◆要望書
日本民間放送連盟、日本放送協会へ
2007(平成19)年2月21日
社団法人日本民間放送連盟
 会 長  広 瀬  道 貞  様
日本放送協会
 会 長  橋 本  元 一  様
放送倫理・番組向上機構
 理事長  清 水  英 夫  様
株式会社テレビ朝日
 代表取締役社長 君 和 田  正 夫  様
株式会社テレビ東京
 代表取締役社長 菅  谷  定  彦  様
株式会社東京放送
 代表取締役社長 井  上     弘  様
日本テレビ放送網株式会社
 代表取締役社長 久 保  伸 太 郎  様
株式会社フジテレビジョン
 代表取締役社長 村  上  光  一  様
全国霊感商法対策弁護士連絡会
〒163-8691 東京都新宿区新宿郵便局私書箱231号
TEL:03-3358-6179  FAX:03-3353-4679
代表世話人 弁護士 伊 藤 和 夫(東京)
代表世話人 弁護士 平 岩 敬 一(横浜)
代表世話人 弁護士 廣 谷 陸 男(札幌)
東京都新宿区新宿1丁目15番9号 さわだビル5階
東京共同法律事務所
TEL:03-3341-3133  FAX:03-3355-0445
(連絡担当)事務局長 弁護士 山  口    広

第1  要望の趣旨
 近時超能力や心霊現象などを喧伝し、安易に霊魂観や死後の世界についての特有の考え方を断定的に述べて、これを視聴者に植えつけかねないテレビの番組が目立ちます。これらの番組は、いわゆる霊感商法的手口による消費者被害や宗教的破壊カルトへの入信被害の素地となり、また、現実生活からの逃避的自殺の一因となっていると考えられます。

 貴連盟や協会、機構においてもこのような番組の社会的影響に注意を払い、いきすぎを是正する措置を講じられるよう求めます。

第2

 要望の理由
 全国霊感商法対策弁護士連絡会(以下、「当連絡会」といいます。)は、1987年5月、文鮮明を教祖とする世界基督教統一神霊協会(以下「統一協会(統一教会)」といいます。)が、その資金集めのために全国で組織的に行ってきた、いわゆる霊感商法の被害者の救済と被害予防のために、全国300余名の弁護士が賛同して設立された団体です。

 当連絡会は、霊感商法の被害者や統一協会(統一教会)の信者及びその家族などからの相談を受けるほか、企業や官公庁、公的団体等からの統一協会(統一教会)についての問い合わせにも応じてきましたし、もちろんマスコミからの取材や問い合わせに対して誠実に対応してきました。設立以来、年間平均して1000件程度の問い合わせを受けております。

 当連絡会は、統一協会(統一教会)による霊感商法被害の根絶と被害者救済を目的としていますが、当連絡会に所属する各弁護士は、それぞれ、統一協会(統一教会)以外の大小様々な反社会的宗教団体などの問題にも携わっております。


 今回民放連、BPO(放送倫理・番組向上機構)及び日本放送協会等に申し入れをすることに致しましたのは、最近のテレビ番組にあまりにも霊界や死後の世界について安易かつ断定的にコメントし、占いや気学・方位学などを絶対視するかの如き傾向の番組が増加しているため、このような番組の傾向を少しでも是正する措置を講じていただきたいと考えたためです。

 もとより、死後の世界や霊界について考えたり、占いや気学方位学などをもとに自分の生活や将来について考えることを否定するものではありません。

 しかしながら、霊能師と自称する人物が一般には見えない霊界やオーラを見えるかの如く断言し、それをもとに様々な指摘をされるタレントがそれを頭から信じて動揺したり感激してみせるような番組や、占い師がタレントの未来を断定的に預言し、言われたタレント本人や周囲の人がこれを真にうけて本気で応答しているような番組が現在のようにたびたび放送されることは、視聴者、特に社会的経験の乏しい未成年者や若者、主婦層の人々に、占いを絶対視し、霊界や死後の世界を安易に信じ込ませてしまう事態をもたらしているのではないでしょうか。本年1月9日埼玉県川越市で中学2年生の男子(14歳)が、「絶対におれは生まれ変わる。もっとできる人間になってくる。」などと書き置きして飛び降り自殺したとの報道がありました。このような事件が発生したり、死んでも生き返ることができると考える小中学生が増えていることは、前述した傾向の番組が増えていることと決して無縁ではないと思われます。


 当連絡会は1987年春から活動を継続して参りました。1992年の統一協会(統一教会)の合同結婚式や1995年のオウム真理教問題等々、破壊的宗教カルトの問題が注目されている時期には前述の如き番組が多少は自粛されているように見えますが、ここ数年は特に上記傾向の番組が増えています。

 ご存じのとおり、統一協会(統一教会)は各地にあるビデオセンターにおいて、その正体を隠して、これらの番組のビデオを見せたり、講義ビデオを見せて次のようなことを教え込みます。「霊界が存在し、様々なうらみを残して死んだあなたの先祖のほとんどは霊界の地獄で地上界の子孫に救いを求めていて、これを何とかしないとあなたやあなたの家族が色情や財産、殺傷の因縁のために様々な不幸にあう。そうなりたくないのなら出家するくらいの覚悟で先祖の因縁を解放しないといけない。血と汗と涙の結晶である財産をすべて神にささげなさい。」

 このような考え方の素地が前述した多くのテレビ番組で視聴者に植えこまれているため、これら統一協会(統一教会)信者によるいわゆる因縁トークが特に若い女性や主婦層に効果的なのです。

 統一協会(統一教会)による霊感商法被害だけでなく、この種の霊界や死後の世界への恐怖や先祖の因縁による将来の不安をあおって、高額の金銭の支払を勧誘したり、印鑑や数珠など高額商品の購入を勧める手口の宗教的カルト団体や経済カルトが増加傾向にあるのも、テレビ番組の影響が否定できません。


 放送法3条の3は、「放送事業者は放送番組の編集の基準(以下「番組基準」という。)を定め、これに従って放送番組の編集をしなければならない。」と定め、この基準の公表を義務づけています。この法文に基づいて作成されている日本民間放送連盟放送基準では、次のような基準項目があります。
第7章 宗教には、
(41) 宗教を取り上げる際は、客観的事実を無視したり、科学を否定する内容にならないよう留意する。
第8章 表現上の配慮には
(46) 人心に動揺や不安を与えるおそれのある内容のものは慎重に取り扱う。
(53) 占い・運勢判断およびこれに類するものは、断定したり、無理に信じさせたりするような取り扱いはしない。
第3章 児童および青少年への配慮には
(20) 催眠術、心霊術などを取り扱う場合は、児童および青少年に安易な模倣をさせないよう特に注意する。
 当連絡会は民放各局やNHKの制作にかかる番組の中には、この基準に明らかに反しているものがあり、この種の番組についての慎重な検証が必要だと考えています。

 BPOの放送と青少年に関する委員会は2004年12月8日、「血液型を扱う番組」に対する要望を作成して公表し、その周知徹底を図ったと聞いております。その要望の末尾には次のとおり書かれています。

 「青少年委員会は、放送各局に対し、自局の番組基準を遵守し、血液型によって人間の性格が規定されるという見方を助長することのないよう要望する。

 同時に、放送各局は、視聴者から寄せられた意見に真摯に対応し、占い番組や霊感・霊能番組などの非科学的内容の取り扱いについて、青少年への配慮を一段と強められるよう要請したい。」

 しかしながら、この要望は全く無視されてしまい、よりひどい事態になっていると言えるのではないでしょうか。


 当連絡会においては、今回の申し入れをすることについて相当時間をかけ、各方面の意見も聴取しました。少なくとも、前述した傾向がこのまま放置されることは、今後深刻な社会問題を惹起する素地となりかねないと考えて、申し入れすることにした次第です。

 是非真剣に検討され、番組制作担当者にこの申入書の写しを交付して注意を喚起するなど、適切な措置を講じられるようお願いします。

以 上