◆損害賠償請求事件 東京地裁判決(平成20年1月15日)

平成二〇年一月一五日判決言渡

平成一七年ワ第二三五四九号 損害賠償請求事件
口頭弁論終結の日 平成一九年一一月一三日

千葉県
原    告 A     子
同訴訟代理人 弁護士 渡 辺   博
藤 井 陽 子
東京都
被    告 F     子
同訴訟代理人 弁護士 福 本 修 也
東京都渋谷区松濤一丁目一番二号
被    告 世界基督教統一神霊協会
同代表者代表役員 小山田 秀 生
同訴訟代理人弁護士 鐘 築   優

主    文

 原告の被告F子に対する訴えを却下する。
 被告世界基督教統一神霊協会は、原告に対し、二六一〇万円及びこれに対する平成一七年一二月一〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
 原告の被告世界基督教統一神霊協会に対するその余の請求を棄却する。
 訴訟費用は、これを一〇分し、その九を被告世界基督教統一神霊協会の、その余を原告の、それぞれ負担とする。
 この判決は、第2項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第1  請求
 原告に対して、被告F子と被告世界基督教統一神霊協会は三五四一万〇四〇〇円を、連帯して支払え。
第2  事案の概要
 本件は、被告統一協会の信者である被告F子らによる違法な勧誘行為等により損害を被ったとする原告が、被告Fに対しては民法七〇九条に基づき、被告統一協会に対しては同法七〇九条又は七一五条に基づき、損害賠償等を請求している事案である。
 これに対し、被告両名は、本案前の答弁として、原告とは本訴提起前に和解が成立しており、不起訴の合意がなされているとして、訴えの却下を求めるとともに、仮に不起訴の合意が認められないとしても、被告統一協会の信者である被告Fがした勧誘行為等に違法性はないとして、原告の請求を争っている。
 前提事実
 当事者間に争いのない事実並びに後掲各証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実は、次のとおりである。
(1)  当事者
 原告(昭和二四年生)は、昭和四七年結婚し、昭和四八年に長女を、昭和五〇年に二女を それぞれもうけた。亡夫は、生前大工をしていたが、平成一四年に急性リンパ性白血病と肺炎に罹患して死亡した。なお、亡夫の相続財産は約四五〇〇万円であり、原告、長女及び二女がこれを相続した。その後、原告は、平成一六年七月から市内においてマンションの清掃に従事して生計を立てている。
 被告統一協会は、(略)
(2)  原告代理人からの被告両名に対する通知
 渡辺弁護士らは、原告の代理人として、平成一六年一二月七日付け通知書をもって、被告統一協会、被告F及び被告統一協会の信者である訴外Iが経営している個人商店クレースに対して合計四〇五六万二五〇〇円の支払いを求めた。
(3)  合意書の作成
 原告と被告F及び訴外Iは、平成一七年五月六日、次の内容の合意書を作成した。
(ア)  原告と被告F及び訴外Iとの間の問題を円満に和解解決するためにこの合意をした。
(イ)  原告と被告F及び訴外Iは、本件和解の対象が本件通知書に記載してある一切の損害(以下「本損害」)であることを相互に確認する(第1条)。
(ウ)  原告と被告F及び訴外Iは、本損害の額が金二七〇〇万円であることを相互に確認する(第2条)。
(エ)  被告F及び訴外Iは、原告に対し、上記ウ記載の二七〇〇万円を、平成一七年五月から平成二一年一月まで各月末限り、各六〇万円ずつに分割して、原告の銀行口座に振り込んで支払う(第3条)。
(オ)  原告と被告F及び訴外Iは、本損害を巡る問題は本各条項で円満に解決したことを相互に確認し、原告は、被告F及び訴外Iに対し、今後名目の如何を問わず何らの金銭的請求をしないこと、また、民事訴訟の提起等の民事的手続をとらないこと、刑事告訴、告発等の刑事的手続をとらないこと、を確約する(第4条)。
(カ)  原告は、被告F及び訴外Iに対し、その余の請求を放棄する(第5条)。
 原告と被告Fは、平成一七年五月一二日、次の内容の合意書を作成した。
(ア)  原告は、被告Fと争いたくないので、本件通知書に関しては、平成一七年五月六日に合意したとおり、被告Fとの間で和解をした(第1条)。
(イ)  原告は、同月一一日、二人の娘に対して、被告Fと和解し、合意書を交わしたことを伝え、了承を得た(第2条)。
(ウ)  原告は、同月一七日、娘とともに渡辺弁護士らの事務所を訪れ、渡辺弁護士らを解任する手続をする(第3条)。
(エ)  原告と被告Fは、本件合意書1.の内容を完全に履行することを確認した(第4条)。
(4)  合意書の取消し
 原告は、平成一八年二月二七日の本件口頭弁論期日において、本件合意書1.、2.に記載されている原告の各意思表示を取り消すとの意思表示をした。

第2  争点
(1)  争点1(訴え提起前の和解・不起訴の合意の有無)
 被告Fの主張
(ア)  原告と被告統一協会、被告F及び訴外グレースは、渡辺弁護士らからの本件通知書が原告の意思に反するものであったため、平成一七年五月六日に和解をし、原告に対して上記通知書の請求金額のうち二七〇〇万円を被告F及び訴外グレースが支払うこと、原告は、被告統一協会、被告F及び訴外グレースに対してその余の請求を行わず、民事上及び刑事上の手続を行わないことを合意して、本件合意書1.を作成した。
(イ)  原告は、平成一七年五月から同年一二月までの間、本件合意書1.記載のとおり、被告Fから毎月六〇万円ずつの支払を受け、その後も異議なく和解金を受領し続けており、本件合意書1.に基づく和解の効力を争っていない。
(ウ)  本件合意書1.による合意によって原告と被告Fとの間には有効に和解が成立して紛争が解決されており、法律上の争訟性がない上、同当事者間には不起訴の合意が成立しているから、本件訴えは不適法な訴えであり、却下されるべきである。
 被告統一協会の主張
(ア)  上記アアイに同じ。
(イ)  本件合意書1.には、被告統一協会は和解当事者として記載されていないが、原告が被告統一協会との関係でも本件合意書1.に基づく和解によって紛争を終局的に解決する意向であったこと及び本件合意書1.に基づき被告統一協会とも不起訴の合意をしたことは、次の事情により明らかである。(略)
 原告の主張
(ア)  被告F及び訴外Uは、長年にわたる被告統一協会の信者による欺罔・強迫の恐怖を払拭できない原告に対し、亡夫や先祖の因縁等の話をしてその恐怖心を煽り、渡辺弁護士らを解任して被告両名と直接和解をしなければ、亡夫や先祖の霊によって原告自身や子供たちにいかなる不幸が及ぶか分からないものと誤信させた上、弁護士に依頼するとかえって経済的に不利益を被るなどの虚偽の事実を話し、その旨誤信させ、原告をして本件合意書1.、2.を作成させた。
(イ)  被告F及び訴外Uは、原告から弁護士に損害賠償の請求に関する交渉を委任したことを聞きながら、渡辺弁護士らの存在を無視し、直接原告に対して電話をしたり面談を求めるなどして接触を図り、渡辺弁護士らを介さないで直接接触を図ることが弁護士を依頼した原告の経済的、精神的利益を害し、ひいては弁護士の正当な業務を妨害するものであることを認識していた。
(ウ)  本件合意書1.、2.に基づく合意は、いずれも被告F及び訴外Uによる欺罔・強迫行為に基づくものであり、公序良俗に反し無効である。
(エ)  また、仮に本件合意書1.、2.に基づく合意が当然に無効とまではいえないとしても、本件合意書1.、2.に関する原告の意思表示は、いずれも被告F及び訴外Uによる上記強迫行為に基づいてなされたものであるところ、原告は、平成一八年二月二七日の本件口頭弁論期日において、上記意思表示を取り消す旨の意思表示をした。したがって、本件合意書1.、2.に基づく合意は、いずれも遡及的に無効である。
(オ)  なお、訴外Uが被告統一協会から原告との交渉を委託されたとの事実を裏付ける資料はなく、また、実際、被告統一協会は、本件合意書 1.の当事者として記載されていないことからすると、訴外Uが被告統一協会の代理人として原告と交渉していたとの事実を認めることはできない。
(2)  争点2(本件勧誘行為等の違法性の有無)  (略)
(3)  争点3(被告らの法的責任の有無)(略)
(4)  争点4(損害)(略)
第3  争点に対する判断
 争点1(訴え提起前の和解・不起訴の合意の有無)について
(1)  被告Fの関係
 前記の前提事実からすれば、原告と被告Fとは、本件合意書1.に基づき、本件通知書記載の事実につき原告が被告Fに対して民事訴訟を提起しない旨の合意(以下「不起訴の合意」)をしたことが認められる(以下「本件和解」)。
 これに対し、原告は、本件合意書1.は、被告F及び訴外Uが、渡辺弁護士らの存在を知りながらこれを排除し、原告に対し、亡夫や先祖の苦しみや因縁の話をしてその恐怖心を煽り、代理人を解任して被告両名と直接和解をしなければ、亡夫や先祖の霊によって原告や子供たちにいかなる不幸が及ぶか分からないものと誤信させた上、弁護士に依頼すると、かえって経済的に不利益を被るなどと虚偽の事実を話し、その旨誤信させて作成されたものであるから、公序良俗に反して無効であるか、少なくとも強迫に基づく意思表示として、原告が本件訴訟の口頭弁論期日にこれを取り消したことにより遡及的に無効になった旨主張している。
 しかしながら、本件合意書1.を作成した際に採取された録音テープ(乙第九号証の1及び2)によれば、本件合意書1.が終始和やかな雰囲気の下で作成されたものであることが認められ、他に、本件和解の成立に際して原告が被告Fらの発言に畏怖しているかのような事情をうかがわせるものはない。また、訴外Uの陳述書、原告の供述及び被告Fの供述などによれば、当初被告Fらが原告に対して提示した支払額は二五〇〇万円であったところ、原告が「もう少し多くもらえませんか。」などと言って増額を求め、その結果、支払額は二七〇〇万円となったことが認められる。さらに、本件合意書1.は、訴外ケイヨーネクストとの和解を別として、本件通知書により渡辺弁護士らから請求のあった四〇五六万二五〇〇円の 約七割弱の金額を被告Fが原告に支払うことを約するもので、その内容は一方的に原告に不利なものとはいえず、他に原告が本件合意書1.によって合意したことにつき不自然な点は見当たらない。
 以上によれば、原告のした本件和解が被告F及び訴外Uの欺罔・強迫に基づくものであるとか、公序良俗に反するものであるとまでいうことはできない。
 なお、被告F及び訴外Uが原告に対して渡辺弁護士らを外して直接和解するよう働きかけていること自体は、当事者間に争いはないところ、紛争の一方当事者が弁護士に当該紛争の解決を委任した後、反対当事者がそのことを知りながら直接相手方当事者と交渉して和解をすることなどは、決して望ましいことではない。しかしながら、法律等によって特に制限がない以上、弁護士に委任した後であっても、本人がその相手方と直接交渉すること自体は、弁護士と本人との間の信任関係上の問題はともかく、直ちに違法であるということはできない。しかも、その結果成立した合意の内容が社会通念に照らして著しく不利益であったり、不合理なものでない限り、公序良俗に反するものであるとはいえない。
 以上のとおり、原告と被告Fとの間では、不起訴の合意が有効に成立しているといえるか ら、原告は、被告Fに対する本件請求の内容につき、同被告がこの合意に従って履行を継続している限り、民事裁判によって権利を訴求する利益を有しないものといわざるを得ない。
 したがって、原告の被告Fに対する本件訴えは、訴訟要件を欠く不適法なものということになるから、却下を免れない。
(2)  被告統一協会との関係(略)
 争点2(本件勧誘行為等の違法性の有無)について
(1)  前記の前提事実に証拠並びに弁論の全趣旨を総合すれば、次の事実が認められる。
 被告統一協会の組織や教義等について
(ア)  世界基督教統一神霊協会は、「原理講論」を経典とし、大韓民国国籍の文鮮明を救世主メシアとする宗教団体であり、日本における被告統一協会は、昭和三九年に設立登記がなされた宗教法人である。なお、大韓民国の世界基督教統一神霊協会は、その名称を世界平和統一家庭連合へと変更している。
 被告統一協会には、本部の下に、複数の「リージョン」が設けられ、さらに、各リージョンには「教区」が存在する。そして、各教区は複数の「教域」に分けられている。そして、各教域内には、教会、信徒会、婦人部などと呼ばれる組織が存在し、本件直前の平成一五年一月当時は、東京都全体が一つのリージョンであり、その下に、八の教区があり、これが四四の教域に分けられていた。
(略)
 原告の最初の入信と脱会
(ア)  原告は、昭和六一年ころから平成二年ころまでの間、被告統一協会の信者であった訴外Iの勧誘を受けたことを契機として、小岩にある被告統一協会の信者が経営するビデオセンターに通うなどして、被告統一協会の教義を繰り返し勉強していた。
(イ)  原告は、この間、被告統一協会の信者らから、念珠、大理石壺、多宝塔、釈迦塔、羽毛布 団、印鑑、浄水器、高麗人参茶等を合計一五〇〇万円で購入していたが、平成二年ころ、家族の反対を受けたため、上記品物のうち返品できるものは返品して代金の返還を求めることを決意し、被告統一協会との交渉を開始した。その結果、原告と被告統一協会との間で、原告が所持していた領収書に基づいて上記品物の代金額を算定し、その全額を被告統一協会側が原告に対して分割で支払うとの話合いがまとまり、その後、約一年半の 間、原告は、被告統一協会の施設において毎月八〇万円を受け取り、代金全額の返済を受けていた。
 被告統一協会の葛西教域での活動
(ア)  本件で問題となっている葛西教域は、「葛西」という教域に含まれ、その中には、葛西教会と呼ばれる被告統一協会非公認の教会や葛西信徒会と呼ばれる組織が存在し、教会長であった訴外KTと婦人部長であった訴外Uとが葛西信徒会の中心であり、同教域の代表者になっていた。
(イ)  葛西信徒会の場合、信者からの献金は、まず、教区又は信徒会に支払われ、教区又は信徒会の担当者からリージョンを通して被告統一協会本部に渡され、献金者の氏名は信徒会から被告統一協会に報告される。東京都内を管轄するリージョンの事務局からは、少なくとも一週間に一、二回、各教域に被告統一協会に対する献金の達成率を示した表が送付される。
(ウ)  また、葛西信徒会では、信者がビデオセンターや被告統一協会に関連する商品を販売する商店を運営しており、葛西信徒会に所属する信者も実際にそれらの店に赴き、客と話をするなどして、その運営に協力している。被告統一協会に関連する主な商品としては、五輪塔や高麗人参濃縮液などが挙げられ、特に高麗人参濃縮液については、被告統一協会内で一般に「マナ」あるいは 「M」などと呼ばれている。なお、天運石は、大韓民国清平の世界平和統一家庭連合から日本の統一協会に渡され、公認教会又は信徒会からの各個人の信者に手渡される。
(エ)  被告Fは、この葛西信徒会に所属する被告統一協会の信者で、訴外Uの指示の下で被告統一協会の布教活動に従事していた。被告Fは、原告のように葛西信徒会の関連施設に通う被告統一協会の信者に対して、上記の教義に加えて、次のような、いわゆる殺傷因縁、色情因縁及び財の因縁に関する話をしていた。
 殺傷因縁とは、先祖が武士で、その先祖が過去に人をあやめたことから地獄で苦しんで助けを求めており、その結果、子孫にいろいろな災難を起こすものである。
 色情因縁とは、先祖が男女問題で間違いを起こしたため、異性の恨みを買って地獄で苦しみ助けを求めており、その結果、子孫にいろいろな災難を起こすものである。
 財の因縁とは、先祖が財を成すに当たり、たくさんの人の恨みを買って地獄で苦しみ助けを求めており、その結果、子孫にいろいろな災難を起こすものである。
 別紙記載の本件勧誘行為等について
(以下「勧誘行為等1、2」などと略記する。)
(ア)  勧誘行為等1及び2
 原告は、前記のとおり、被告統一協会との関係を一度は清算したものの、その後も、被告統一協会の信者が経営する訴外株式会社シャムレ(以下「訴外シャムレ」)から購入した浄水器を使用しており、年に一度は浄水器のカートリッジを交換するため信者が原告宅に出入りしていたが、カートリッジの交換時期が過ぎても担当者が交換に来なかったため、領収書に記載されていた電話番号に架電し、カートリッジ交換を依頼したところ、訴外シャムレから連絡を受けた訴外グレースの契約販売員であり葛西信徒会の会員でもあった訴外Hが原告宅を訪れた。原告は、訴外Hに対し、初めは挨拶をする程度であったが、何度か浄水器のカートリッジを交換するうちに世間話をするようになり、亡夫が死亡したことなど家族のことについても相談するようになった。
 平成一五年七月ころ、訴外Hは、原告から、長女が仕事が忙しいため辞めようか悩んでいて、原告自身もそのことを心配しているとの相談を受けたことから、原告に対し、「娘さん大変ですね。今若い人に人気のある風水で娘さんを占ってもらったらどうですか。風水で占ってくれる人がいるから一緒に行きましょう。」などと話をして、同月二四日には原告を誘って江戸川区中葛西三丁目三四番一一号所在のマンション「イーストアベニュー」九〇二号室の訴外グレースを訪れた。訴外Hは、原告に対し、その店長であった訴外KEを占いの先生として紹介した。
 原告は、訴外KEから家の間取りや家族構成等を聞かれたため、亡夫が平成一四年四月に亡くなったことや、長女が仕事を辞めようか悩んでいることなどを話した。これに対し、訴外KEは、「A家は娘さんが二人でお孫さんも女の子なので、女性の家系ですね。男性が立たない絶家の家系になっています。」「長女Yの部屋には水晶を置くと良いです。水晶を置けばYにとって良い効果があります。水晶を置く場所がないなら、五輪塔を仏壇に置いた方が効果が高いですよ。五輪塔には毎日お墓参りするのと同じ効果があります。真に先祖が喜び救われるためには、五輪塔を置くことが必要です。」などと言いながら、原告に対して五輪塔を見せ、小さい方が九〇万円で、大きい方が一二〇万円であるなどと説明した。訴外KEの説明を聞いた原告は、先祖の供養をすることで絶家を免れ、家族が幸せになれると思い、より効果の高そうな一二〇万円の五輪塔を購入することに決め、その日のうちに内金として一万円を支払った上、二日後の同月二六日には現金一二五万円を訴外グレースに持参して残代金を支払った。
(イ)  勧誘行為等3について
 平成一五年八月六日、原告は、訴外グレースを訪れた際、訴外Hから訴外Uを紹介された。原告は、訴外Uに対して、原告が以前被告統一協会の施設に通っていたこと、被告統一協会から大理石の壺などを購入したことなどを話し、訴外Uの対応から、訴外Uらが被告統一協会の信者であると考え、訴外Uに対して、「今でも壺を売ったりしているのですか。」と尋ねた。
 原告は、かつて被告統一協会の信者から、購入した大理石の壺を拭くと人の顔などが見えると聞き、購入した壺を懸命に拭いていたところ、祖父の顔が見えるような気がしてきたため、これをとても大事にしていたが、原告の家族が被告統一協会に関わることを反対するようになり、大理石の壺も返品したことを心残りに思っていた。訴外Uは、「前の壺はなくなりました。今は小さくなり、大理石の壺のことを天運石というんですよ。」、「先祖の因縁を払うには、天運石を家に置かなければなりません。家の外には悪い霊がたくさんいて、体に悪い霊が付いたまま家の中に入ると霊が家の中に入ってきてしまう。天運石は家の中の悪い霊を吸って家の中の空気をきれいにしてくれます。願い事をすれば病気も良くなりま す。Aさんの家には天運石が二個必要です。」などと言って、天運石を購入することを積極的に勧めた。その際、訴外Uが原告に対して「天運石は幾らだと思いますか。」と尋ね、原告が「一六〇万円ですか。」と答えると、訴外Uは、「どうしてそう思ったんですか。よく分かりましたね。」などと述べた。
 その後、原告が訴外グレースを訪れた際、訴外Uは、「韓国に天運石を取りに行く人がいるので、Aさんの分として二個頼んでおきましたからね。」と言った。原告は、天運石の購入を正式に頼んだつもりはなかったが、これを断ることができず、「はい。」と述べた。
 同年八月二七日、原告は、訴外Hから五輪塔ができたとの連絡を受け、訴外グレースを訪れた際、銀行の預金を下ろし、さらに保険を解約して、上記天運石二個の購入代金として現金三二〇万円を持参し、訴外Uに対してこれを支払った。
 なお、訴外Uは、原告の支払った上記三二〇万円は、あくまでも献金であり、天運石は献金の結果与えられるもので売買の対象ではないと述べているが、平成一七年一月一二日に採取された録音テープ(乙イ第一四号証の一、二)によれば、前記のとおり、訴外Uが原告に対して「幾らだと思いますか。」と尋ねたことを訴外U自身が認めていることは明らかであるから、天運石は、予め一定金額を被告統一協会に対して支払うことの対価として与えられるものである、ということができる。
 その後、原告は、天運石二個を受け取り、これを娘たちに見つからないように、部屋の押入に入れて保管した。
(ウ)  勧誘行為等4について
 同じころ、訴外Uは、原告に対し、「以前ビデオセンターで勉強されていたので、今回もビデオセンターで勉強した方がいいですよ。」などと述べた上、「入会金は五万円ですが、あなたは以前通っていたことがあるから、三万円でいいです よ。」と述べて、江戸川区中葛西五丁目四一番一五号所在のマンション「シャトーモーリス」五〇二号室において葛西の信徒会の信者が運営するビデオセンターである訴外ニューホープ(以下「訴外ニューホープ」)に入会することを勧めた。
 原告は、訴外ニューホープに通い、被告統一協会の教義を勉強することで、家族に不幸が降りかかることを免れることができるものと信じ、平成一五年九月六日、訴外Uの指示に従い、訴外ニューホープへの入会金三万円を持参し、まず、訴外グレースを訪れ、訴外U又は訴外Hに付き添われて訴外グレースから訴外ニューホープまで歩いていき、そこで、入会金三万円を支払った。 その際、原告は、担当者として被告Fを紹介された。
 また、このころから、原告は、献金を供えるときや、集会があるときに、江戸川区中葛西三丁目三五番一二号所在のマンション三階にある訴外葛西フォーラムにも通うようにもなり、週に二回程度、訴外ニューホープや訴外葛西フォーラムに通い、被告統一協会の教義を勉強するようになった。
(エ)  勧誘行為等5及び6について
 平成一五年一〇月一四日、訴外Uは、原告の自宅を訪ね、原告に対して、「文先生が世界平和を実現するための、超宗教活動に関するビデオがあるので、これを見てください。」と言って、文鮮明の統一運動に関するビデオを見せた上で、「葛西の信徒会で統一運動を実現するために立てていた目標に対して三〇〇万円足りていない。」「何とか工面してもらえないか。」「あなたしか頼める人がいない。」などと述べ、三〇〇万円の献金をするよう求めた。原告は、これを引き受 け、同日、東京ベイ信用金庫から三〇〇万円を下ろしてこれを献金した。
 平成一五年一〇月一八日、原告は、被告Fや訴外Uに勧められ、江戸川区東葛西五丁目一三番一号所在のマンション「マインコーポ葛西」の一室において、大韓民国の世界平和統一家庭連合の会員である訴外K・C(以下「訴外K」)の鑑定を受けた。その際、訴外Kは、原告の家系図や生年月日などを見ながら、原告と原告の長女の鑑定を行い、白紙に「事故、重病、破産」「怨霊」「殺生」「病弱、短命」「中心人物」「先祖同 行」「三六〇人以上」「運転手命」「絶対信仰」「代身蕩減」「先祖苦待」「先祖供養」「絶家不安」「天運石。条件。聖本」「天運石信仰」「天地父母→先祖供養→父母孝道→本人祝福」などの文字を書き出し、「あなたは氏族から選ばれた人間です。車で言えば運転手です。先祖はあなたに真っ直ぐな道を逸れないで進むように求めています。三六〇人以上の先祖が、今暗い地獄で苦しんでいて、あなたに助けを求めているのです。先祖を助けてあげられるのは氏族の先駆けとなったあなたしかいません。あなたが先祖を解放してあげなければ、この先永遠に先祖は暗い地獄で苦しみ続け、あなたの孫たちも幸せにはなりません。孫たちにどんな災難が降りかかるか分かりません。A家には絶家の不安があります。」「あなたは先祖を解放するために真理の言葉が語られた聖本をA家に入れなければなりません。聖本を授かることが条件です。」などと説明した。そして、 上記各文字の一部に赤色のマジックで下線や囲み線を引き、毎日ノートに書き写すよう指示をした。
 なお、訴外Uは、訴外Kは被告統一協会と無関係に四柱推命の鑑定をしたにすぎず、「聖本があったらいい」旨発言したものの、上記のような発言はしていない旨証言するが、訴外Kが「蕩減」「天運石」「聖本」「天地父母→先祖供養→父母孝道→本人祝福」などの被告統一協会の教義と密接に関連する文字を書き出していること及び訴外Kが被告統一協会の聖本を勧めていることからすれば、訴外Kは被告統一協会に関係しているといわざるを得ないし、訴外Kが書き出した前記各文字が原告の主張する訴外Kの発言と符合することからすると、訴外Uの上記証言を採用することはできない。
 原告は、一時間程度訴外Kの話を聞き、帰りに訴外Uに対して、「聖本とはなんですか。幾ら位するものなのですか。」と尋ねた。これに対し、訴外Uは、「三〇〇〇万円するものなの よ。」と答えた。そして、数日後、原告が訴外ニューホープを訪れた際、被告Fと訴外Uは、原告に対し、「もう一度、神様の前に条件を立てて出発をされたらいい。」「世界平和のために統一運動に是非貢献していただきたい。」「聖本は、文先生の直筆のサインのものというものが本当にたくさんあるものではありませんので、とても価値あるものですよ。」などと述べ、聖本購入を勧めた。
 なお、訴外Uは、聖本は、被告統一協会に感謝献金をして貢献した者に対して授けられるもの で、三〇〇〇万円はその目安にすぎない旨証言している。しかしながら、証拠(乙イ第一四号証の一、二)によれば、訴外Uが聖本について「聖本って幾らかな」「本一冊三〇〇〇万円」などと表現していることが認められ、聖本と三〇〇〇万円が対価関係にあることは明らかである。そして、本件においては、上記認定のとおり、訴外Uは、原告に対し、聖本を授かるために三〇〇〇万円支払うことを積極的に勧めているということができる。
d  もっとも、原告は、当時三〇〇〇万円もの大金を持っていなかったため、訴外Uにその旨相談したところ、訴外Uは、「それでしたら、定期預金や保険を解約してそれを利用したらどうですか。」などと述べた。そこで、原告は、証書を持参して、訴外U及び被告Fと一緒に、どの預金等を解約すればいいか検討し、(略)合計二七〇〇万円用意し、葛西フォーラムに持参した。
e  しかし、原告は、それ以上のお金を工面することができなかったため、その旨を訴外Uに相談したところ、訴外Uは、「この前の献金の三〇〇万円も入れておくから。」と述べ、平成一五年一〇月一四日にした三〇〇万円の献金も聖本代金に充当されることとなった。
(オ)  勧誘行為等7について
 平成一六年二月ころ、原告から二女夫婦の夫婦仲が良くないことなどを相談されていた被告F は、原告に対して、「韓国から鑑定士が来ているので、二女夫婦について鑑定してもらったらどうか。」と述べ、訴外Kの鑑定を受けることを勧めた。そこで、原告は、葛西フォーラムを訪れ、訴外Kの鑑定を受けた。その際、訴外Kは、原告に対し、「娘さんはいいですけど、旦那さんの方は目がキリッとしているので前世は武士ですね。」「このままだと離婚する恐れがあります。」「最低でも天運石を授かりなさい。」「授かったとしても離婚はするでしょう。」と述べた。一時間程度の鑑定を受けた直後、訴外Uが現れ、原告に対し、「何と聞かれましたか。」と尋ねてきたため、原告が訴外Kから二女夫婦が離婚するかもしれないこと、天運石を授かった方がいいことを聞いた旨説明したところ、訴外Uは「じゃあ、聞いてきますからね。」と言い、訴外Kの所へ行き、帰ってくると、「天運石を授かった方がいいって言ってましたよ。」などと述べ、天運石を購入することを勧めた。
 原告は、お金がなかったため、天運石を購入するか迷ったものの、孫もおり、二女夫婦が離婚したら困るので、二女夫婦が円満な家庭を築くことを願い、天運石を購入することに決めた。そこで、原告は、郵便局で、一六〇万円を引き出し、その日のうちに葛西フォーラムに行き、訴外Uに支払った。
(カ)  勧誘行為等8について
 平成一六年二月二七日、原告は、被告Fから、「お金がどうしても足りないので、一〇〇万円貸して下さい。こちらの財政が大変なのです。ビデオセンターにAさんが来たときに毎月五万円ずつ返しますから。」と頼まれたため、同日、被告Fに対し、一〇〇万円を交付した。
 その後、被告Fは、原告に対し、同年六月三日と同年七月二六日にそれぞれ五万円ずつ弁済し た。
 そして、同年八月一八日、被告Fは、原告が聖酒式を受けた際に、感謝献金として現金で八五万円を献金することを求めた。これに対し、原告が、お金がないので献金できない旨述べると、被告Fは、訴外Uに連絡をとった上で、「借りているお金の残金のうち八五万円を献金にするのでもいいとUが言っています。」と述べ、原告の上記貸金のうち八五万円を献金に充当するよう求めた。そこで、原告は、先祖のためにと思い、一〇〇万円の前記貸付金の残金のうち八五万円を献金に充てることを了承した。
 同年九月一日、被告Fは、原告に対し、五万円を返済し、前記借入れを完済した。
(キ)  勧誘行為等9及び10について
 原告は、被告統一協会が平成一六年四月ころ開催する先祖及び親族祈願礼式に参加するため、 被告統一協会に対し、同月九日に祈願料一〇万円を、同月一五日に入場料一万円を支払った。
(ク)  勧誘行為等11について
 平成一六年五月中旬、原告は、被告Fの誘いで、小岩で訴外シャムレが主宰し、訴外グレースが共催する健康フェアーに行った。その際、原告が被告Fの勧めで血液検査を受けたところ、担 当者から、「血が薄い。」「あなたには気がない。」などと言われた。そして、同月二一日、 原告は、再び被告Fとともに同フェアーに行った際、被告Fから、「気がないのだったら、人参茶を飲んだらいい。」と言われたため、一和高麗人参濃縮茶を購入することに決めた。そこで、原告は、販売員に体重を伝えたところ、一ダース(一二箱)買うことを勧められたため、一ダースを購入した。そして、郵便局の簡易保険の契約者貸付で九〇万円を借り入れた上で、上記高麗人参濃縮茶の代金九九万八〇〇〇円(8万円×12箱)×消費税5%−申込証拠金1万円)を訴外グレースの代表者であった訴外I名義の口座に振込み、支払った。その後、原告は、二箱分の高麗人参濃縮茶を飲んだ。
(ケ)  勧誘行為等12及び13について
 原告は、被告統一協会が平成一六年五月ころに開催する天運到来天運相続特別祈願祭に参加するため、被告統一協会に対し、同月二二日に祈願料一五万円を、同月二五日に入場料一万円を支払った。
(コ)  勧誘行為等14について
 平成一六年七月八日、原告は、被告Fから、「今こちらの財政が大変なので、二〇〇万円貸してほしい。必ず毎月五万円ずつ返します。」と頼まれたが、「もう貸せるお金がありません。」と答えたところ、さらに「一〇〇万円でもいいから何とか貸して。」などと頼み込んできたため、仕方なく、郵便局の簡易保険の契約者貸付で一〇〇万円を借り入れ、これを被告Fに交付した。
 同年一〇月一日、被告Fは、原告に対し、上記借入金のうち五万円を返済した。もっとも、その後、原告は、渡辺弁護士らに対し、被告両名に対する損害賠償請求を依頼したため、被告Fから原告に連絡をとることが困難となり、しばらくの間返済できない状況になった。
(サ)  勧誘行為等15について
 平成一六年六月ころ、原告は、被告Fから、「冬ソナの舞台となった場所を見る韓国ツアー (冬ソナツアー)に一緒に参加しましょう。」と誘われた。このころ、大韓民国のテレビドラマ 「冬のソナタ」が流行っていたため、原告も冬ソナツアーの話に興味を持った。数日後、被告Fと訴外Uは、原告に対し、「先祖は皆、良いこと、悪いことをして死んでいるので霊界でも苦しんでおり、救ってあげなければいけないのです。」 「韓国の清平で先祖解怨を行わなければなりません。」「冬ソナツアーに行き、一緒に先祖解怨も受けると良いですよ。」と言い、また、先祖解怨では、亡夫の父方と母方、原告の父方と母方の四家系の先祖を救わなければならず、一家系あたり七〇万円、合計二八〇万円の献金が必要である旨説明した。
 そこで、原告は、先祖を救うために、郵便局の簡易保険の契約者貸付で六〇万円借り入れるなどして二八〇万円を捻出した上、同年七月一〇日ないし一二日、修練苑に行き、大韓民国の世界平和統一家庭連合に対して、先祖解怨献金として上記金員を献金した。
 なお、被告統一協会は、被告Fが、「先祖の因縁」などと述べてはおらず、原告は冬のソナタに興味があったため、自主的に参加したものである旨主張するが、原告が全く意味も分からずに二八〇万円もの献金をしたとは到底考えることができず、献金に際して、上記の誘因行為が存在したものと考えるのが相当である。
(シ)  勧誘行為等16について
 平成一六年八月ころ、原告は、被告Fや訴外Uから、「お墓参りで真に先祖を救うことはできないのですよ。先祖を救って解放するためには祈願書を書かなければならないのですよ。」「祈願書は一枚につき一万円で、祈り、願いながら、『解放されますように』と書くのです。」などと言われ、先祖を解放しなければならないと思うに至り、二万円を支払って、祈願書二枚を書いた。
(ス)  勧誘行為等17について
 平成一六年九月ころ、原告は、被告Fと訴外Uに「先祖を救うため」などと言われて献金を勧められたため、現金一〇万円を用意し、葛西フォーラムにおいて献金した。
(セ)  勧誘行為等18について
 原告は、被告Fに勧められ、既に世界平和女性連合の会員となっていた訴外KY及び訴外Uを紹介者として、平成一六年八月一三日付入会申込書により同連合に入会した。その結果、原告の口座から同年九月分と一〇月分の会費合計六四〇〇円が引き落とされた。
(ソ)  勧誘行為等19及び22について
 原告は、被告統一協会が平成一六年一〇月ころに開催する天運到来先祖解放祈願祭に参加するため、被告統一協会に対し、同月一日に祈願料一七万円、同月七日に入場料一万円を支払った。
(タ)  勧誘行為等20及び21について
 平成一六年一〇月ころ、原告は、被告Fから、大韓民国の清平において、同月九日から一一日にかけて、霊肉祝福マッチング修練会が行われることを聞いた。原告は、それまでに、亡夫の霊を救うためには、霊肉祝福を受ける必要があること、霊肉祝福のためには、まず、修練苑において行われる霊肉祝福マッチング修練会に参加し、次に、同所で行われる祝福式に参加し、最後に同所に霊を迎えに行くという三段階の行程が必要であることを聞いていたため、亡夫の霊を救うために、霊肉祝福に参加するしかないと考えていた。ところが、同月一〇日に親戚の法事があり、清平には行くことができなかったため、原告は、仕方なく、被告Fに対し、原告の代わりに清平へ行って献金をすることを頼み、同被告に対し、献金用の一二万円と清平までの渡航費四万五〇〇〇円を交付した。
(チ)  勧誘行為等23について
 原告は、上記のとおり、亡夫の霊肉祝福が必要であると考えていたものの、本件通知により、被告統一協会に通うことが困難となり、修練会に参加することが困難となったため、平成一六年一二月二八日、訴外ニューホープにおいて、訴外Uや被告Fと本件通知書に関して話し合っていた際、霊肉祝福の行程がストップしてしまうことが気掛かりである旨話したところ、訴外Uが「やっぱり代理でまたね、もし行ってほしいと言われれば私も行きますし、でももういいとね、もうこれでいいって言われれば、そのままになるし、だからどちらを希望するかはAさん次第なんですね。」と言ったため、「行ってほしいですね。」「私、行かれないからね。」「助けてあげたい、助けてあげたいというか霊界ね。」などと言い、原告の代わりに清平に行って、霊肉祝福の修練会に参加してほしい旨頼んだ。そして、平成一七年一月二〇日ころ、原告は、渡航費用や式服代などの諸経費として、訴外Uに対し、九万五〇〇〇円を交付した。
(ツ)  勧誘行為等24について
 平成一七年五月一六日ころ、原告は、被告Fらと和解に向けて交渉している中で、訴外Uから、「弁護士に和解したことをきちんと話せるように祈願書を書いた方がいいですよ。」「代金は後でいいから。」などと言われたため、その旨祈願書に書き、同年六月六日ころ、被告F及び訴外Uに祈願書料として一万六〇〇〇円を支払った。
(テ)  勧誘行為等25について
 平成一七年五月下旬ころ、原告は、訴外Uと被告Fから、同月二七日から一九日まで二泊三日、霊肉祝福のための修練会があることを聞いた。原告は、当時、被告統一協会の教義に疑問を感じていたが、被告Fから「霊肉祝福の最後の修練会です。どうしますか。Aさんが行けない場合は、誰か代理で行ってほしければ行くけど。」などと言われたため、被告Fに対し、原告の代わりに修練会に行くことを依頼した。そして、同年六月六日、原告は、被告Fに対し、渡航費として、七万円を交付した。
(2)  以上の認定事実を前提として、本件勧誘行為等の違法性の有無について検討する。
 まず、特定の宗教を信じる者が、その宗教の教義を広め、その宗教活動を維持するため、信者等に対して、その集会に参加するよう勧誘したり、任意に寄付や献金をするよう求めたり、宗教活動の一環として一定の物品等を販売したりすることも、その方法、態様及び金額等が社会的に相当な範囲内のものにとどまる限りは、社会通念上、違法なものではないというべきである。しかしながら、上記のような行為が、その行為者をいたずらに不安に陥れたり、畏怖させたりした上で、そのような心理状態につけ込んで行われ、社会一般的にその行為者の自由な意思に基づくものとはいえないような態様で行われたものである場合や、行為者の社会的地位や資産状況等に照らして不相当な多額の金員を支出させるなど、社会的に考えて一般的に相当と認められる範囲を著しく逸脱するものである場合などには、そのような勧誘行為や物品販売行為等は、反社会的なものと評価され、公序良俗に反するものとして、違法なものになるといわざるを得ない。しかも、そのような勧誘行為等の違法性の有無は、本来一つ一つの各勧誘行為等ごとに判断されるべきものであることは当然であるが、本件においては、前記認定のとおり、原告は、本件問題が発生する以前から被告統一協会に対する信仰心を有しており、被告統一協会の信者等によってなされた教義の説明や相談等によって発生し増幅した不安や畏怖が継続している状態にあったものと認められるから、そのような特殊な前提がある本件については、原告に対してなされた本件勧誘行為等の違法性の有無についての判断は、個々の勧誘行為等ごとに判断するよりむしろ、一連の経緯をふまえて一体のものとして判断するのが相当である。
 もっとも、本件においては、原告が本件以前にも被告統一協会から大理石の壺などを購入して信仰の拠り所としていた時期があることは、当事者間に争いがないところであって、原告は、家族の反対によって、いったんは被告統一協会との関係を断ち切ろうとしたものの、その個人的な不安が解消されないまま悩み続け、結局は被告統一協会の関係者に悩みを相談することによって一時的に精神的な安定を得ていたという一連の経緯があることも事実である。そして、原告に生じているこのような現実を直視するならば、原告の周囲の者が原告の財産保護の側面を重視し過ぎて、原告の被告統一協会に対する信仰心を嫌悪し、その一切の関係を否定しようとすることは、かえって原告の宗教の自由に対する不当な干渉となる可能性もないわけではない。その許容範囲との調和をどのように考えるべきかは困難な問題であるが、原告の信仰の自由が不当に侵害されることがないように諸般の事情を考慮する必要があるのであって、社会通念に照らし一般的に相当と考えられている他の宗教団体等における宗教活動等の際にも伴うことのある範囲内の支出等についてまで公序良俗や社会規範に反するものとして否定するのは相当ではないと考えられるから、本件において原告が被告統一協会に対して支出する原因となった本件勧誘行為等のうち、他の宗教団体等における宗教活動等の際にも一般的に伴うことのある範囲内の支出等を勧誘したものについては、特に社会正義に反するような特段の事情がない限り、違法性はないというべきである。
 そこで、このような前提の下に本件で問題となっている各勧誘行為等の違法性の有無について判断すると、本件の一連の経過や各勧誘行為の個別具体的な態様等は前記認定のとおりであって、本件では、被告Fのほか、訴外H、訴外KE、訴外K、訴外Uなどの被告統一協会の関係者が、原告に対し、入れ替わり立ち替わり、先祖の因縁とその因縁に苦しんでいる先祖の霊を助けることの必要性を説き、そのためには五輪塔(一二六万円)や天運石(二個で三二〇万円)や聖本 (三〇〇〇万円)や高麗人参茶(九九万八〇〇〇円)などを購入することや多額の献金をすることが必要であると信じ込ませ、高額なこれらの物品を購入させただけではなく、確定しているだけでも三七五万円に上る多額の献金等をさせたものであるところ、本件の原告は、そもそも夫の残した遺産以外にめぼしい財産もない状態の未亡人で、特に裕福というわけではなく、つつましく暮らしていたことは、被告Fや訴外Uなどの被告統一協会の関係者も十分に承知していたのであるから、そのような原告に対して、仮に、その先祖の霊を助けるためとはいえ、その財産全部をむしり取るような形で高額の物品等を購入させたり、献金を求めたりすることは、社会的に相当な範囲内の行為であるということはできない。
 以上の認定、説示に照らし考えると、本件各勧誘行為等のうち、原告に対して、番号1及び2(五輪塔)、同3(天運石)、同5及び6(聖本)、同7(天運石)の購入を勧めた行為は、社会的にも一般的相当性の範囲を超えるものとし て、違法というべきものであることは明らかである。また、本件における献金の勧誘行為のうち、番号8(八五万円)、同15(二八〇万円)については、同じく社会的にも一般的相当性の範囲を超えるものとして、違法というべきものである。また、番号14(九五万円の貸付金残金)については、原告の葛西信徒会又は被告統一協会に対する貸付金とされており、純粋の貸付金であれば、不法行為の問題は生じないはずである。しかしながら、この平成一六年七月の金銭消費貸借と同様のことは、番号8として、その五か月前の平成一六年二月二七日にも生じており、原告は被告Fの依頼を断り切れずに一〇〇万円を貸し付けたところ、五万円ずつ一五万円が返済された同年一〇月の段階で、残債権分について献金の形で請求を放棄させられてしまったのである。このような一連の経過にかんがみると、被告Fや葛西教域の幹部らは、番号14の貸付金残金についても、原告に対して何回か五万円ずつ返済した後、残債権分につき原告からの献金の形で請求を放棄させるつもりであったろうと推認することができる。したがって、この番号14の九五万円についても不法行為に基づく損害額に算入するのが相当である。
 また、番号11(高麗人参濃縮茶九九万八〇〇〇円)については、既にこの時点で被告統一協会から三六〇〇万円を超える多額の物品を購入済みで財産も少なくなっている原告に対して、このような不要不急の高額商品の購入を勧めることは、社会的に相当な行為ではないというべきではあるが、原告本人の供述によれば、原告は、この高麗人参濃縮茶一ダースのうち二箱分は飲んで消費したというのであるから、その分については、損害額から控除するのが相当である。すなわち、一二箱で差引九九万八〇〇〇円であるところ、二箱分の価額は消費税込みで一六万八〇〇〇円であるから、これを控除すると、残りは八三万円である。したがって、この八三万円を不法行為に基づく損害額に算入するのが相当である。
 また、番号21(大韓民国渡航費四万五〇〇〇円)、同23(同九万五〇〇〇円)、同25(同七万円)については、原告本人が直接渡航するために費消されたのであれば、一般の宗教活動等の際にも通常伴うことのある範囲内の支出として違法性はないというべきものではある。しかしながら、本件では、原告に代わって被告Fや訴外Uが大韓民国へ渡航して祝福を受けたり霊を迎えに行くための費用として原告に負担させたというのであって、被告Fや訴外Uらは、原告が依頼したと弁解しているものの、同人ら自身が被告統一協会の信者であり、大韓民国清平などに行くことは自分自身のためになることであるから、原告の代わりに行くというのは口実にすぎないというべきである(好意でするならその費用負担を原告に求めることは筋違いであろう。)。したがって、これらの渡航費用合計二一万円は本来原告が負担すべきものではなく、詐欺的なものというほかはないから不法行為に基づく損害額に算入するのが相当である。
 これらに対して、番号4(ニューホープ入会金三万円)、同9(先祖及び親族祈願料一〇万円)、同10(同祈願礼式入場料一万円)、同12 (天運到来天運相続特別祈願料一五万円)、同13(同祈願祭入場料一万円)、同16(祈願書料二万円)、同17(先祖解怨献金一〇万円)、同18(世界平和女性連合会費六四〇〇円)、同19(天運到来先祖解放祈願料一七万円)、同20(先祖解怨献金一二万円)、同22(天運到来先祖解放祈願祭入場料一万円)、同24(祈願書料一万六〇〇〇円)については、他の宗教団体等における宗教活動等の際にも一般的に伴うことのある範囲内の支出というべきであり、社会的に相当な範囲内にあるものと考えられるから、これらの支出を勧誘したことに違法性はないというべきである。
 争点3(被告統一協会の法的責任の有無)に ついて
 以上に認定、説示したところによれば、本件において違法性が認められる各勧誘行為等は、いずれも被告Fや訴外Uなどを中心とする被告統一協会の信者によって組織的になされたものであるところ、被告統一協会は、定期的に信者の日常的な活動等について報告を受け、その活動状況等を把握していたばかりではなく、いわゆる教会や信徒会や婦人部などの組織を通じて、その献金目標額の達成等を含め、協会に関する信者の活動等について影響を及ぼすことができる立場にあったものと認めることができる。そのような実態を総合的に勘案するならば、本件で問題となっているような各信者による物品販売行為や献金勧誘行為等 は、被告統一協会の資金集めとしての側面が大きく、直接、間接にかかわらず、被告統一協会の指示、指導の下に行われていたものであることは明らかといわなければならない。このような行為実態に照らすならば、被告統一協会は、信者による協会関連の物品の販売や献金の勧誘について、社会的に相当な範囲を超えることがないように十分に指導し、仮にも信者によって違法な行為がなされないよう指揮、監督することが必要であったということができる。
 そして、本件勧誘行為等のうち違法とされた番号1ないし3、5ないし8、11(ただし、二箱分一六万八〇〇〇円を除く)、14、15、21、23、25に基づく原告の支出は、その外観上、いずれも被告統一協会の宗教的活動の一環としてなされたものと認めることができるから、被告統一協会の事業の執行につきなされたものと解するのが相当である。したがって、被告統一協会は、原告との関係で違法と判断された前記の各勧誘行為等につき、使用者としての不法行為責任を負うべきものといわなければならない。
 争点4(損害)
(1)  財産上の損害
 前記認定、説示のところによれば、被告Fらの本件不法行為に基づき原告が違法に支払わされた金員の合計額は四一七〇万円となるところ、本件和解に基づいて平成一七年五月一八日から平成一九年一〇月三一日までの間に被告Fが原告に対して支払った金額は合計一八〇〇万円であることが認められる。したがって、本件各不法行為に基づいて原告が被った財産上の損害は、合計二三七〇万円となる。
(2)  慰謝料
 前記認定、説示のとおり、被告Fらの本件勧誘行為等は、もともと原告が抱えていた不安やおそれなどにつけ込んでなされたもので、原告に対して一定の精神的苦痛を与えたであろうことは容易に推認することができる。しかしながら、その反面において、原告は、本件以前にも被告統一協会の教えにのめり込み、多額の支出をして家族の反対を受け、いったんは被告統一協会との関係を清算しているにもかかわらず、被告統一協会に対する信仰の気持ちを捨て切れず、自ら再び被告統一協会と関わりを持つようになり、被告統一協会の関連施設に赴くなどして関係を深めていったのであって、そのような本件における一連の経緯をも含めて総合的に勘案するならば、本件においては、被告Fや訴外Uらの違法な勧誘行為等によって原告が支出させられた金員全額について被告統一協会に返還を命じれば、原告自身に対しては十分な救済になっているものと考えられるから、財産的な損害の回復に加えて精神的な苦痛に対する慰謝料の支払を命じる必要はないというべきである。
(3)  弁護士費用
 本件事案の性質のほか、審理の経過及び認容額など諸般の事情を斟酌するならば、本件訴訟の提起に伴う弁護士費用の額としては、前記認定の損害賠償額である二三七〇万円の約一割である二四〇万円をもって相当とすべきである。
(4)  認容合計額
 上記のとおり、本件において原告に認められるべき損害賠償の額は、合計二六一〇万円である。
 結論
 以上の次第で、原告の被告Fに対する本件訴えは不適法なものであるから却下し、原告の被告統一協会に対する請求は、損害賠償金二六一〇万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成一七年一二月一〇日から支払済みまでの遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから、その限度で認容するが、その余の請求は理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法六四条本文及び六一条を、仮執行の宣言につき同法二五九条一項を、それぞれ適用して、主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第二三部
裁判長裁判官   須 藤 典 明
裁判官    橋 伸 幸
裁判官   古 賀 大 督