用して、法の定める禁止規範もしくは命令規範に違反し、公共の福祉を害する行為に出る等の犯罪的、反道徳的・反社会的存在」に化したことを挙げているのであり、「法令」を犯罪行為に対応する刑法に限定せず、反道徳的、反社会的行動をも対象として含めるものとしていることが明らかなのである。
 そもそも、宗教法人法第81条1項の「法令」が刑法に限定されるのであればそのことが明記されるはずであるから、文言解釈上も、「法令」を狭く解する理由は無いのである。

        この点、旧統一教会は、その伝道活動や献金勧誘行為について、司法の場で繰り返し民法第709条の不法行為責任または民法第715条の使用者責任を負うとの判決を受けている。そして、京都大学の故潮見佳男教授によれば、民法の「不法行為とは、私的生活関係において他人の権利を侵害する行為であって、法秩序がその権利を保護するために、行為者の権利にも配慮しつつ設定した禁止・命令規範に違反すると評価されるものをいう」とされている(潮見佳男著「不法行為法T(第2版)」信山社出版)。また、民法が「実定法規」に該当することも明らかであるから、民法上の不法行為責任及び使用者責任が認められている旧統一教会については、オウム高裁決定の「刑法等の実定法規の定める禁止規範又は命令規範に違反」したという宗教法人格解散の要件を満たしていることは明白である。

       ウ これに加え、旧統一教会の伝道活動や献金勧誘行為が違法であるとされた多くの民事判例の判示は、いずれもこれらの行為が「社会的相当性を逸脱」したものであることを理由として民法上の不法行為に該当する、としている。
 少なくとも上記の「社会的相当性逸脱」を理由とする不法行為が社会に対して繰り返されている場合には、「反社会的行動」に該当するものとして「法令に違反し」たものと判断すべきである。
 よって、旧統一教会は、前記判示にあるように、「法人格を利用して取得・集積した財産及びこれを基礎に築いた人的・物的組織等を濫用して、法の定める禁止規範もしくは命令規範に違反し、公共の福祉を害する行為に出る等の犯罪的、反道徳的・反社会的存在に化」していることが明らかである。前記オウム高裁決定はむしろ、旧統一教会の解散を認めるべき根拠とさえ言えるのである。


        さらに言えば、上記高裁決定の「刑法等の実定法規の定める禁止規範又は命令規範に違反」との判示部分は、判例として確立したものではない。
 同事件の解散請求に対してはオウムからの特別抗告により最高裁の判断が下されているが(最高裁判所第1小法廷決定、平成8年1月30日、判例タイムズ900号160頁)、そこでの判断は、解散命令が内部信者の信教の自由を侵害することになるかに関するものに限られており、前記高裁決定による宗教法人法第81条1項の解釈に関する判断ではない。
 オウム事件では解散請求の前提として地下鉄サリン事件の発生、そしてサリン生成による殺人予備罪が既に刑事事件として係属していたという特殊性があり、前記オウム高裁決定はそうした事案であることを踏まえて下された事例判断に過ぎない。
同決定の文言に拘泥し、刑事事件が無い限り解散請求はできないとするのは、被害者となった多くの国民の側の信教の自由、財産権の保護を蔑ろにする不当なものといわざるを得ない。
かかる観点からすると、現在までに解散請求の検討すらしてこなかった文化庁宗務課の対応は極めて問題といわざるを得ない。このような対応は、旧統一教会の被害について初めて国(実質的には宗務課)の不作為の責任を問うた裁判(鳥取地方裁判所米子支部平成21年(ワ)第170号)の和解調書(但し更正前)に記載された「被告国においても、従前の宗務行政の適法性・妥当性に対する疑問の余地がないわけではない」との裁判所の指摘、そして国が「宗教法人法の趣旨目的に則り、適切にその職務を行っていく」と同和解調書で約束した内容を反故にしているも同然の態度であって、猛省すべきである。


        文化庁の上記主張・姿勢には、宗教法人に対する税制上の優遇=事実上、国から宗教法人への助成金となっている、という視点が欠如しているとしか思われない。現行法制では宗教法人格と税制上の優遇は区別されていないため、宗教法人格を維持する限り、税制上の優遇も続くことになる。旧統一教会について解散請求を検討する際には、前述の刑事事件の有無といった条文にない要件を加えて解散請求を消極に解するのではなく、「旧統一教会は税制上の優遇措置を受けるに値するか」という観点から積極的な検討を行うべきである。

      (2)社会通念に照らし、当該宗教法人の行為であるといえるといえること
        前記オウム高裁決定では、問題となる行為が当該宗教法人による行為でない場合でも、社会通念に照らして、当該宗教法人の行為であるといえる場合には、解散請求の要件である「宗教法人について」に該当する、としている。
 この点、当連絡会のホームページでは、旧統一教会の責任を認めた28件の民事裁判情報を掲載している。これらのほとんどは、信者による伝道活動、献金勧誘行為に対し、旧統一教会の使用者責任が認められたものであるものの、これほど多数回、長期間に亘り、各地における違法な勧誘行為について使用者責任が認められているということ、そして本来、伝道活動や献金勧誘活動は宗教法人の目的に沿った活動であることに鑑みれば、「社会通念に照らして」(前記オウム高裁決定の判示参照)、いずれも旧統一教会による行為であると判断されるべきである。
 また、同掲載のNo27、東京地判平成28年1月13日、東京高判平成28年6月28日は、旧統一教会の組織的不法行為を認定し、民法第709条に基づく法人の不法行為責任を認めている。


       イ さらに、2007年から2010年にかけて相次いだ、特定商取引法違反11件、薬事法違反2件の全国的な刑事摘発では、販売目的を告げずに販売店舗に客を連れてきてその不安を殊更煽って商品を購入させたり、高麗人参液の効能を謳って販売したりするなど、手口の共通性が認められる。とりわけ2009年の新世事件の東京地裁判決では「役員も販売員も全員が統一教会信者」「手法が信仰と渾然一体となっているマニュアルや講義」「統一教会の信者を増やすことをも目的として違法な手段を伴う印鑑販売を行っていた」「相当高度な組織性が認められる継続的犯行の一環」などと認定されている。

        これに加え、最近までに当連絡会に寄せられた旧統一教会の内部資料においても、旧統一教会が全国各地の地方組織に献金ノルマを課し、同様の手口、説得方法により過大な献金を搾取し続けたりしていた実態が明らかとなっている。こうしたノルマを達成するために全国で手口を共通にした正体隠し伝道活動、献金勧誘行為がなされていることからすると、これらの行為が旧統一教会による行為と評価されるべきであることは明らかである。

        通常、宗教と信者の間に雇用関係はないので、宗教団体は信者の違法行為について使用者責任を負わない。統一協会の場合は、ア、ウで述べたとおり、統一協会の指揮命令下において違法行為を行っていたことまで認定されているから使用者責任を負うものであり、判決の結論が統一協会の不法行為責任が使用者責任を理由とすることは宗教法人上の解散命令を否定する理由にはならない。

    3 著しく公共の福祉を害すると明らかに認められる行為であること
     (1)被害の程度が重大であること
       ア 信教の自由の侵害
 旧統一教会の最大の問題は、勧誘されて信者になった方々の信教の自由が侵害されている、ということである。少なくとも、1980年代に霊感商法の問題が広く報道されて社会に注目されて以降、統一教会の名称を予め知りながら入会した信者というのは、いたとしても極めて少数であったはずである(旧統一教会自身が、そうした社会的な悪評を理由に、正体隠しの伝道をしていたことを認めている。)。逆に言えば、大多数の信者は、旧統一教会による勧誘であったことを知らされないまま勧誘され、それが旧統一教会の教義であることを知らされないままその教義を事実だとして植え付けられて信者にさせられたもの、ということになる。
 信仰はその人の人生にとって極めて大きな意味を持つ。まして、それが旧統一教会のように、一旦入信してしまうと、万物復帰の教義の下で多額の財産を収奪されたり、教祖が定めた相手と結婚させられたり、新たな被害者を生み出す伝道活動に従事させられたりといった活動に従事させられる場合、そして脱会すると地獄に落ちるというような内容を教えこまれるため自らの判断で脱会することが極めて困難である実情に鑑みると、その人の人生に与える影響は計り知れないものとなる。
そうすると、そのような宗教に入信するかどうかに際しては、団体名は勿論のこと、それが宗教団体の勧誘であることや入信後の中核的活動を予め説明されることはその人の信教の自由を保護する上で極めて重要なものとなる。その説明がされず、あるいは意図的に嘘の説明がされて信仰を持たされたということは、その人の人生にとって致命的ともいうべき重大な侵害を生み出す信教の自由への侵害があったことになるし、そのようにして持たされた信仰が、その後の多額な財産被害を含め多くの被害を生み出しているのである。
こうした正体を隠した伝道活動が違法であることは、平成12年9月14日広島高裁岡山支部判決(民事裁判情報No8)、平成13年6月29日札幌地裁判決(同No10)、平成14年8月21日東京地裁判決(同No12)、平成14年10月28日新潟地裁判決(同No14)、平成15年5月21日大阪地裁判決(同No15)、そして平成24年3月29日、平成26年3月24日札幌地裁判決(同No24、26)と、長期間に亘り全国各地で認められている。なお、資料1にある通り、こうした正体隠し伝道は、旧統一教会の2009年コンプライアンス宣言以降も続けられているのである。
このような重大な人権侵害が長期間に亘り全国各地で多数人に対し行われてきたことは、旧統一教会が「著しく公共の福祉を害すると明らかに認められる行為」をしてきたものと認められる。


        財産権の侵害
 旧統一教会による違法な献金勧誘行為、物品購入勧誘行為に対する違法性が認められた主な判決としては平成6年5月27日福岡地裁判決(民事裁判情報No1)、平成9年10月24日東京地裁判決(同No2)、平成9年4月16日奈良地裁判決(同No3)、平成8年1月23日高松地裁判決(同No4)、平成11年3月23日仙台地裁判決(同No5)、平成11年12月16日福岡地裁判決(同No6)、平成12年4月24日東京地裁判決(同No7)、平成12年9月14日広島高裁岡山支部判決(同No8)、平成13年11月30日大阪地裁判決(同No11)、平成14年10月25日京都地裁判決(同No13)、平成15年6月26日大阪地裁判決(同No16)、平成18年10月3日東京地裁判決(同No17)、平成19年5月29日東京地裁判決(同No18)、平成20年1月15日東京地裁判決(同No19)、平成21年12月24日東京地裁判決(同No20)、平成22年3月11日福岡地裁判決(同No21)、平成22年12月15日東京地裁判決(同No22)、平成23年2月28日福岡地裁判決(同No23)、平成27年3月26日東京高裁判決(同No25)、平成28年1月13日東京地裁判決(同No27)、令和2年2月28日東京地裁判決(同No28)、がある。
 これらの裁判で認められた損害額だけでも合計15億円を超えるが、訴訟提起したものの和解で解決した事例での和解金は資料2の通り114億円以上に上る。さらに、この他に、交渉で和解して解決した事例も甚大な量、金額に上る(ただし交渉による和解の統計データは無い)。
 旧統一教会の被害者は、信者であった際に「脱会すると地獄に落ちて永遠に苦しむことになる」などと信じ込まされていることから、脱会した後も、その恐怖が抜けきらなかったり、家族にさえも相談できなかったりするケースも多く、弁護士に相談して献金等の返還請求をするのはごく一部に限られる。
 そうした実情も加味すると、前記の多額の被害金額でさえも、旧統一教会の被害の一部に過ぎないということになる。
 なお、旧統一教会の、日本から韓国への送金実績表という内部資料によれば、1999年は653億円、2000年は640億円、2001年は322億円、2002年は520億円、2003年は606億円、2004年は669億円、2005年は668億円、2006年は469億円、2007年は750億円、2008年は600億円、2009年は585億円、2010年は575億円、2011年は594億円とされている(但し2007、2008年は推定、とされている)。これら巨額の金員のほとんどが日本人からの、違法な献金勧誘や物品販売勧誘で集められた金員であることが容易に推認されるのである。
 このような莫大な金額が日本人から搾取されていた点だけからしても、日本人の財産権の侵害が重大であることは明白であって、旧統一教会が「著しく公共の福祉を害すると明らかに認められる行為」をしてきたものと認められる。


     (2)長期的に亘り継続されてきたこと
      上記のような信教の自由、財産権に対する重大な侵害行為は長年に亘り継続されてきたものである。前記の通り、これらの行為を違法と断じた裁判例が多数存在するが、伝道活動の違法性は平成12年9月14日広島高裁岡山支部判決(民事裁判情報No8)で最初に認められたにも拘わらず、旧統一教会は、以後少なくとも約16年に亘り、正体隠しの伝道を継続してきた。
 また、献金勧誘行為の違法性は平成6年5月27日福岡地裁判決(民事裁判情報No1)で最初に認められたが、旧統一教会はそれ以降少なくとも約22年間に亘り、同様の献金勧誘を続けているのである。


     (3)小括
      以上の通り、旧統一教会による信教の自由、財産権に対する侵害の程度は全国に及び多数かつ深刻である。しかも、これを長期間継続することで、多くの国民の信教の自由、財産権を侵害してきたのであって、旧統一教会が「著しく公共の福祉を害すると明らかに認められる行為」をしてきたと優に認められる。

     4 今後の改善が見込まれないこと
    (1)旧統一教会は、2009年に「コンプライアンス宣言」を行い、また、2022年9月21日以降「教会改革」と称し、上記コンプライアンス宣言を徹底した上、今後、裁判で問題とされたような献金勧誘はせず、伝道活動では家庭連合の名称を明示し、被害を訴える方に誠意を尽くして対応する、などと主張している。
かかる主張は、解散請求があった際に、「解散事由にかかる事情変更があった」と言うための布石であろうと考えられるが、以下の通り、旧統一教会のこれらの主張は到底信用出来ない。


    (2)韓国本部の指示に対する言及が無いこと
 旧統一教会の献金集めや伝道は、現在の教団総裁である韓鶴子及びその周辺幹部からの指示によってなされている。コンプライアンス宣言や教会改革のとおりの方針が仮に実施された場合、従前のように多額の献金を日本の組織で集めて韓国に送ることができないことは明らかである。2009年の「コンプライアンス宣言」の際も信者の生活状況に比して過大な献金をさせないことを各教会指導者に徹底させるとの指示がなされたにもかかわらず、韓国への送金指示は変わらず、上記のとおり、2009年以降も従前とほぼ変わらない送金がなされてきたのである。このような経緯や、その資金が世界各国での活動資金となっているという実態からして、韓国本部が韓国への送金指示を止めたり、大幅に減額したりすることは到底考えられない。
 しかも、アベルカインの教義上、日本は韓国本部からの指示に逆らえないのであるから、上記のような主張をするのであれば、韓国本部としての方針変更が明確にされない限り信用することはできない。


     (3)過去の被害に対する対応
 上記の通り、過去の被害についての旧統一教会の対応は、被害の声が上がってはじめて対応する、というものである。旧統一教会は、2009年の「コンプライアンス宣言」以降も、少なくも資料1(特に53番以降)にあるように、正体隠しの伝道や過大な献金勧誘について損害賠償を求める通知書を多数受けて来たにもかかわらず、本年に至るまで伝道や献金勧誘のあり方について自ら顧みることはなかったのである。
 この点、「旧統一教会」問題関係省庁連絡会議における「旧統一教会」問題合同電話相談室には、本年9月5日から22日までの僅か18日の間に、旧統一教会の金銭的トラブルの相談が919件も寄せられており、現在も同相談が継続していることから、旧統一教会は現在も多数の金銭トラブルを抱えていることになる。
 もとより、前記の通り、旧統一教会の伝道勧誘や献金勧誘の違法性を認める判決が長期間に亘り各地で下されていることからして、現役信者、あるいは元信者で被害の声を上げていない者であっても、実際にはその多くが正体隠し伝道や違法な献金勧誘をされていた可能性が高いのであるから、旧統一教会として取るべきなのは「被害の声があれば対応する」という臭い物に蓋をするという対応ではなく、積極的に、現在の信者、過去に信者であった者に対し、正体隠しの伝道や先祖因縁等を用いて不安を煽った献金実態の有無を調査し、その結果を公表する、という対応である。
 この点は、当連絡会の本年9月16日付声明でも明示したところであり、当連絡会は同声明を同月22日に旧統一教会へ送付し、同年10月7日までに、同要求に応じるかどうかを求めているが、期限を過ぎた現在でも回答は無いままである。
 以上の事実からすれば、旧統一教会は過去の被害に対する積極的な調査を行う意向を有していないことが明らかであり、このような姿勢は到底、法令遵守(コンプライアンス)に値するものとはいえない。


     (4)発表の時期
 前記コンプライアンス宣言が出された時期は、2009年3月のことである。
 既に述べた通り、伝道活動の違法性は2000(平成12)年9月14日広島高裁岡山支部判決(民事裁判情報No8)で最初に認められ、献金勧誘の違法性は1994(平成6)年5月27日福岡地裁判決(民事裁判情報No1)で最初に認められた。しかし、旧統一教会はこうした司法の判断に従わず、少なくとも上記コンプライアンス宣言までの期間、違法な伝道活動、献金勧誘行為を繰り返していた。
 コンプライアンス宣言は、2007年から相次いだ刑事摘発に危機感を持った旧統一教会が、それ以上の刑事摘発を抑えるために発表した、言わば刑事事件対策に過ぎないのである。
 同じく、今回の「教会改革」も、旧統一教会の被害実態に対し社会が注目し、法規制や解散請求の声が上がってきたため、それを回避する目的で出されたものに過ぎないのである。
 内省的な経緯で発せられたものでなく、上記の通り外部要因により発せられたものに過ぎず、「教会改革」なるものは全く信用性が無い。


     (5)内部に向けられた内容
 さらに、上記「教会改革」は、過去の行いの過ちを認めて真摯に反省したものでは全くないことが、以下の事実から明らかである。
 すなわち、旧統一教会機関誌である「世界家庭」2022年10月号の5頁で、旧統一教会の現教祖である韓鶴子は、本年8月18日に韓国・清平で行われた「ビジョン2027神統一韓国安着勝利〜在韓日本宣教師会40周年記念特別集会」において、日本国内の旧統一教会批判の状況について「陣痛」と表現した上で「恐れてはいけません。強く大胆に進み出なさい。必ずや陣痛は過ぎ去ります。」などと、過去の違法行為に対する反省が全く見られない発言をしたことが掲載されている。同11頁では、同日行われた「2022世界平和宗教人連合総会」で日本の統一教会の幹部信者である近藤徳茂氏が、日本の状況について「マスコミは、家庭連合批判を繰り広げています。家庭連合を悪と決め付け、家庭連合に対する献金を即、被害と決めつけるような報道がまん延し、国民に無神論的観点からの批判を刷り込むような報道の毎日です。家庭連合関連の団体等に祝電を送った議員を次々とつるし上げて反省の弁を強いる魔女狩り的な報道が繰り返され、はなはだしくは、安倍晋三元総理が『シンクタンク2022』にビデオメッセージを送ったこと自体も問題視しています」と述べたことが掲載されている。
 さらに、同22頁以下では、田中富広会長が「安倍晋三元首相が銃弾に倒れて以来、容疑者の犯行動機やその背景が検証・解明されないままに、メディアの論点は完全に当法人のバッシングにシフトされました。神と霊界を否定する共産主義思想を背景にした弁護士やコメンテーター、さらには人権派の仮面をかぶって登場する人たちに、今やメディア界は完全に踊らされています。」「中立的な識者は、メディアの論点が過激に誘導されることに危惧を感じ、当法人への宗教差別であり、信教の自由を軽んじる愚行であると論陣を張り、現代の『魔女狩り』とまで揶揄しています。」「このたびのメディア報道は、私たちを『反社会的団体』『カルト団体』であると断定し、当法人のみならず、友好団体である全ての関連団体を含め、『完全断絶」を図っています。正に現代の魔女狩りと言わざるをえません。」と述べたと掲載されている。
 こうした内部信者向けの幹部らの「つるし上げ」「バッシング」「共産主義思想を背景にした弁護士やコメンテーター」等の発言は、前記コンプライアンス宣言や教会改革が、過去の自分たちの行為(しかも裁判で違法とされたもの)の誤りを認めたものではなく、真摯に反省してこれを抜本的に改めることにしたものでもない。現在上がっている世論の批判や、統一教会に対する規制や解散請求の声を弱めようとするためのものでしかないことを示すものである。


    5 検察官が共同で行うべきであることについて
     (1)上記述べた内、特に2007年〜2010年にかけての刑事摘発の資料は、旧統一教会の組織性、悪質性を裏付ける上で重要な資料になるところ、これらの資料は宗務課には存在しないものと思われる。

     (2)また、これらの資料を分析し、手口の共通性や、旧統一教会の組織性を立証するためには、検察官の目が欠かせない。
 特に、当連絡会のホームページ掲載の刑事裁判情報No26の新世事件は詳細な内部資料を基に、「本件犯行は相当高度な組織性が認められる継続的犯行の一環」と認定しており、そうした組織性が旧統一教会の教義や教団としての目的に由来することを判断する上で重要な事件である。
 また、No31の町田ポラリス事件は、被害者を直接勧誘した販売員だけが逮捕され、罰金の有罪判決を受けたが、その後同被害者に対し、夫の癌の原因は先祖の因縁のせいである、因縁解放が必要などと働きかけ、その後約800万円余りの被害を生み出した婦人部長には何らの処罰も無かったという、極めて不可解な事件処理がなされており、改めて旧統一教会の関与を含めた事件全容を解明する必要がある。
 かかる趣旨から本申入書を念のため検事総長宛にも送付する。

   6 立法府(国会)が求めている所轄庁の職責
    立法府(国会)は、平成7年に宗教法人法を改正し(宗教法人法の一部を改正する法律(平成7年法律第134号、平成7年12月15日公布、平成8年9月15日全面施行)、宗教法人について法第81条(解散命令の請求)の事由に該当する「疑い」がある場合には、所轄庁が報告徴収、質問できる権限を与えた(法第79条の2)。
 この改正の立法事実には、旧統一教会による不法行為も含まれていた。改正に向けて開かれた参議院宗教法人法等に関する特別委員会において、大臣が「霊感商法」と明言していたほか(平成7年11月29日)、当連絡会山口廣弁護士を招致した上で詳細な参考人質疑も実施されている(同年12月4日)。このように、立法府(国会)は、旧統一教会による不法行為への対応も含めて、宗教法人法が改正されたのである。
 しかし、冒頭のとおり、文化庁宗務課は、自ら何も調査をしないまま、解散請求は難しいなどという見解を述べている。立法府(国会)が求めた職責を全く果たしていないというほかない。


   7 結語
    以上から、当連絡会は、文部科学大臣と法務大臣に対し、旧統一教会に対する解散請求を速やかに行うよう求めるものである。
 なお、第6回霊感商法等の悪質商法への対策検討会の資料によれば、令和4年度における文化庁宗務課の定員は8名、予算は約4700万円とされている。このような陣容では、解散請求の準備がおぼつかないことが懸念されるので、必要に応じ、人材、予算双方の拡充を速やかに図られたい。


   以上
  
  添付資料

   資料1 コンプライアンス宣言 前後の被害状況(2022/9/13時点作成pdfファイル)

   資料2 霊感商法〜既に解決した主な和解例(2018.3.1現在pdfファイル)