◆損害賠償請求事件 東京地裁判決(平成21年12月24日)


この事件の控訴審判決(東京高裁平成22年8月4日判決)は→こちらに掲載しています。

平成21年12月24日判決言渡 同日原本領収 裁判所書記官 櫻庭 一威
平成20年(ワ)第13473号 損害賠償請求事件
口頭弁論終結日 平成21年9月15日
判     決
原告 A
同訴訟代理人弁護士 渡 辺  博
同             李  春 熙

東京都渋谷区松涛1丁目1番2号
被      告     世界基督教統一神霊協会
同代表者代表役員  徳野 英治
同訴訟代理人弁護士 鐘築 優
被      告   B
被      告   C
被      告   D
上記3名訴訴訟代理人弁護士   福本 修也
主     文
1 被告らは,原告に対し,連帯して9567万4100円及びうち7000万0100円に対する平成2年6月27日から,うち1617万4000円に対する平成3年4月1日から,うち950万円に対する被告世界基督教統一神霊協会につき平成20年5月30日から並びに被告B,被告C及び被告Dにつき同月31日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 原告の被告らに対するその余の請求をいずれも棄却する。
3 訴訟費用は,これを100分し,その57を原告の負担とし,その余を被告らの負担とする。
4 この判決は,第1項に限り,仮に執行することができる。
事実及び理由
第1 請求
被告らは,原告に対し,連帯して2億2166万9610円及びうち40万円に対する平成元年10月29日から,うち7726万4069円に対する平成2年6月27日から,うち2000万円に対する平成3年4月1日から,うち5363万6135円に対する同年5月16日から,うち110万円に対する同年11月30日から,うち170万円に対する平成7年8月31日から,うち70万円に対する平成9年3月10日から,うち1200万円に対する同年11月28日から,うち932万円に対する平成12年4月30日から,うち694万9406円に対する平成5年6月19日から,うち3860万円に対する被告統一協会につき平成20年5月30日から及び被告B(以下「被告B」という。),被告C(以下「被告C」という。)及び被告D(以下「被告D」といい,被告B及び被告Cと併せて「被告個人ら」という。)につき同月31日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
1 争いのない事実等(末尾に証拠の記載のない事実は,当事者間に争いがない。)
(1) (省略)
(2) 被告世界基督教統一神霊協会(以下「被告統一協会」という。)は,韓国国籍の文鮮明を創始者かつ救世主(メシヤ)とし,日本国内においては昭和39年に設立登記された宗教法人である。被告個人らは,いずれも被告統一協会の信者である。

2 原告は,被告統一協会の信者である被告個人らの行った違法な献金及び物品の購入の勧誘行為により,総額1億8306万9610円の献金及び物品の購入をさせられ,財産上の損害(1億8306万9610円),慰謝料(1838万円)及び弁護士費用相当額(2022万円)の損害を受けたと主張して,被告統一協会に対し民法709条,715条に基づき,被告個人らに対し民法709条に基づき,2億2166万9610円及びうち1億8306万9610円に対する各不法行為の日から,うち3860万円につき本件訴状送達の日の翌日(被告統一協会につき平成20年5月30日,被告個人らにつき同月31日)から各支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めている。
3 争点及びこれに関する当事者の主張
(1) 被告統一協会の信者ら(被告個人らを含む。)による原告に対する献金及び物品の購入の勧誘行為の違法性の有無(争点(1))
(原告の主張)
被告統一協会は,原告を含む信者及びその関係者からその財産を収奪するという違法な目的の下に組織的かつ計画的に勧誘等を行っている。個々の勧誘行為についての具体的な状況は,以下のとおりである。
平成元年の印鑑被害(40万円)
被告統一協会の信者であるE(以下E」という。)外1名は,平成元年10月29日,銀座のデパート前を一人で通行中の原告に対し,自らが被告統一協会の信者であり,自らの行為が被告統一協会の違法かつ組織的な資金獲得活動の一環であることを秘したまま,「あなたの手相を見せてくれませんか。」,「この方(Eのことを指す。)は占い師の先生で,あなたの手相を見てくれますよ。有名な先生ですけれど,ご存じないですか。」,「近くのホテルにもっと有名な先生が来ています。特別にあなたの運勢も見てくれますよ。よかったら参加しませんか。」などと声をかけ,新橋のホテルの一室に誘い込んだ。
待機していた被告統一協会の信者である先生と称する人物は,原告に対し,「運命というのはあなたの力では決まらないのです。先祖の因縁の力で良くも悪くもなるのです。」,「あなたの先祖は今,霊界で苦しんでいます。先祖が救われるかどうかもあなた次第です。」などと先祖因縁の恐怖を強調するとともに,「この印鑑を買えば,悪い因縁から守られます。この印鑑が因縁から守る傘になってくれるのです。」,「この印鑑を買えば,あなただけでなく,今地獄で苦しんでいるあなたの先祖や両親も救われるのです。先祖,両親のためにもこの印鑑を買う必要があります。」などと述べ,3から4時間にわたり,原告に印鑑を購入するように強要し,上記強要行為の結果,原告をして,先祖因縁の恐怖から,被告統一協会の関連会社である株式会社マインドから印鑑(碩宝印)を、40万円で購入させた。
平成2年の献金被害(7726万4069円)
Eは,引き続き,原告に対し,「人生について勉強し,運勢を良くしていかなくてはならない。人生について勉強できるところがあるので,そこに通いなさい。」などと述べて,世田谷区の豪徳寺駅近くの被告統一協会の施設であるビデオセンターに原告を通わせ,平成2年4月からは,世田谷区の三軒茶屋駅近くのビデオセンター(通称「サミット」と呼ばれている。以下「サミット」という。)に原告を通わせた。
被告らは,あらかじめ,原告所有の東京都所在の自宅マンション(以下「自宅マンション」という。)に7000万円以上の担保価値があることを把握しており,自宅マンションを担保提供させて借入金を取得することを企て,平成2年6月ころ,サミットにおいて,F(以下「F」という。)による原告も受講した講義の終了後,霊能師役の被告Bは,原告に対し,「Aさん,話があります。Aさんは今マンションを持ってますね。そのマンションを担保に入れてお金を貸してくれませんか。」,「財産というのはとても因縁が強いんです。また,その中でも土地というのはたくさんの人の恨みがつもっており,強い因縁を持っています。あなたが持っている不動産についても,清めないと大変なことになる。必ず不幸になります。マンションを担保にお金を借りてこれを教会にささげれば,何とか清めることができます。今すぐ,お金を借りに行きましょう。」などと先祖因縁の恐怖を強調しながら,自宅マンションを担保提供するように強要した。上記強要行為の結果,この時までにサミットでの講義等を通じて先祖因縁の恐怖等を教え込まれ,霊界にいる両親を救い出すためには,原告が被告統一協会に対して各種の貢献をしなければならないとの心理状況に陥っていた原告をして,同年6月27日,株式会社G(以下「G」という。)から,自宅マンションを担保に7000万円を借り入れさせ,Gからの貸付金7000万円の中から利息643万1369円及び手数料等83万2700円を控除されて交付された6273万5931円全額を被告統一協会に貸し付けさせた。そして,7000万円を被告統一協会に交付しなければならないと指示されていた原告は,7000万円に不足する額を補てんしなければならないと考え,同年7月25日,保有していた株式会社●●の株式2000株を売却し,同月30日,売買代金774万円から手数料等が控除された757万0700円を被告統一協会に交付した。
したがって,借入元本である7000万円に上記757万0700円を加えた7757万0700円が被告らの不法行為と因果関係のある損害となるが,このうち,7726万4069円を損害として主張する。
なお,上記7000万円は,当初,貸付金名目で被告統一協会に交付され,後日の自宅マンションの売却時に献金へと振り替えられたものであるが,被告らは当初から上記7000万円を献金に振り替えることを想定していたのであるから,上記貸付金の交付の時点で原告に上記損害が生じたというべきである。
平成3年4月の献金被害(2000万円)
原告は,平成2年11月,自宅マンションに漏水が発生したことを契機に自宅マンションを売却し,売買代金により新たなマンションを購入して転居することを希望していた。しかし,被告Bは,原告に対し,「お金が入ったら,それはすべて教会に献金しなければならないのです。Aさんの家系は,女性の恨みをかった家系であり,色情因縁が強く,そのせいで今まで結婚のチャンスがなかったのです。このままでは先祖は地獄で苦しみ続けることになる。親孝行できませんよ。地獄というのは息のできない永遠の世界で,そんなところに先祖を放っておいてはいけません。」,「AさんはA家の氏族のメシヤです。あなたが頑張って献金をして因縁を払い,A家を救わないといけない。これまで親孝行できなかった分,今頑張らないといけません。」などと先祖因縁の恐怖等を強調しながら,自宅マンションの売買代金を被告統一協会に献金するように強要した。上記強要行為の結果,サミットでの講義等を通じて先祖因縁の恐怖等を教え込まれ,霊界にいる両親を救い出すためには,原告が被告統一協会に対して各種の貢献をしなければならないとの心理状況に陥っていた原告をして,自宅マンションの売買代金9300万円からGに対する残債務等の合計7008万8220円,アールデュモンドに対する仲介手数料279万円,自宅マンシヨシの売買契約書貼付の印紙代6万円及び自宅マンションの売買に伴う譲渡所得税397万6000円を控除した残額である1608万5780円を献金名下に被告統一協会に交付させた。上記仲介手数料279万円は,被告統一協会の組織的かつ計画的な不法行為の一環としてアールデュモンドが取得することが当然に予定されていたものであり,いずれ被告統一協会の利益になるものであるし,上記印紙代6万円及び上記譲渡所得税397万6000円は,被告らの不法行為がなければ支出しなかったものであるから,2291万1780円(上記1608万5780円+上記279万円+上記6万円+上記397万6000円)が被告らの不法行為と因果関係のある損害となるが,このうち,2000万円を損害として主張する。
平成3年5月の献金被害(5363万6135円)
被告Bは,平成3年5月12日,原告の所属する世田谷教会でのFによる原告も受講した講義の終了後,原告に対し,「Aさん,今教会でお金が足りないのです。だから2000万円をすぐに用意してください。」,「A家の先祖にはとても悪い因縁がついています。A家の先祖は,そのせいで息のできない地獄で苦しんでいる。あなたが頑張らないとA家の先祖は守れないのです。」,「財には因縁,恨みがついています。あなたが持っている財産を売却してでも,天にささげないといけません。私の言うとおりにしないと,先祖は守れませんよ。お金を天にささげると,家に帰ったときにダイヤモンドダストが降ってきますから。」などと述べ,被告統一協会に対して2000万円を献金するように強要した。上記強要行為の結果,上記のとおり,サミットでの講義等を通じて先祖因縁の恐怖等を教え込まれ,霊界にいる両親を救い出すためには,原告が被告統一協会に対して各種の貢献等をしなければならないとの心理状況に陥っていた原告をして,株式等の売買代金合計5363万6135円を献金名下に被告統一協会に交付させた。
平成3年11月の献金被害(110万円)
被告統一協会の世田谷教会のH教会長(以下「H教会長」という。)は,平成3年11月ころ,原告に対し,「韓国の済洲島に統一協会員が16万名行かなければ日本は滅びることになる。済洲島に行けばお父様に会うことができる。そのために献金をしなければならない。これは義務である。済洲島に行ける人も行けない人もみな献金をしなければならない。」などと述べ,16万摂理献金を強要した。
上記強要行為の結果、原告をして,110万円を16万摂理献金名下に被告統一協会に交付させた。
平成7年8月の献金被害(170万円)
被告統一協会のH教会長は,H教会長らが「祝福を受けないと原罪が脱げない。」,「原罪が脱げないと罪深い人間でずっと一生を送る。死ぬと地獄に行く。」と教え込んで祝福を受けられないということに絶大な恐怖を抱かせていた原告に対し,平成7年8月ころ,「Aさん,早く祝福を受けないとだめですね。今回また韓国で合同結婚式がありますから,これが最後のチャンスです。」,「祝福を受けないと原罪を払うことができません。このままだとあなたは死後,地獄に落ちますよ。」などと述べ,祝福献金を強要した。上記強要行為の結果,原告をして,同月20日ころ,170万円を祝福献金名下に被告統一協会に交付させた。
清平祈祷院建設基金名下の被害(70万円)
被告統一協会のH教会長らは,平成9年3月ころ,原告に対し,「今度,聖地である清平にお父様の入る宮殿ができる。清平で宮殿の鍬入れ式が行われるのであなたもそこに参加しなければならない。」などと強烈に指示し,原告をして,清平で開催された聖殿起工式に参加させた。上記起工式の際,被告統一協会の教祖である文鮮明は,原告を含む信者らに対し,「350万円の献金が必要だ。」と具体的な数字を出して清平祈祷院建設基金名下の献金を指示し,上記基金名下に献金しなければ地獄に落ちるのではないかと懸念した原告をして,同月10日,所持していた70万円を清平祈祷院建設基金名下に被告統一協会に交付させた。
平成9年の献金被害(1200万円)
原告は,平成9年10月ころ,被告Cらから,「ニューヨークでお父様が呼んでいる。日本で120名だけがこれに参加することができる。世田谷からは7名が選ばれた。」などと指示され,同月30日から同年11月4日までニューヨークに旅行させられ,同年10月31日,文鮮明の自宅を訪問させられた。文鮮明は,同人の自宅において,原告に対し,「預金を下ろしてでも,お金を借りてでも何でもいいから,お金を出しなさい。お金をそのまま持っていてはいけません。お金は天に返さないといけないのです。」,「通帳を空にしておきなさい,全部を出しなさい。」などと献金を強要した。上記強要行為の結果、従前から,被告統一協会の活動に貢献しなければ,氏族メシヤとしての責任を果たすことができず,その結果霊界にいる先祖が苦しむことになると教え込まれていた原告をして,帰国後の同月25日,保有していた●●の株式を売却させ,その売買代金等1200万円を献金名下に被告統一協会に交付させた。上記売却手続には,被告Cが立ち会った。

各種献金名下の損害(合計932万円)
被告D及び被告Cを含む世田谷教会の信者らは,原告をして,いずれも被告統一協会に,平成6年5月17日に3万円,同年12月9日に90万円,平成7年4月10日に10万円,同年6月30日に40万円,平成8年5月31日に10万円,同年6月10日に400万円,同年10月31日に80万円をそれぞれ救国基金名下に交付させ,平成6年6月15日に1万円,同年9月16日に5万円,同年11月25日に15万円をそれぞれ救国献金名下に交付させ,そのほか献金の名目は不明であるが,平成8年12月13日に1万円,平成9年6月30日に40万円,同年9月30日に2万円,平成10年1月26日に160万円,同年3月22日に15万円,同月26日に10万円,同年6月9日に10万円,平成11年3月26日に10万円,平成12年4月ころに30万円を交付させており,これらの合計は932万円になる。このうち救国基金及び救国献金については,救国基金又は救国献金をしないと日本が滅びると恐怖感をあおって献金を強要しており,それ以外の献金については,「Aさん,あなたは,A家の氏族メシヤなのです。あなたが頑張って天に貢献しないと,あなたの両親や先祖は息もできない地獄で苦しみ続けるのです。」などと述べて献金を強要した。
各種物品代金名下の損害(合計694万9406円)
原告は,被告統一協会に所属していた当時,被告統一協会が資金獲得のために開催する各種の展示会に動員させられていた。原告は,下記各種物品を購入させられた際に具体的にどのような欺岡又は脅迫を受けたか詳細に記憶していないが,被告統一協会の世田谷教会の信者らは,原告に対し,「この展示会には必ず勝利しなければならない。教会のノルマを達成しなければならない。ノルマを達成できないと,教会は滅びる。」,「必ずゲストを一人は連れてくるように。そのゲストに商品を買わせなければいけない。たくさんの物を買って天にささげないと,救われない。」などと強要し,これにより,ゲストを動員できない以上,ノルマ達成のために物品を購入しなければならない旨誤信,畏怖した原告をして,被告統一協会の会社である日本ジェム株式会社から,平成3年4月16日にペンダント「真の家庭」を166万1400円(ローン手数料を含む。),同年11月22日に絵画「情熱の思い」を182万3200円(ローン手数料を含む。),平成4年6月20日に宝飾品「心情の華」を286万7200円(ローン手数料を含む。),同年12月21日に着物「重衿」を2万0600円,平成5年6月19日に呉服等を57万7006円でそれぞれ購入させた。
(被告統一協会の主張)
被告統一協会は,以下のとおり,原告主張の献金及び物品の購入の勧誘行為には関与していないし,原告の被告統一協会に対する献金は自己の信仰心に基づいて自由意思で行ったものである。
平成元年の印鑑被害(40万円)
株式会社マインドは,被告統一協会の関連会社ではなく,被告統一協会は,原告主張の印鑑の販売を行っておらず,その売買代金を受領していない。その余の原告の主張は知らない。
平成2年の献金被害(7726万4069円)
被告統一協会は,原害主張のGからの7000万円の借入れに関与しておらず,原告から7000万円の交付を受けていない。原告から金員を借り入れたのは,被告統一協会ではなく,世田谷教会の信徒会であり,その額も,金銭消費貸借契約書(甲B8)上は7000万円と記載されているが,上記7000万円から原告がGに対して支払った利息及び手数料等を控除した6273万5931円である。その余の原告の主張は争う。
平成3年4月の献金被害(2000万円)
原告が被告統一協会に7500万円を献金名下に交付したことは認める。被告統一協会は,原告主張の献金の勧誘行為には関与しておらず,その余の原告の主張は否認又は知らない。原告は,被告統一協会に対し,自宅マンションの売買代金9300万円からGに対する残債務額及び解約手数料等を控除した残額のうち500万円及び上記金銭消費貸借契約書記載の借入金を被告統一協会への献金に振り替えた7000万円の合計7500万円を献金したものである。原告は,自宅マンションが原告が不倫関係にあった妻子ある男性と過ごした場所であり,これを売却することで不倫関係を清算し,売買代金を天に献金することで,新しい出発ができると考え,自らの意思で自宅マンションを売却し,自宅マンションの売買代金を被告統一協会に献金したものである。
平成3年5月の献金被害(5363万6135円)
原告が被告統一協会に5300万円を献金名下に交付したことは認める。ただし,献金額は,5363万6135円ではなく,5300万円である。被告統一協会は,原告主張の献金の勧誘行為には関与しておらず,その余の原告の主張は否認又は不知である。原告は,被告個人らに対し,「実は株を持っているのですが,これを売って献金したい。」と自ら申し出て,原告保有の株式を自ら売却し,その売買代金を被告統一協会に献金したものである。
平成3年11月の献金被害(110万円)
原告が被告統一協会に110万円を献金名下に交付したことは認める。被告統一協会は,原告主張の献金の勧誘行為に関与しておらず,その余の原告の主張は争う。
平成7年8月の献金被害(170万円)
原告が被告統一協会に170万円を祝福献金名下に交付したことは認める。ただし,上記祝福献金は,被告統一協会とは別組織である祝福実行委員会(国際合同祝福結婚式が開催される度毎に結成され,同式典の開催に向けて諸般の事務処理を行う委員会である。)に交付されており,被告統一協会には交付されていない。
清平祈祷院建設基金名下の被害(70万円)
原告が被告統一協会に70万円を清平祈祷院建設基金名下に交付したことは認める。ただし,上記基金は,被告統一協会とは別組織であり,韓国世界平和統一家庭連合の一施設である清平修練苑に交付されており,被告統一協会には交付されていない。
平成9年の献金被害(1200万円)
原告が被告統一協会に1200万円を献金名下に交付したことは認める。被告統一協会は,原告主張の献金の勧誘行為には関与しておらず,その余の原告の主張は否認又は知らない。
各種献金名下の損害(合計932万円)
原告の主張は知らない。
各種物品代金名下の損害(合計694万9406円)
被告統一協会は,原告主張の物品の販売しておらず,売買代金の交付を受けていない。
(被告個人らの主張)
原告は,被告統一協会の信仰に基づき,自己の意思により献金及び物品の購入を行ったものであり,被告個人らの欺岡,脅迫によってこれらを行ったものではない。原告の各献金及び物品の購入の主張に対する個別の認否は以下のとおりである。
平成元年の印鑑被害(40万円)
原告が株式会社マインドから印鑑(碩宝印)を40万円で購入したことを認め,その余の原告の主張は争う。
平成2年の献金被害(7726万4069円)
原告が自宅マンションを担保にGから7000万円を借り入れたことは認める。原告から金員を借り入れたのは,被告統一協会ではなく,世田谷教会の信徒会であり,その額も,金銭消費貸借契約書(甲B8)上は7000万円と記載されているが,上記7000万円から原告がGに対して支払った利息及び手数料等を控除した6273万5931円である。その余の原告の主張は争う。
平成3年4月の献金被害(2000万円)
原告は,被告統一協会に対し,自宅マンションの売買代金9300万円からGに対する残債務額及び解約手数料等を控除した残額のうち500万円及び上記金銭消費貸借契約書記載の借入金を被告統一協会への献金に振り替えた7000万円の合計7500万円を献金したものである。原告は,自宅マンションが原告が不倫関係にあった妻子ある男性と過ごした場所であり,これを売却することで不倫関係を清算し,売買代金を天に献金することで,新しい出発ができると考え,自らの意思で自宅マンションを売却し,自宅マンションの売買代金を被告統一協会に献金したものである。その余の原告の主張は争う。
平成3年5月の献金被害(5363万6135円)
原告が被告統一協会に5300万円を献金名下に交付したことは認める。原告は,被告個人らに対し,「実は株を持っているのですが,これを売って献金したい。」と自ら申し出て,原告保有の株式を自ら売却し,その売買代金を被告統一協会に献金したものである。その余の原告の主張は争う。
平成3年11月の献金被害(110万円)
原告が被告統一協会に110万円を献金名下に交付したことは認める。その余の原告の主張は争う。
平成7年8月の献金被害(170万円)
原告が被告統一協会に170万円を献金名下に交付したことは認める。その余の原告の主張は争う。
清平祈祷院建設基金名下の被害(70万円)
原告が被告統一協会に70万円を清平祈祷院建設基金名下に交付したことは認める。その余の原告の主張は争う。
平成9年の献金被害(1200万円)
原告が被告統一協会に1200万円を献金名下に交付したことは認める。その余の原告の主張は争う。1200万円という献金額は,原告が自らの意思で決めたものであり,献金額を原理数(7,12,40等の被告統一協会の教義において宗教的意義がある数とされているもの)にするため,原告が●●株式会社の株式を売却して得た約1000万円に原告の手持ちの現金である約200万円を加えて1200万円としたものである。
各種献金名下の損害(合計932万円)
原告主張の献金額は知らない。その余の原告の主張は争う。
各種物品代金名下の損害(合計694万9406円)
原告の主張は知らない。
(2) 「被告統一協会の責任の有無(争点(2))
(原告の主張)
被告統一協会の不法行為責任(民法709条)
前記(1)の(原告の主張)のアからコまでの被告個人らを含む被告統一協会の信者らの献金及び物品の購入の勧誘行為は,いずれも被告統一協会によってその組織的活動の一環として行われたものであり,被告統一協会自身の不法行為と評価することができる。
被告統一協会の使用者責任(民法715条)
前記(1)の(原告の主張)のアからコまでの献金及び物品の購入の勧誘行為は,被告個人らを含む被告統一協会の信者らによって行われたものであるところ,被告統一協会と被告統一協会の信者らとの間には実質的な指揮監督関係があり,被告統一協会の事業の執行として行われたものであるから,被告統一協会は民法715条に基づき使用者責任を負う。
(被告統一協会の主張)
被告統一協会の不法行為責任(民法709条)
被告統一協会が組織的,計画的に違法な献金及び物品の購入の勧誘行為を行ったことはなく,前記(1)の(原告の主張)のアからコまでの被告個人らを含む被告統一協会の信者らの献金及び物品の購入の勧誘行為は,被告統一協会の組織的活動の一環として行われたものではない。
被告統一協会の使用者責任(民法715条)
被告個人らを含む被告統一協会の信者らの行為は,被告統一協会の事業の執行として行われたものではないのであるから,被告統一協会は民法715条に基づく使用者責任を負わない。
(3) 損害額(争点(3))
(原告の主張)
献金額及び物品の購入代金額合計1億8306万9610円
慰謝料 1838万円
原告は,被告らの正体を隠した違法な伝道活動の結果,約17年もの長期間被告統一協会の信者とされ,多額の資産を収奪され続け,重大な精神的苦痛を受けた。このような精神的苦痛を金銭に換算すれば少なくとも1838万円を下らない。
弁護士費用 2022万円
(被告らの主張)
原告の上記主張は争う
第3 当裁判所の判断
まず「本件の経緯について判断する。
原告は,陳述書(甲B40)及び本人尋問において,被告統一協会の宗教活動に参加したのは,Eらによって手相を見てもらうように勧められて新橋のホテルの一室に誘い込まれた際,被告統一協会の信者である先生と称する人物が原告に対し,「運命というのはあなたの力では決まらないのです。先祖の因縁の力で良くも悪くもなるのです。」,「あなたの先祖は今,霊界で苦しんでいます。先祖が救われるかどうかもあなた次第です。」などと述べ,その年(平成元年)が原告の父の3回忌及び原告の母の7回忌の年であったため運命的なものを感じ,その話を真に受けてしまい,上記人物から,この印鑑を買えば,自分だけでなく,今地獄で苦しんでいる先祖や両親も救われるなどと迫られ,上記印鑑を購入したことがそのきっかけであると供述しており,その後の献金等についても,先祖因縁の恐怖を教え込まれており,霊界にいる両親を救い出すためにしたと強調している。 しかし,証拠(乙ロ4から6まで,乙ロ8,原告本人[特に,6頁,38頁から41頁まで,61頁,79頁,80頁],被告個人ら各本人)によれば,原告の父は昭和●年●月●日に,原告の母は昭和●年●月●日に死亡しており,平成元年は,原告の父が死亡してから●年,原告の母が死亡してから●年が経過しており,原告の父の3回忌の年でもないし,原告の母の7回忌の年でもないことが明らかであること,原告は,本当は両親の子ではないのではないかと思っており,被告個人らに対して,自らが両親の実子ではなく,養子であるとか,橋の下で拾われたとか,両親には,情がいかないと述べていたこと,原告が被告統一協会の世田谷区の豪徳寺駅近くのビデオセンターに通うようになったのも,原告は,Eからは,先祖や家系について勉強しなければならないとも誘われたものの,それには興味がなく,Eが述べた「真の愛」について関心を持ったからであったことが認められるのであるから,原告の陳述書及び本人尋問の結果中の上記供述記載部分及び上記供述部分は,平成元年が原告の父の3回忌及び原告の母の7回忌の年であったため運命的なものを感じたという点で明らかに虚偽であり,上記献金等を霊界にいる両親を救い出すためにしたという部分も直ちに採用することができない。したがって,原告の陳述書及び本人尋問の結果中の供述記載部分及び供述部分のうち,上記部分を除いて本件の経緯を認定することとする。
前記第2の1の争いのない事実等,証拠(甲A47,甲Blから8まで,甲Bl0から14まで,甲B16から19まで,甲B20の1から6まで,甲B21の1から5まで,甲B22,甲B23の1及び2,甲B38,甲B39,甲B40[相反する部分を除く。],甲B41,乙ロ2,乙ロ3の1,乙ロ4から6まで[相反する部分を除く。],原告本人[相反する部分を除く。],被告個人ら各本人[相反する部分を除く。])及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実を認めることができる。
(1) 当事者
原告は,自他とも認める,自己の意思を強く持っており,イエス,ノーをはっきり言う気質の女性である(前記第2の1の争いのない事実等,甲B40,原告本人)。
被告統一協会は,韓国国籍の文鮮明を創始者かつ救世主(メシヤ)とし,日本国内においては昭和39年に設立登記された宗教法人である。被告統一協会は,全国をいくつかの教区に分けてそれぞれの教区に教区本部を置き,各教区内をいくつかの教域に分けて,それぞれの教域に本部を置き,その教域組織の下に教会を置いている(前記第2の1の争いのない事実等,甲A47,弁論の全趣旨)。
(2) 原告が被告統一協会にかかわった経緯,平成元年の印鑑の購入
Eは,平成元年10月29日,東京都中央区銀座のデパート前を一人で通行中の原告に対し,「あなたの手相を見せてくれませんか。」と声をかけ,Eと一緒にいた被告統一協会の信者である女性が,Eにつき「この方は占いの先生で,あなたの手相を見てくれますよ。有名な先生ですけれど,ご存じないですか。」などと話かけた。さらに,E及び上記女性は,原告に対し,「近くのホテルにもっと有名な先生が来ています。特別にあなたの運勢も見てくれますよ。よかったら参加しませんか。」と述べ,原告を新橋のホテルに誘い,原告を同ホテルに同行させた。同ホテルにおいて,被告統一協会の信者であり,先生と称する人物は,原告に対し,印鑑の購入を勧め,その結果,原告は,40万円で株式会社マインドから印鑑(碩宝印)を購入するとの売買契約を締結し,Eに対し,同日,上記印鑑の売買代金の一部として2万円を交付し,その後,同月30日,渋谷区の代々木駅において,Eに対し,上記印鑑の残代金38万円を支払った。上記印鑑購入の具体的な態様は不明である。なお,Eを含む被告統一協会の信者らは,自らが被告統一協会の信者であることを秘していた(甲Bl,甲B40,原告本人)。
(3) 原告がビデオセンターへ通うことになった経緯
Eは,上記印鑑の残代金38万円の支払を受けた際,ビデオセンターが被告統一協会の信者らが運営する施設であることを秘したまま,原告に対し,「真の愛について学びませんか。」などと述べ,世田谷区の豪徳寺駅近くのビデオセンターに誘った。原告は,妻子のある男性と不倫関係にあり,約10年間,上記男性と自宅マンションで同棲に近い生活をしていたが,上記男性が病気になり,妻子の元に帰ってしまい,昭和60年ころから事実上別れた状態になってしまっていたことから,上記男性との関係を整理できずに悩んでいたため,Eの述べた「真の愛」につき関心を持ち,上記ビデオセンターにEと共に訪れ,約半年間,上記ビデオセンターに通った。原告は,上記ビデオセンターで被告Dと知り合った(甲B40[相反する部分を除く。],乙ロ4から6まで,原告本人[相反する部分を除く。],被告個人ら各本人)。
(4) 原告がサミットに通うようになった経緯
平成2年3月ころ,原告が同年4月から●●に配属されることが決定したため,被告Dは,同年3月ころ,サミットが被告統一協会の施設であることを秘したまま,原告をサミットに通うように誘い,原告は,同年4月以後,サミットに通うようになった。その後,原告は,熱海で行われた1泊2日の被告統一協会主催の原理研修に参加し,原告が学んでいる教義が被告統一協会のものであること,文鮮明が被告統一協会の創始者であり,救世主(メシヤ)とされていることを初めて告げられた。被告Dは,サミットにおける原告の直接の担当者となった。また,被告Bは,サミットの「教師」として教義を教えたり,カウンセリングを行う役割を担当しており,被告Cは,サミットの部長であり,献金の実務を担当していたが,原告は,サミットにおいて被告B及び被告Cと知り合った(甲B
40[相反する部分を除く。],甲B41,乙ロ4から6まで,原告本人,被告個人ら各本人)。
(5) 平成2年の献金
原告は,被告個人らに勧められ,不倫関係にあった男性との関係を精神的に清算するため,被告Bと共に上記男性から預かった短刀を寺に納めに行くなどしたが,原告は,被告B及び被告Dを含めたサミットの被告統一協会の信者らに対し,新しい出発をしようと思っても,自宅マンションで一人になると心が前向きにならず,落ち込んでしまうなどと述べ,精神的に上記男性との関係を清算することができずに悩んていた。
被告Dは,原告が自宅マンションを所有していることを原告から聞き,このことを被告Cに報告していた。被告Cは,原告に告げずに自宅マンションの登記簿謄本を入手し,原告がGから自宅マンションを担保に7000万円を借り入れることができることを確認し,被告Bや被告Dに対し,時期をみて献金に振り替えさせる予定で,原告に対し,自宅マンションを担保に7000万円を借り入れて被告統一協会に対して貸付期間を3年の約定で全額を貸し付けるように勧誘するように指示した。

原告は,平成2年6月ころの午後10時過ぎころまでサミットにおいて,被告統一協会の城南地区のエリア長を務めていたFから被告統一協会の進める統一運動に関する講義を受けた。被告Bは,上記講義後,原告に対し,自宅マンションには,長い間,男性との間の愛の問題がこもっている,神の真の愛を中心とした家庭を築くためには,原告が不倫関係にあった男性と同棲に近い生活をしていた自宅マンションを,聖別(聖なるものとして,他の被造物と別のものにすること)する必要があり,聖別するためには自宅マンションを担保に金員を借り入れ,全額を被告統一協会に貸し付ける必要がある,貸付額は,聖書にあるように,人間は6日目に堕落したので,6という数はサタンの侵入を受けた象徴的な数字であり,これを超える7という数は堕落圏を超えるという意味があって,天地完成数に当たるから,7000万円とすべきである,上記貸付けの借入期間は,3という数は天の祝福と守りがあるようにという意味があり,天の数字であるから,3年とすべきであるなどと述べ,被告統一協会への貸付けを迫り,その場には,被告Dも同席していた。

その結果,自宅マンションを聖別しなければ,神の真の愛を中心とした奉庭を築くことができないとの不安にかられた原告は,被告Cから,貸金業者としてGを紹介され,同月27日,被告Cと共にGの事務所を訪れ,Gとの間で,原告がGから利息年9.5%,損害金年18%の約定で7000万円を借り入れるとの金銭消費貸借契約,自宅マンションにつきGを抵当権者,原告を債務者,原因を上記金銭消費貸借契約,抵当権設定契約及びGを権利者,借賃を月額1u当たり10円,支払期を毎月末日,存続期間を満3年,条件を上記金銭消費貸借契約の債務不履行とする条件付き賃借権設定契約をいずれも締結し,I司法書士(以下「I司法書士」という。)に依頼して上記抵当権設定登記手続及び上記条件付き賃借権設定仮登記手続をした。また,原告は,上記借入金債務の担保として,●●保険株式会社との間で保険契約を締結した上,Gとの間で上記保険金請求権につき,Gを質権者とする質権設定契約を締結し,原告及びGの連署の質権設定承認請求書に確定日付を得て●●保険株式会社に提出した。
原告は,同日,Gに対して同日から平成3年6月14日までの前払利息643万1369円,上記金銭消費貸借契約に係る事務手数料72万1000円(消費税相当額込み)及び調査料5万1500円(消費税相当額込み)並びに契約書貼付の印紙代6万0200円の合計726万4069円を,I司法書士に対して上記登記手続及び仮登記手続に要した費用38万6300円をそれぞれ支払い,また,上記確定日付の費用600円も支払った。
原告は,同日,原告名義の●●銀行の銀行口座(甲B7)から,同口座の残高6234万9131円(上記7000万円が入金される以前の同口座の残高である100円及び上記7000万円の合計7000万0100円から上記利息等の合計765万0969円[726万4,069円+38万6300円+600円=765万0969円]を控除した残額)全額を出金し,その場で被告Cに対し,被告統一協会に対する貸付金としてこれを交付した。

その際,被告Cは,原告に対し,「手数料や金利はこちらが持ちますので,7000万円をお借りしたことにします。」と述べ,被告統一協会が,原告がG等に支払った上記利息等の合計765万0969円についても負担することを約束し,同月30日,原告に対し,貸主として世田谷教会の信徒会の当時の代表であり,世田谷教会の壮年部長であるJ,連帯保証人として被告統一協会の信者のKと記載され,借入額7000万円,弁済期日を平成5年6月26日とする平成2年6月27日付けの金銭消費貸借契約書(甲B8)を交付した(甲B2から8まで,甲B12,甲B40[相反する部分を除く。],甲B41,甲B47の1及び2,乙ロ4から6まで[相反する部分を除く。],原告本人[相反する部分を除く。],被告個人ら各本人[相反する部分を除く。])。

(@ 被告B及び被告Cの各本人尋問の結果中には,被告Cは,被告Bが原告に対して自宅マンションを担保に7000万円を借り入れ,全額を被告統一協会に貸し付けるように求めるのに先立ち,Gに対し,自宅マンションを担保に7000万円を借り入れることができることを確認していないとの上記認定に反する供述部分がある。しかし,上記供述部分は,自宅マンションを担保に金員を借り入れること,借入額を7000万円とすることを提案したのが原告ではなく,被告Bであることは,被告Bが本人尋問において自認している[被告B本人尋問調書28頁]ところ,それ以前に原告が自宅マンションの登記簿謄本を被告統一協会の信者らに交付する必要性はないのであるし,被告B及び被告Cの上記供述部分によれば,被告Bが自宅マンションを担保にいくらのお金を借り入れることができるかを確認することなく,いきなり,原告に対し,7000万円という高額な金員の貸付けを求めたことになり,極めて不自然であることに照らして直ちに採用することができない。

A 被告B及び被告Cの各陳述書[乙ロ4,乙ロ5]及び各本人尋問の結果中には,原告から金員を借り入れたのは,被告統一協会ではなく,世田谷教会の信徒会であるとの上記認定に反する供述記載部分及び供述部分がある。しかし,上記供述記載部分及び上記供述部分は,原告が被告統一協会の教義に基づき自宅マンションを担保提供した目的が過去の不倫相手との思い出の場所を聖別するためであるから,原告による金員の貸付先は,被告統一協会であるのが当然であり,上記信徒会であるはずがないこと,その後,上記6234万9131円及び被告統一協会が負担する旨約束した上記765万0969円の合計7000万0100円全額が被告統一協会への献金へと振り替えられていることからすれば,上記貸付金は,原告から被告統一協会に交付されたものと推認することができることに照らして採用することができない。

B 原告の陳述書[甲B40]及び本人尋問の結果中には,上記被告Bから,自宅マンションを担保とする借入れを求められた際,財産というのはとても因縁が強く,その中でも土地というのはたくさんの人の恨みがつもっており,強い因縁を持っているなどと言われた旨の供述記載部分及び供述部分があるが,上記供述記載部分及び上記供述部分は,前記のとおり,献金の動機についての原告の供述は直ちに採用することができず,原告の上記貸付行為に及んだのは専ら自宅マンションを「聖別」するためであったと考えるのが自然であることに照らして採用することができない。

C 原告の陳述書[甲B40]及び本人尋問の結果中には,原告が被告Cに対して交付することができた金員が7000万円に満たなかったため,平成2年7月25日,原告保有の株式会社●●の株式2000株を774万円で売却し,同月30日,手数料等が控除された757万0700円を貸付金名下に被告統一協会の信者に交付したのであり,上記757万0700円は7000万円の被告統一協会への貸付金の一部であるとの供述記載部分及び供述部分がある。しかし,上記供述記載部分及び上記供述部分は,原告が平成2年6月27日に被告Cに貸付金名下に6234万9131円を交付した時点では既に被告統一協会に7000万円を献金しなければならないと認識していたのであり,それにもかかわらず,約1か月後の同年7月25日まで上記株式を売却せず,放置していた合理的理由はなく,不自然であること,原告が本人尋問において上記株式の売買代金を被告統一協会に交付した日時(同月30日)と上記同年6月27日付け金銭消費貸借契約書の交付を受けた日時の先後関係につき記憶がなく,上記株式の売買代金が上記7000万円の貸付金自体に充てられたか分からない旨自認していること(原告本人尋問調書87頁,88頁),上記金銭消費貸借契約書の作成日付は,本来,原告が上記株式の売買代金を被告統一協会に交付したとされる同年7月30日以降でなければならないにもかかわらず,同年6月27日と記載されていること,原告は,被告Cから上記金銭消費貸借契約書を交付された際,上記各記載につき何ら異議を述べていないことに照らして採用することができない。)

(6) 平成3年4月の献金
平成2年11月,自宅マンションの上階の居室のガス工事が原因で自宅マンションの天井から漏水が生ずるようになった。原告は,サミットにおいて被告Dに対し,上記漏水について相談をし,被告Dは,被告Bに上記相談を受けたことを伝えた。被告D及び被告Bは,後日,自宅マンションを訪れた。その際,原告は,被告D及び被告Bに対し,「雨漏りがするからこの家を売りたい。」,「これって,引っ越しをしなさいってことですかねえ。」などと述べ,これに対し,被告Bは,「教会の近くに引っ越して来られてもいいですね。」などと述べた。そして,原告は,当初自宅マンションの売買代金を新しいマンションの購入資金にするつもりであり,被告統一協会に献金するつもりはなかったが,被告Bは,原告に対し,自宅マンションを売却した代金につき,「お金が入ったら,それはすべて協会に献金しなければならないのです。Aさんの家系は女性の恨みをかった家系であり,色情因縁が強く,そのせいで今まで結婚のチャンスがなかったのです。」などと述べ,自宅マンションの売買代金を献金するように迫った。その結果,原告は,自宅マンションを売却し,自宅マンションの売買代金を被告統一協会に献金しなければ,色情因縁を解消することができず,新しい出発をすることができないなどと不安に陥った。そこで,原告は,自宅マンションを売却することを決意し,被告Cから,仲介業者として被告統一協会の関連会社である株式会社アールデュモンド(以下「アールデュモンド」という。)を紹介され,平成3年4月1日,被告Cの同席の下,アールデュモンドの仲介により,L(以下「L」という。)との間で,自宅マンションを原告が同人に対して9300万円で売り渡すとの売買契約を締結し,上記貸付金6234万9131円及び上記被告統一協会が負担する旨約束した利息等765万0969円の合計7000万0100円を被告統一協会への献金に振り替えるとともに自宅マンションの売買代金9300万円からGに対する残債務7008万8220円(元金7000万円に,解約手数料140万円から平成3年4月4日から同年6月14日までの戻し利息131万1780円を控除した残額である8万8220円を加えた額),アールデュモンドに対する仲介手数料279万円及び自宅マンションの上記売買契約書(甲B10)貼付の印紙代6万円及び原告が被告Cに対して上帯売買代金から支払うように求めた自宅マンションの売買に伴う譲渡所得税397万6000円を控除した残額である1608万5780円を被告統一協会に献金名下に交付した(甲B10から13まで,甲B40[相反する部分を除く。],原告本人[相反する部分を除く。],乙ロ4から6まで,被告個人ら各本人[相反する部分を除く。],弁論の全趣旨)。

(@ 被告Bの陳述書[乙ロ4]及び本人尋問の結果,被告Dの陳述書[乙ロ6]及び本人尋問の結果中には,自宅マンションを売却し,自宅マンションの売買代金を被告統一協会に献金をすることを提案したのは,被告Bではなく,原告であるとの上記認定に反する供述記載部分及び供述部分がある。しかし,上記供述記載部分及び上記供述部分は,被告統一協会の教義を受けて間もない原告において,被告統一協会の信者らから何らの害悪も告知されることなく,自発的に1608万5780円もの高額の金員の献金及び著しく高額な7000万0100円の借入金等の被告統一協会への献金への振り替えを決意することが極めて不自然であることに照らして採用することができない。

A 被告Cの陳述書[乙ロ5]及び本人尋問の結果中には,被告Cは,原告から,自宅マンションの売買代金9300万円からGに対する残債務7008万8220円,アールデュモンドに対する仲介手数料279万円の他,原告に前払された手付金930万円を控除した1082万1780円を受領し,うち500万円を献金名下に交付を受け,残りの582万1780円は献金ではなく,自宅マンションを売却する際に要した税金及び原告が新たに賃借したマンションの諸費用等に用いるために預かり,上記各用途に使用したとの上記認定に反する供述記載部分及び供述部分があり,自宅マンンションの上記売買契約書[甲10]には,Lが原告に対して売買契約の締結時に手付金として930万円を支払う旨の記載がある。しかし,上記供述記載部分及び上記供述部分は,弁論の全趣旨[税理士作成の原告の平成3年分の所得税の確定申告書]によれば,平成3年4月1日に9300万円全額が原告に交付されており,手付金が前払されていないこと及び自宅マンションの売買に伴う譲渡所得税は397万6000円にすぎないことが認められ,被告C本人尋問の結果[被告C本人尋問調書41頁],原告本人尋問の結果[原告本人尋問調書22,23頁]によれば,原告は平成2年12月30日時点で既に自宅マンションから転居しており,転居の際に必要となった諸費用は原告自身の負担で支払済みであったことが認められることに照らして採用することができない。なお,原告の署名のある平成3年4月13日付け献金表明書[乙ロ1]には,献金額として7500万円と記載されているが,原告の陳述書[甲B40]及び本人尋問の結果によれば,被告Cの指示で原告が上記表明書に署名したものにすぎず,上記表明書のその他の記載はあらかじめ記入されていたことが認められることに照らせば,原告が上記表明書の記載を十分に確認しないまま,署名した可能性を否定することができず,この点は,上記結論を左右しない。
(7) 平成3年5月の献金
原告は,平成3年4月に世田谷区内の賃貸マンションに引っ越し,サミットと共に被告統一協会の世田谷教会にも通うようになった。原告は,同年5月12日,日曜礼拝でFから統一運動に関する全体講話を受けた。原告は,同月13日,被告Dと共に当時の株式会社●●銀行●●支店を訪れ,同銀行の貸金庫から原告が保有し,上記貸金庫で保管していた●●株式会社の株券2000株,●●株式会社の株券2000株,株式会社●●の株券5000株,●●株式会社の株券9000株,●●式会社の株券4000株,●●株式会社の株券5000株及び原告の実印を取り出し,その後,●●株式会社において,上記各株式を合計5363万6135円で売却する手続を自ら行った。上記手続後,原告は,被告Dに対し,上記実印を交付し,上記株式の売却結果を確認するように求め,職場に戻った。被告Dは,同日夜,原告に対し,上記実印を返還するとともに上記株式を無事に売却することができた旨を報告した。原告は,同月16日,●●株式会社から上記各株式の売買代金合計5363万6135円を受領し,同月17日,うち5300万円を献金名下に被告統一協会に交付した。同月25日,上記献金につき,被告統一協会主催の献金式が開催された。上記献金についてはその出えんの具体的な経緯は明らかではない(甲B14,甲B40[相反する部分を除く。],乙ロ2,乙ロ3の1,乙ロ6,原告本人[相反する部分を除く。],被告D本人)。

(@ 原告の陳述書[甲B40]中には,Fが,上記講話後,平成3年5月15日,原告に対し,「Aさん,今教会でお金が足りないのです。だから2000万円をすぐ用意してください。」,「A家の先祖にはとても悪い因縁がついています。A家の先祖は,そのせいで息のできない地獄で苦しんでいる。あなたが頑張らないとA家の先祖は守れないのです。」,「財には因縁,恨みがついています。あなたが持っている財産を売却してでも,天にささげないといけません。私の言うとおりにしないと,先祖は守れませんよ。お金を天にささげると,家に帰った時にダイヤモンドダストが降ってきますから。」などと述べ執拗に献金を迫ったとの供述記載部分がある。しかし,上記供述記載部分は,原告が本人尋問において,被告Bから被告統一協会への2000万円の貸付けを求められたが,被告Bの具体的な発言は記憶にない旨自認していること[原告本人尋問調書24頁,86頁,87頁,93頁,94頁],また,本人尋問に際して,原告の陳述書記載の上記欺岡脅迫文言の発言者を被告Bに,その日時も同月12日にそれぞれ訂正しているが,その訂正の理由につき何ら合理的説明をしていないこと,証拠[乙ロ3の1]からうかがえる原告の献金式での様子からすれば,原告が自由意思に基づき献金をした可能性も否定できないことに照らして採用することができない。

A 原告の陳述書[甲B40]及び原告本人尋問の結果中には,被告Dが平成3年5月16日,原告に無断で上記各株式の売却手続を行い,上記株式の売買代金5363万6135円をそのまま被告統一協会に持って帰ってしまったとの上記認定に反する供述記載部分及び供述部分がある。しかし,上記供述記載部分及び上記供述部分は,証券会社で株式を売却してから株式の売買代金が支払われるまで売買の日を除いて約3日程度の期間を要することは原告が本人尋問において自認するところであり[原告本人尋問調書56頁],被告Dが上記株式を売却した当日に上記株式の売買代金をそのまま被告統一協会に持って帰ったとは考えられないこと,証拠[乙ロ6,被告D本人]によれば,被告Dは,原告と異なり,株式の売却に関する知識がないということができ,被告Dが上記株式の売却手続を行ったとは考え難いことに照らして採用することができない。)
(8) 平成3年11月の献金
被告統一協会の世田谷教会長は,平成3年11月ころ,世田谷教会において,原告を含む被告統一協会の信者に対し,被告統一協会の称する「16万摂理」の達成のため,「韓国の済州島に統一協会員が16万名行かなければ日本は滅びることになる。済州島に行けばお父様に会うことができる。そのために献金をしなければならない。これは義務である。済州島に行ける人も行けない人もみな献金をしなければならない。」などと述べて献金を求め,その結果,原告は,110万円を献金名下に被告統一協会に交付した(甲B18,甲B40,原告本人)。
(9) 平成7年8月の献金
被告統一協会の世田谷教会長は,平成7年8月,原告に対し,「Aさん,早く祝福を受けないとだめですね。今回また韓国で合同結婚式がありますから,これが最後のチャンスです。」,「祝福を受けないと原罪を払うことができません。このままだとあなたが死後,地獄に落ちますよ。」などと述べ,韓国で開催される合同結婚式への参加を求め,祝福献金名下に献金を求めた。その結果,原告は,170万円を祝福献金名下に被告統一協会に交付した。原告は,同月25日に韓国で開催された合同結婚式(36万双)に参加したが,結婚相手となる適当な男性がいなかったため祝福を受けることができず,その後「平成16年7月26日当時同棲をしていた内縁の夫であるMと共に合同結婚式(4億双第5次祝福式)に参加し,事後的に既成祝福を受けた(甲B40,乙ロ5[相反する部分を除く。],原告本人,被告C本人[相反する部分を除く。])。
(被告Cの陳述書[乙ロ5]及び本人尋問の結果中には,被告統一協会には,祝福を受けないと死後地獄に落ちるとの教義はなく,被告統一協会の教会長は,「祝福を受けないと原罪を払うことができません。このままだとあなたが死後,地獄に落ちますよ。」などとは述べていないとの上記認定に反する供述記載部分及び供述部分がある。しかし,上記供述記載部分及び上記供述部分は,被告Cが本人尋問において,被告統一協会には,祝福を受けないと原罪を払うことができないとの教義があることを認めており[被告C本人尋問証書48頁],証拠[甲A39の1及び2]によれば,被告統一協会には,祝福を受ければ,原罪を払うことができ,天国に行けるとの教義,祝福を受けないと原罪を払うことができず,地獄に落ちるとの教義があることが明らかであるから,被告統一協会の世田谷教会長が,祝福を受ければ,原罪を払うことができ,天国に行くことができるとの話や祝福を受けないと原罪を払うことができないとの話をしたにもかかわらず,祝福を受けないと原罪を払うことができず,地獄に落ちるとの話がでなかったとは考え難いことに照らして採用することができない。)
(10) 清平祈祷院建設基金
原告は,被告統一協会の世田谷教会長らから勧められ,平成9年3月10日,韓国の清平で開催された清平祈祷院聖殿起工式に参加し,その際,清平修練所での修練会にも参加したが,そこで原告が具体的にどのような体験をし,どのような心理状態に陥ったのか明らかではない。上記起工式では,文鮮明が原告ら参加者に対し「350万円の献金が必要だ。」と述べ,献金をするように求めた。さらに,その後,引率の被告統一協会の信者らが,原告に対し,「お父様の入られる宮殿ができるのだから,あなたも祈祷院建設基金に協力しなければなりません。今お父様も言っていたように,献金額は350万円です。」などと述べて重ねて献金を求めた。その結果,原告は,同日,被告統一協会に対し,所持していた70万円を清平祈祷院建設基金名下に被告統一協会に交付した(甲B16,甲B38,甲B40,原告本人)。
(11) 平成9年の献金
原告は,世田谷教会において,被告Cから,「ニューヨークでお父様が呼んでいる。日本で120名だけがこれに参加することができる。世田谷からは7名が選ばれた。」,原告もこれに参加するようになどと言われ平成9年10月30日から同年11月4日まで,ニューヨークを訪問し,同年10月31日ころにニューヨークの文鮮明の自宅を訪問した。文鮮明は,自宅において,原告ら参加者に対し,「預金を下ろしてでも,お金を借りてでも何でもいいから,お金を出しなさい。お金をそのまま持っていてはいけません。お金は天に返さないといけないのです。」などと述べ献金を求めた。その結果,原告は,帰国後の同年11月25日,原告所有の●●株式会社の株式5003株を売却し,その売買代金1140万2714円に手持ちの資金を加えた1200万円を献金名下に被告統一協会に交付した(甲B17,甲B39,甲B40,原告本人)。
(12) 各種献金
原告は,サミットにおいて,このままでは日本が滅びるとの内容のビデオや文鮮明が献金を要求する内容のビデオ見せられるなどし,いずれも被告統一協会に,平成6年5月17日に3万円,同年12月9日に90万円,平成7年4月10日に10万円,同年6月30日に40万円,平成8年5月31日に10万円,同年6月10日に400万円,同年10月31日に80万円をそれぞれ救国基金名下に交付し,平成6年6月15日に1万円,同年9月16日に5万円,同年11月25日に15万円をそれぞれ救国献金名下に交付した。また,原告は,平成8年12月13日に1万円,平成9年6月30日に40万円,同年9月30日に2万円,平成10年1月26日に160万円,同年3月22日に15万円,同月26日に10万円,同年6月9日に10万円,平成11年3月26日に10万円,平成12年4月ころに30万円をそれぞれ被告統一協会に交付したが,その出えんの具体的な経緯は明らかではない(甲B18,甲B40,原告本人)。
(原告の陳述書[甲B40]及び本人尋問の結果中には,救国基金及び救国献金以外の献金について,被告ら個人を含む世田谷教会の被告統一協会の信者らから「Aさん,あなたは,A家の氏族メシヤなのです。あなたが頑張って天に献金しないと,あなたの両親や先祖は息もできない地獄で苦しみ続けるのです。」などと言って,献金を迫ったとの供述記載部分及び供述部分があるが,上記供述記載部分及び上記供述部分は,前記で説示したとおり,原告が被告統一協会に入信し,献金を行った動機が先祖や両親を救うというものであったとは考え難いことに照らして採用することができない。)
(13) 各種物品の購入
原告は,被告統一協会の信者らに求められ,日本ジェム株式会社から,平成3年4月16日にペンダント「真の家庭」を166万1400円(ローン手数料を含む。),同年11月22日に絵画「情熱の思い」を182万3200円(ローン手数料を含む。),平成4年6月20日に宝飾品「心情の華」を286万7200円(ローン手数料を含む。),同年12月21日に着物「重衿」を2万0600円,平成5年6月19日に呉服等を57万7006円でそれぞれ購入したが,その具体的な経緯は明らかではない(甲B19,甲B20の1から6まで,甲B21の1から5まで,甲B22,甲B23の1及び2,甲B40,原告本人)。
2 被告統一協会の信者ら(被告個人らを含む。)による原告に対する献金及び物品の購入の勧誘行為の違法性の有無(争点(1))について
一般に特定の宗教がその布教活動等として献金等を勧誘する行為は,勧誘するに当たり,教義に従って霊的な存在や因縁,吉凶禍福について説くにとどまる限度では直ちに違法というべきものではないが,その限度を超え,相手方に具体的な害悪を告知したり,心理的な圧迫を加えるなどして,ことさらに相手方の不安や恐怖心をあおり,その結果相手方が自由な意思決定を阻害された状態で献金等をさせられたと認められる場合には,社会的に相当な範囲を逸脱した行為として違法というべきである。そして,当該献金等の勧誘行為の違法性を判断するに当たっては,具体的な害悪の告知等の有無,その際の状況,告知された害悪等の内容,献金等の時期,その金額の多寡等を総合して勘案するのが相当である。
原告は,被告統一協会が原告を含む信者及びその関係者からその財産を収奪するという違法な目的の下に組織的かつ計画的に勧誘等を行っていると主張するが,本件全証拠によっても,本件における献金等の勧誘行為が原告を含む信者及びその関係者からその財産を収奪するという違法な目的の下に組織的かつ計画的に行われたとまで認めることはできない。また,前記1で認定したとおり,原告は,平成3年ころに被告統一協会の信者になって以来,被告統一協会の宗教活動に参加する以外は,●●の職員として勤務しており,原告の自己の意思を強く持っている性格にかんがみても,原告が被告統一協会からその教義について講義を受けたり,種々の行事等に参加することで恒常的に自由な意思決定を阻害された状態にまで追い込まれたと認めることはできない。なお,原告は,清平修練所での修練会に参加しており,証拠(甲A41から43まで)によれば,上記修練会には霊的な要素が強いことはうかがわれるが,そのことから直ちに被告統一協会が上記修練会を信者から財産を収奪する手段として利用していたとまで認めることはできないし,原告が上記修練会で具体的にどのような体験をし,どのような心理状態に陥ったのか明らかではない。したがって,原告については,個別の献金等が,その際に具体的な害悪の告知がなくても誤信又は畏怖した状態の下で行われたということはできないので,個々の勧誘行為が上記の見地に照らして社会的に相当な範囲を逸脱しているか判断する必要があるというべきである。
(1) 平成元年の印鑑の購入について
前記1(2)で認定したとおり,原告は,平成元年10月29日,印鑑を40万円で購入しているが,上記印鑑の購入の勧誘の具体的な態様は,明らかではなく,上記印鑑の購入の際に,Eを含む被告統一協会の信者らが原告に対して具体的な害悪を告知したり,心理的圧力を加えるなどして,ことさらに原告の不安,恐怖心をあおったような事情を認めるに足りる証拠はないというはかなく,印鑑の購入代金も40万円と比較的少額にとどまっていることからすれば,被告統一協会の信者らの違法な勧誘行為により原告が自由な意思決定を阻害された状態で上記印鑑を購入させられたとまでいうことはできない。したがって,上記物品の購入の勧誘行為を違法と評価することはできない。
(2) 平成2年の献金及び平成3年4月の献金について
前記1(5)及び(6)で認定したとおり,以下の事情が明らかである。被告Dから原告が自宅マンションを所有しているとの報告を受けた被告Cは,原告に告げずに自宅マンションの登記簿謄本を入手し,原告がGから自宅マンションを担保に7000万円を借り入れることができることを確認し,被告Bや被告Dに対し,時期をみて献金に振り替えさせる予定で,原告に対し,自宅マンションを担保に7000万円を借り入れて被告統一協会に対して貸付期間を3年の約定で全額を貸し付けるように勧誘するように指示した。これを受けた被告Bは,原告に対し,被告D同席の下,自宅マンションには,長い間,男性との間の愛の問題がこもっている,神の真の愛を中心とした家庭を築くためには,原告が不倫関係にあった男性と同棲に近い生活をしていた自宅マンションを,聖別する必要があり,聖別するためには自宅マンションを担保に金員を借り入れ,全額を被告統一協会に貸し付ける必要があるなどと述べ,被告統一協会への貸付けを迫り,その結果,不安にかられた原告は,平成2年6月27日に被告統一協会に6234万9131円を貸し付けるとともに,Gに対して同日から平成3年6月14日までの前払利息,事務手数料,調査料及び契約書貼付の印紙代として合計726万4069円を,I司法書士に対して抵当権の設定登記手続及び条件付き賃借権設定仮登記手続に要した38万6300円をそれぞれ支払い,原告及びGの連署の質権設定承認請求書の確定日付費用として600円を支払った(これらの金員の合計は765万0969円である。)。
その後,被告B及び被告Dは,平成2年11月,原告に対し献金をしなければ,色情因縁を解消することができないなどと不安をあおって献金を迫り,自宅マンションを売却し,自宅マンションの売買代金を被告統一協会に献金しなければ,色情因縁を解消することができず,新しい出発をすることができないなどと不安にかられた原告は,平成3年4月1日,上記貸付金6234万9131円等を被告統一協会への献金に振り替えるとともに新たに被告統一協会に1608万5780円を献金した。
これらの一連の貸付の要求行為及び献金の勧誘行為は,被告統一協会の信者である被告個人らが,共謀の上,原告に対し,具体的な害悪を告知して,ことさらに原告の不安をあおり,著しく過大な献金をさせたものであり,原告が自由な意思決定を阻害された状態で献金等をさせられたということができるから,社会的に相当な範囲を逸脱する違法な行為というべきである。そして,上記6234万9131円のほか,上記765万0969円についても,上記不法行為がなければ支出しなかったものであるから,原告がこれらの金員を支払った平成2年6月27日の時点で損害が発生しているというべきである。また,原告が平成3年4月1日にGに対して支払った解約金140万円と戻し利息131万1780円との差額である8万8220円についても,上記不法行為がなければ支出しなかったものであり,上記不法行為と相当因果関係のある損害であるというべきであり,同日に献金された1608万5780円と同様に原告が支出した同日の時点で損害が発生しているというべきである。なお,原告は,上記不法行為がなくても,自ら自宅マンションを売買することを決意していたのであるから,原告が自宅マンションの売却に伴いアールデュモンドに対して支払った仲介手数料279万円,自宅マンションの売買契約書の貼付印紙代6万円及び自宅マンションの売買に伴う譲渡所得税397万6000円は,いずれも被告らの上記不法行為がなくても支出されたものであるということができるから,これらは,被告らの上記不法行為と相当因果関係のある損害であるということはできない。アールデュモンドが被告統一協会の関連会社であることは上記結論を左右しない。
(3) 平成3年5月の献金について
前記1(7)で認定したとおり,原告は,平成3年5月17日,5300万円を交付したが,上記献金については,その出えんの具体的な経緯が明らかではなく,被告統一協会の信者らが献金の際に,具体的な害悪の告知したり,心理的圧力を加えるなどして,ことさらに原告の不安,恐怖をあおったような事情はうかがわれない。したがって,献金額が5300万円と著しく過大であることを考慮しても,被告統一協会の信者らの違法な勧誘行為により原告が自由な意思決定を阻害された状態で献金をしたとまでいうことはできないから,上記献金の勧誘行為を違法と評価することはできない。
(4) 平成3年11月の献金について
前記1(8)のとおり,被告統一協会の世田谷教会長は,原告に対し,16万人の被告統一協会の信者が韓国の済州島に行かなければ日本が滅びることになる,献金は義務であるなどと述べて,原告をして110万円を被告統一協会に献金させたが,教会長の上記発言は,被告統一協会の教義の説明の域を出ないものであり,他に被告統一協会の信者らが原告に対して更に具体的な害悪の告知をしたり,心理的圧力を加えるなどして,ことさらに原告の不安,恐怖心をあおったような事情はうかがわれない。したがって,110万円という少額とはいえない献金がされていることを考慮しても,上記教会長の違法な献金の勧誘行為により原告が自由な意思決定を阻害された状態で献金をしたとまで認めることはできないから,上記献金の勧誘行為は違法ということはできない。
(5) 平成7年8月の献金被害について
前記1(9)で認定したとおり,被告統一協会の世田谷教会長は,原告に対し,祝福を受けなければ地獄に行くことになるなどの話をしているが,これは,地獄の話をしているものの,被告統一協会の教義の説明の域を出ておらず,他に被告統一協会の信者らが原告に対して更に具体的な害悪の告知をしたり,心理的圧力を加えるなどして,ことさらに原告の不安,恐怖心をあおったような事情はうかがわれない。したがって,170万円という少額とはいえない献金がされていることを考慮しても,上記教会長の違法な献金の勧誘行為により原告が自由な意思決定を阻害された状態で献金をしたとまで認めることはできないから,上記献金の勧誘行為は違法ということはできない。
(6) 清平祈祷院建設基金について
前記1(10)で認定したとおり,原告は,平成9年3月10日,韓国の清平で開催された祈祷院聖殿起工式に参加し,その後清平祈祷院建設基金として70万円を交付しているが,この献金は,同起工式における文鮮明の信者らに対する一般的な呼びかけに応じてされたものであり,清平修練所での修練会に参加した際に原告が具体的にどのような体験をし,どのような心理状態に陥ったのか明らかではなく,文鮮明や被告統一協会の信者らが献金の際に具体的な害悪を告知したり,心理的圧力を加えるなどして,ことさらに原告の不安,恐怖心をあおったような事情を認めるに足りる証拠はない。したがって,上記献金の勧誘行為は違法ということはできない。
(7) 平成9年の献金について
前記1(11)で認定したとおり,文鮮明は,原告に対し,お金をそのまま持っていてはいけません,お金は天に返さないといけないなどと述べて,原告をして1200万円を被告統一協会に献金させたが,文鮮明や被告統一協会の信者らが原告に対して具体的な害悪の告知をしたり,心理的圧力を加えるなどして,ことさらに原告の不安,恐怖心をあおったような事情を認めるに足りる証拠はない。したがって,1200万円もの高額な献金がされていることを考慮しても,文鮮明の違法な献金の勧誘行為により原告が自由な意思決定を阻害された状態で献金をしたとまで認めることはできないから,上記献金の勧誘行為は違法ということはできない。
(8) 各種献金について
前記1(12)で認定したとおり,原告は,サミットにおいて,このままでは日本が滅びるとの内容のビデオや文鮮明が献金を要求する内容のビデオ見せられるなどし,いずれも被告統一協会に対し,平成6年5月17日に3万円,同年12月9日に90万円,平成7年4月10日に10万円,同年6月30日に40万円,平成8年5月31日に10万円,同年6月10日に400万円,同年10月31日に80万円をそれぞれ救国基金名下に交付し,平成6年6月15日に1万円,同年9月16日に5万円,同年11月25日に15万円をそれぞれ救国献金名下に交付したが,上記このままでは日本が滅びるとめ内容のビデオの内容は,被告統一協会の教義の説明の域を出ないものであるし,文鮮明が献金を要求するビデオの内容も文鮮明の一般的な呼びかけにすぎないものであり,他に被告統一協会の信者らが原告に対して具体的な害悪を告知したり,心理的圧力を加えるなどして,ことさらに原告の不安,恐怖心をあおったような事情はうかがえない。したがって,被告統一協会の信者らの違法な献金の勧誘行為により原告が自由な意思決定を阻害された状態で上記各献金をしたとまで認めることはできないから,上記各献金の勧誘行為は違法ということはできない。
また,原告は,平成8年12月13日に1万円,平成9年6月30日に40万円,同年9月30日に2万円,平成10年1月26日に160万円,同年3月22日に15万円,同月26日に10万円,同年6月9日に10万円,平成11年3月26日に10万円,平成12年4月ころに30万円をそれぞれ被告統一協会に交付したが,これらの献金については,その出えんの具体的な経緯が明らかではなく,被告統一協会の信者らがこれらの献金の際に具体的な害悪を告知したり,心理的圧力を加えるなどして,ことさらに原告の不安,恐怖心をあおったような事情を認めるに足りる証拠はない。したがって,原告が自由な意思決定を阻害された状態で献金をしたと認めることはできないから,上記各献金の勧誘行為は違法ということはできない。              
(9) 各種物品の購入について
前記1(13)のとおり,原告は,合計694万9406円の物品を購入しているものの,上記各物品の購入の際の具体的な経緯が明らかではなく,被告統一協会の信者らがこれらの各物品の購入の際に具体的な害悪を告知したり,心理的圧力を加えるなどして,ことさらに原告の不安,恐怖心をあおったような事情を認めるに足りる証拠はない。したがって,原告が自由な意思決定を阻害された状態で献金をしたと認めることはできないから,上記各物品の購入の勧誘行為は,違法と評価することはできない。
3 被告統一協会の責任の有無(争点(2))について
前記2で判断したとおり,不法行為と評価することができる前記献金勧誘行為等は,被告統一協会の信者らである被告個人らが共謹の上被告統一協会へ献金をさせるため,被告統一協会の教義に基づいて行われたものであり,前記献金勧誘行為によってされた原告からの献金は最終的にすべて被告統一協会に交付されていること,被告Cは被告統一協会の運営する組織であるサミットの部長,被告Bはサミットの教師,被告Dはサミットにおける原告の担当者であり,いずれも単なる被告統一協会の一信者というわけではないこと,被告統一協会においては,教域別献金達成率の一覧表が作成されており,献金達成率を高めることが求められていること(甲A 47)が明らかであり,これらの事情に照らせば,被告個人らの活動に被告統一協会の実質的な指揮監督関係が及び得る関係にあり,前記献金勧誘行為等が,被告統一協会の事業の執行につきされたものであるということができる。
したがって,被告統一協会は,被告個人らが原告に対してした上記2の不法行為につき,民法715条の使用者責任を負う。
4 損害額(争点(3))について
(1) 財産的損害について
前記2で判断したとおり,原告が被告らの不法行為により被った損害は, 8617万4100円(上記2(2)の6234万9131円+765万0969円+1608万5780円+8万8220円=8617万4100円)であり,被告らはいずれもその全額につき責任を負う。
また,上記損害に対する遅延損害金の起算日は,7000万0100円(上記6234万9131円+765万0969円)については平成2年6月27日,1617万4000円(上記1608万5780円+8万8220円=1617万4000円)は平成3年4月1日である。
(2) 慰謝料について
前記2で判断したとおり,被告個人らによる原告に対する前記献金勧誘行為等は,社会的相当性を逸脱する違法な行為であり,これにより,原告は多額の献金等を決意させられたことによって精神的苦痛を受けたものと認められ,これを金銭で換算すれば100万円が相当であり,被告らはいずれもその全額につき責任を負う。
(3) 弁護士費用について
原告は,本件の訴訟追行を弁護士に委任する必要があったと認められるところ,前記不法行為と相当因果関係のある弁護士費用は850万円と認めるのが相当であり,被告らはいずれもその全額につき責任を負う。
5 以上の次第で,原告の請求は,被告らに対し,連帯して9567万4100円及びうち7000万0100円に対する平成2年6月27日から,うち1617万4000円に対する平成3年4月1日から並びにうち950万円に対する被告統一協会につき平成20年5月30日から及び被告個人らにつき同月31日から各支払済みまで年5分の割合による金員の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し,その余はいずれも理由がないからこれを棄却することとし,主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第49部


裁判長裁判官  中村也寸志
裁判官       宮島文邦
裁判官       中保秀隆