ヨスフォーラム報告

訪韓報告(2007年ヨスフォーラムに参加して) 

弁護士 李春熙
1  はじめに
 2007年4月17日から19日まで、韓国全羅南道麗水市(ヨス市)において、第2回日韓教会フォーラムが開催された。
 日本側からは、教会関係者、弁連、家族の会、報道関係含め23名が参加した。弁連からは、渡辺、紀藤、李の3名が参加した。


ヨス市の概要
(1) ヨス市は、韓国南西部の全羅南道に位置する、人口約30万人の地方都市である。
(2) ヨス市の公式ホームページ(日本語版)によれば、ヨス市の現況等は次のとおりである。(http://yeosu.go.kr/jp/
 「麗水市は朝鮮半島の南海岸の中間地点に位置している、閑麗水道の起点である。317を数える大小の島々や駕莫湾、汝自湾が位置しており、海産物が豊富で、海風や暖流の影響で夏は涼しく冬はあまり寒くない上に、他の地域より春や秋が長い、自然に恵まれた海洋都市である。」
 「栗村地方産業団地や華陽地区などは光陽湾圏経済自由区域に指定され、先端産業及び物流、海洋観光産業を中心として本格的に開発されており、地域特化発展特区としては麗水市蘇湖洞(蘇湖ヨット競技場の周辺)が麗水オーシャンリゾート特区に指定され、観光ホテル、コンドミニアム、コンベンションセンター、ウォーターパークなど主要施設が建設されている。」
 「麗水市は1982年日本佐賀県唐津市と姉妹締結を行って以来、アジア・南北米・中国など7カ国・12都市と姉妹友好締結を行い、相互交流の幅を広げている。毎年8月の初めは、青少年に夢と浪漫を与える「麗水国際青少年フェスティバル」を開催しており、人類の未来におけるビジョンを提示する2012年世界博覧会候補都市、充実した社会・教育・文化・体育施設などを兼ね備えた都市である。」
(3) 「殉教の聖地」
 ヨス市の人口約30万人のうち、3割弱にあたる10万人が、キリスト教徒であるという。
 韓国のキリスト教界においては、ヨス市は、「殉教の聖地」と位置づけられている。
 すなわち、1948年10月、ヨス市の栗村面新風里にあったハンセン氏病患者の診療所「愛養院」の第3代牧師、孫良源牧師が、共産軍によって長男・次男を殺害され、さらに、自らも処刑され殉教したという史実によって、ヨスは、韓国教会にとって、殉教の聖地となっているという。


フォーラムの行事内容
(1) 4月17日

 4月17日の午後、韓国プサンの金海空港に到着した一行は、バスでヨス市に向かった。プサンからヨスまで高速道路を使って3時間ほどであった。ヨス市にはヨス空港もあるが、プサンからの直行便はなく、陸路での移動となった。
 ヨスに到着した晩、さっそく、現地キリスト教会関係者による歓迎の晩餐が催された。
 晩餐には、ヨス市議会議長のキム・ジョンミン議員もかけつけ、我々を歓待してくれた。
(2) 4月18日

 4月18日、ヨス市内のヨス光琳教会において、第2回日韓教会フォーラム(韓国での行事名は、「日韓教会連合 異端似而非対策セミナー」)が開催された。
 午前中は、開会礼拝、参加者紹介を行い、昼食を挟んで、午後から、3本の講演が行われた。

 第1講義は、プサン長神大学教授の卓志一(タク・ジイル)教授が、「統一協会(統一教会)のヨスへの浸透:地域開発か、地上天国の建設か?」とのテーマで講演を行った。
 卓教授は、統一協会(統一教会)の究極の目的は地上天国の建設であるとして、統一協会(統一教会)が世界各地で行ってきた「地域開発」は、彼ら自身の「聖地開発」にほかならず、それが純粋な地域開発とは異なり、文鮮明が再臨の主として宣布される地上天国建設のための聖地造成過程であることを明らかにした。
 聖地開発の実例として、釜山ボムネッコル(韓国)、新希望農場(ブラジル)、定州平和公園(朝鮮民主主義人民共和国)、天宙清平修練苑(韓国)、ヨス(韓国)の例を挙げながら、統一協会(統一教会)の聖地開発の実態が述べられた。

 第2講義として、日本から参加した日本基督教団白河教会の竹迫之牧師が、「日本における統一協会(統一教会)の現状」と題して講演を行った。
 竹迫牧師は、統一協会(統一教会)の脱会者であるという自己の経験に基づきながら、日本の統一協会(統一教会)の経済活動、霊感商法の実情を生々しく語った。また、合同結婚によって渡韓を強いられる女性信者の問題や祝福2世の問題についても報告を行った。

 第3講義として、渡辺博弁護士、李春熙弁護士の連名で(発表は李春熙)、「裁判所を通じた被害救済」と題する報告を行った。
 報告では、日本における霊感商法の被害実態を概観した上で、統一協会(統一教会)による勧誘行為、献金強要行為、物品販売強要行為等が違法であることが、日本では確立された判例となっていることについて述べた。
 そして、裁判所を通じた被害救済活動として、金銭被害についての損害賠償請求訴訟、違法伝道訴訟、婚姻無効訴訟の概要を説明し、神戸事件、青森事件等、刑事事件となったケースについても報告を行った。
 最後に、渡韓した日本人女性信者の被害救済のために、日韓の弁護士が連携していく必要性があることを訴えた。

 次に、日本側から参加した元信者の女性が、自らの経験を報告した。彼女は、91年から95年まで、両親とともに入信していた元信者であったが、「統一協会(統一教会)による純潔教育や地獄の恐怖など、普通ではない教育を受けたおかげで、脱会した今でも、普通の人との感覚のずれになやまされることがある。いまだにつらいことがあると地獄に落ちるのではないかいう恐怖に襲われることがある。今回、韓国に来るのも怖かった。」など、率直な心情を披露してくれた。

 つづいて、韓国側から、異端似非対策委の委員長であるチャン・グァンユン牧師が、統一協会(統一教会)のヨス浸透の現状について、報告を行った。

 最後に質疑応答が行われ、この日のプログラムは終了した。
(3) 4月19日

 4月19日には、ヨス市内の関連施設の視察を行った(別紙の地図を参照)。

ア ヨスオーシャンリゾート工事現場

 まず、我々は、ヨスオーシャンリゾートの工事現場を訪れた。工事の施工主は、統一協会(統一教会)系企業の潟Cルサンである。現段階では建築物の具体像は明らかになっておらず、まだまだ工事中といった様子であった。

イ ヨス市庁舎

 次に、ヨス市の市庁舎を訪問した。市庁舎では、オ・ヒョンソプ市長が、我々一行を出迎え、歓迎のあいさつを行ってくれた。オ市長は、キリスト者であり、昨年5月の市長選挙において、統一協会(統一教会)によるヨス開発を支持していた前市長を破って当選したという。統一協会(統一教会)による被害救済を考えるため日本から訪れている我々に対し、「私も同じ志を持つ者である」とのあいさつを投げかけてくれた。ヨス市の政治状況の変化を感じた瞬間であった。

ウ 万博広報館

 次に、ヨス市内の万博会場候補地にある万博広報館を訪れた。我々が訪問した数日前に、世界博覧会機構(BIE)の視察団がヨス市を視察に訪れていたという。
 世界博覧会は、BIEが公式に承認する「公認博覧会」とそうではない「非公認博覧会」に区分され、さらに「公認博覧会」は、「登録博覧会」と「認定博覧会」に分けられる。
 登録博覧会は、5年に一度開催される。2005年には日本で開催されたが(愛・地球博)、2010年には上海での開催が決定している。
 認定博覧会は、登録博覧会と登録博覧会の間に、開催される。ヨス市は、2012年の認定博覧会の開催を目指している。
 2012年の博覧会候補地として、韓国のヨス、モロッコのタンジェ、ポーランドのブロツワフが立候補している。2007年12月のBIE総会において、会員国の投票により、開催地が決定される。

エ 海上視察

 その後、船に乗り、海上からの視察を行った。
 まず、統一協会(統一教会)の海洋修錬会場を、海上から視察した。
 その後、統一協会(統一教会)が開発を進めているファヤン地区の様子を海上から視察した。
 現地の教会関係者の話によれば、「ファヤン地区では、300万坪の開発計画があり、すでに187万坪(64%)ほどは買収済。残りの土地については、土地収用法を利用して、収容しようとしている。土地収用法は昨年改正され、2007年3月に、同法に基づいて、統一協会(統一教会)が事業主体となって土地を収用するという決定がなされた。ひとまず、ゴルフ場予定地の土地が土地収容の対象となっている。」とのことである。

オ 以上をもって、視察の日程を終えた。


統一協会(統一教会)のヨスへの浸透状況
 フォーラムを通じて明らかになった、統一協会(統一教会)のヨス市への浸透状況は、以下のとおりである(なお、以下の記述は、主として、チャン・グァンユン牧師の発表によっているが、適宜、現地教会関係者からの情報を補足して盛り込んでいる)。
(1) 「聖地育成計画」の発覚

 文鮮明が、2005年6月2日ヨス市で行われた事業説明会で、「ヨス市をグループのメッカとして育成する。」、「40階建て建物を新築する。すでに3億ドルの資金は準備済。」などと発言する。
 現在までに、統一協会(統一教会)によるヨス開発は継続的に行われているが、その主たる事業は、@オーシャンリゾート開発、Aファヤン地区開発の2つである。
(2) オーシャンリゾート開発

ア 事業概要

 オーシャンリゾート開発の事業概要は、次のようなものである。

・総事業費2000億ウォン
・事業期間2005年〜2007年。
・施設
  ホテル:地上23階、地下2階、客室247個。
  コンドミニアム:地上9階、地下4階、客室208個。
  ウォーターパークなど、各種の娯楽施設。

 ※ 当所、ホテルの頂上部に、文鮮明を象徴するピースキングのシンボルを設置する予定だったが、キリスト教会関係者の抗議を受け、計画を変更。現在の計画図では、ピースキングのシンボルは撤去されているという。

 ※ 現地関係者の情報によれば、統一協会(統一教会)は、オーシャンリゾートのホテル・コンドミニアムの建設資金を、例によって日本の信者から調達しているという。その調達方法は、ホテルやコンドミニアムの客室を「分譲」するとして、その分譲契約を予め締結して分譲代金を支払わせているという。すでに、ホテル・コンドミニアムとも全部屋について分譲済みとの情報もある。観光振興法という法律が改正された結果、ホテルの分譲という手法が可能となったとのこと。

イ オーシャンリゾートの起工式

 2005年11月29日に、オーシャンリゾートの起工式が行われた。
 潟Cルサンのファン・ソンジョ会長(当時)は、「今回の特区開発事業は、文鮮明総裁が、一生の間に推進してきた世界平和と福祉のための事業の結実である。ヨス市一体に300万坪規模の国際海洋リゾートを育成する計画である。これらの全てが文氏の世界平和事業の延長線にあるということが注目される。」と演説した。
(3) ファヤン地区開発
 
ア 事業概要

・位置 ヨス市ファヤン(華陽)面一帯
・面積 999万2000u(302万坪。陸地部296万坪、共有水面6万坪。)
・事業期間 2003年〜2015年(13年間)
  第1段階(2003〜2010)
   ゴルフ場(2箇所、各18ホール)、マリーナ施設(6万坪)、ホテル、スポーツ電子訓練センター(3万坪)など
  第2段階(2011〜2015)
   温泉、世界民俗村、コンドミニアム、展望タワーなど(2006年初工事着工)
・事業費 1兆5031億ウォン
・事業者 潟Cルサン(2004年7月5日指定)

イ 事業の進行状況

2004年 9月20日 ヨス市と潟Cルサンとの間でヨスオーシャンリゾート開発事業投資協約(MOA)締結
2004年10月29日 潟Cルサン、ヨスオーシャンリゾート特区の特化事業者に指定
2004年12月14日 ヨス市の世界博覧会誘致が韓国の国家計画に確定
2005年 2月 2日 ヨスオーシャンリゾートが国の財政経済部から特区指定
2005年11月29日 ヨスオーシャンリゾート特区起工式
2006年 2月21日 ヨス市、観光事業計画承認(ホテル・コンドミニアム)
2006年 8月 7日 ヨス市、建築許可
(4) 統一協会(統一教会)のヨスへの浸透

ア 各種イベントの主催

 統一協会(統一教会)は、ヨスにおいて下記のようなイベントを主催している。

  2003 世界ワールドカップ釣り大会
  2004 ヨスピースキングカップ釣り大会
  2005 ヨスピースキングカップサッカー大会
  2006 ヨスエキスポ国際マラソン大会

イ 牧会者、重職者達を対象とした、日本無料観光実施

 統一協会(統一教会)は、「平和統一韓国指導者国際セミナー」と題して、地域の名士達を日本に無料招待し、地域住民の懐柔を図っている。

  第1回 2005年12月(340名参加)
  第2回 2006年
  第3回 募集中

ウ 統一協会(統一教会)の合同結婚式への勧誘、布教

 統一協会(統一教会)は、ヨス市民に対し、合同結婚式への勧誘や、布教活動を行っている。

(5)直近の動き

2006年4月25日 財政経済部が、ファヤン地区の開発事業を承認
2006年6月 2日 農業振興地域が解除され、農地の転用が可能となる


意義
 今回のフォーラムにおける最大の収穫は、統一協会(統一教会)があらたな「聖地」を建設しようとしているヨス市の現状を、直接視察することができた点である。
 ヨスへの万博誘致は、すでに韓国の国家レベルのイベントと位置づけられており、また、ヨス市民も、(統一協会(統一教会)に反対する教会関係者を含め)、皆、万博の開催を望んでいる。我々も、万博の誘致自体に反対することはできない。
 ヨスの教会関係者の関心は、「いかにして、統一協会(統一教会)の資金に頼らない開発を実現させるか」という点に移っている。
 現在、ヨス市の執行部を中心に画策されているのが、世界貿易センターによる投資の誘致である。
 オ・ヒョンソプ市長とキム・ジョンミン市議会議長などヨス市代表団は2006年11月4日から5日間、アメリカのニューヨークを訪問し、世界貿易センター連合のトゾーリ総裁とイ・フィドン副総裁と面談し、世界貿易センターによるヨス開発のための相互契約(MOA)を締結したという。統一協会(統一教会)の資金に頼らない「健全」な開発が実現されることを願う。
 もっとも、ヨス市の一般市民の、統一協会(統一教会)に対する態度は、「五分五分」というものらしい。韓国においては、まだまだ統一協会(統一教会)の活動の違法性・不当性が明確に認識されておらず、ヨス市民の中で、統一協会(統一教会)の資金によって地域開発が実現されることを歓迎する意見も根強いという。
 我々は、引き続き、ヨス市における統一協会(統一教会)の活動を、注意深く見守っていく必要がある。
以上