◆脱会救出を巡る裁判の判決例
(東京
高裁 平成16年8月31日判決)
横浜裁判:地裁高裁最高裁

平成16年8月31日判決言渡
平成16年(ネ)第1534号損害賠償請求控訴事件
(原審・横浜地方裁判所平成11年(ワ)第14号)
口頭弁論終結日 平成16年6月29日

判 決

K県
控訴人
同所
控訴人
上記2名訴訟代理人弁護士  今井 三義
稲見 友之
福本 修也
Y県
被控訴人
同所
被控訴人
同所
被控訴人
Y県
被控訴人
同所
被控訴人
K県
被控訴人
上記6名訴訟代理人弁護士 平岩 敬一
小野 毅
鈴木 健
横浜市戸塚区
被控訴人 K・S
名古屋市名東区
被控訴人 S・Y
上記2名訴訟代理人弁護士 山口 広
紀藤 正樹
渡邉 博

主    文

1 本件控訴をいずれも棄却する。
2 控訴費用は、控訴人らの負担とする。

事実及び理由

第1 控訴の趣旨(略)

第2 事案の概要等

 本件は、世界基督教統一神霊協会の信者であ る控訴人Xが、同控訴人の両親である被控訴人A及び同B、妹である同C、叔父である同D、その妻である同E並びに同Aの友人であるFが共謀して、日本基督教団の伝道師、牧師である被控訴人KS及び同SYの指 示、指導の下、同控訴人の意思に反して、違法に、同控訴人を拉致してマンション等の居室内に監禁して同協会からの脱会を強要し、被控訴人KS及び同SYがこれらを指示、 指導し、同SYが、同控訴人の意思に反して、違法に、同控訴人と面談して同協会からの脱会を強要したと主張して、被控訴人らに対し、信教の自由、婚姻の自由等の権利に基づき、暴行、脅迫、拉致、監禁及び暴行、脅迫、拉致、監禁、面談、電話等の方法を用いて同控訴人が信仰する宗教の棄教の強要の差止めを求めるとともに、共同不法行為による損害賠償請求権に基づき損害賠償金1319万5816円及びこれに対する不法行為の後である平成11年1月15日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の連帯支払を求め、世界基督教統一神霊協会の信者で、同控訴人の夫である控訴人Yが、控訴人Xに対する被控訴人らの上記行為により、固有の損害を被るとともに、同控訴人が、控訴人Xの拉致を防ごうとした際に、被控訴人らに暴行を受け、傷害を負ったと主張し て、共同不法行為による損害賠償請求権に基づき損害賠償金579万8450円及びこれに対する控訴人Xと同様の遅延損害金の連帯支払を求めた事案である。
 原審は、被控訴人らの暴行、脅迫、拉致、監禁等の不法行為をいずれも認めず、控訴人らの請求を棄却した。
 本件事案の概要は、以下のとおり付加、訂正するほかは、原判決の「事実及び理由」中の「第2 事案の概要等」欄の1ないし3に記載のとおりであるから、これを引用する。
(中 略)

第3 当裁判所の判断
1 前提事実及び証拠及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。
 (1) 平成7年10月ころまでの状況
 ア Xは、平成7年5月23日付けの手紙(丙67)で、被控訴人A,Bに対し、統一協会に勉強に行っていることを打ち明けたが、同被控訴人夫妻は、Xが世間で犯罪者集団と言われ、合同結婚式や霊感商法等が批判されている統一協会に興味を持っていることに戸惑うとともに、これに反対し、同控訴人と何度か話合いをしたが、お互いに相手の立場を理解できずに双方の主張は平行線をたどった。
 Xは、同年8月に大韓民国で行われる国際合同結婚式への参加を希望し、同結婚式に参加するために同年6月下旬に統一協会に入会する手続をとった。
 イ A,Bは、Xとの間で、統一協会に対する信仰に関して十分な話合いができない状況に苦悩の日々を送っていたが、同年6月初旬ころ、書籍で知った日本基督教団から教会の被控訴人Kを紹介され、同月27日、同教会に赴き、Xの統一協会への信仰について相談した。
 A,Bは、Kから、Xが統一協会の信仰を持った経緯を理解するために体験者の話を聞くことを勧められ、教会に通って、統一協会の元信者やその家族から、同協会入信の経 緯、同協会入信後の生活状況、統一協会から子供を取り戻した話等を聞く機会を持った。
 ウ A,Bは、同年7月30日、Xの誘いにより、統一協会主催の講演会に参加した 際、その会場でCに会い、同人も統一協会の信仰を持っていることを知ってがく然とし た。
 エ Xは、A,Bに対し、同年8月ころ、国際合同結婚式に参加することを告げ、同月20日ころには、国際合同結婚式における主体者(配偶者)がYであることを伝えた。同被控訴人夫妻は、Xが合同結婚式に参加することに、表立って反対はしなかったが、Xをだましてマスコミでも批判されている国際合同結婚式に参加させようとしている統一協会に腹を立てるとともに、このことをうれしそうに語るXを哀れに思い、このような状態にあるXを統一協会から救い出したいとの思いを強くした。
 オ X,Yらは、同月25日、大韓民国ソウル市で開催された国際合同結婚式に参加 し、同月27日、帰国したが、統一協会の教義に従い、Xは、Yとすぐには同居することなく、A,B宅で生活を続けた。Xは、国際合同結婚式参加後、帰宅時間が遅くなり、外泊をすることもあり、A,Bは、Xから統一協会への信仰を持つに至った経緯について話合いをしたいと望んでいたが、これが果たせずにいた。
 カ A,Bは、同年9月ころから、統一協会主催の講演会に、Xと参加する一方で、教会で毎週水曜日に開催されていた聖書研究会及びその後に催される統一協会の元信者らの集まりに参加し、同人らの話を聞くうちに、Xを統一協会から救い出すためには、周囲から遮断された環境の下で、Xと、統一協会の教義や活動についてじっくり話合いを行う必要があると考えるようになった。
 A,Bは、Kから、日本基督教団の統一原理問題全国連絡会で面識のある被控訴人Sを紹介され、同年10月15日ころ、Aは、教会にSを訪ねたが、同人から紹介された人物から、10階居室を、Xとの話合いのための場所として借り受けた。
 (2) 平成7年10月23日から同月27日までの状況
 ア A,Bは、平成7年10月23日の深夜、Xが帰宅した際に、Xに対し、場所を変えてゆっくり統一協会の信仰について話をしたいと申し向けると、Xは大声を上げて抵抗したが、A・BがXの腕を取って抱きかかえるようにしながら、自宅を連れ出し、同月 24日午前4時ころ、10階居室に同Xを連れて行った。この居室には、E、Eの弟であるe及びAの叔母であるN、Dの母であるdが来ており、その後、上記の者らのいずれかが、常にXの相手をしていた。
 Bは、Xが同居室に到着した後、浴室でYと携帯電話で連絡を取っているのに気付き、Xから携帯電話を預かった。
 イ Cは、同月24日当時、勤務していたが、勤務が終了した同日、A,Bによってマンション7階居室に連れて行かれた。Cは、同月27日ころ、上記居室を訪れたSと、統一協会に関して話し合った後、同協会から脱会する意思を表明した。
 ウ Aは、同月25日、Eから、10階居室入口ドアをたたく者がいたとの報告を受 け、Xの居場所が統一協会に知られ、統一協会から妨害を受けることを恐れて、知人からマンション2階居室を借り受け、同日夜に、Xとともに同居室に移動した。Aは、上記居室の玄関ドアの防犯チェーンがたるまないように、同チェーンに南京錠を取り付けた。また、同居室のベランダに通じる窓には錠付きのクレセント錠が取り付けられていた。
 エ Xは、同月27日、マンション2階居室窓のクレセント錠を安全ピンで開けてベランダに出て、雨樋を伝い2階から1階に降りて、Yの下に戻った。
 (3) 平成7年10月28日から平成9年1月初めまでの状況
 ア 控訴人らは、平成7年、市長に対し、婚姻の届出をし、Xは、平成8年3月ころ、Yが居住していたアパートの近所にアパートを賃借して移り住んだ。A,Bは、XからYと入籍したとの手紙をもらい、両親の承諾もなく勝手に入籍したことに驚き、また、CからXが統一協会が企画する南米ツアーに行く希望を持っているとの話を聞いて、南米ツアーの参加者には自殺者等が出ていることから、Xの身を心配するとともに、Xを統一協会からなんとか助け出さなくてはいけないとの思いを強くしていた。
 イ A,Bは、平成九年になって、Cから、同年1月10日ころに、控訴人らがCの食事会をするという話を聞き、その際に、Xを再度アパートに連れて行き話合いの機会を持とうと考えた。
 (4) 平成9年1月10日から同年6月9日までの状況
 ア 平成9年1月10日午後3時ころ、XからCに電話があり、Bは、Cから、同日夜に控訴人らとCが会うとの情報を得たので、A,Bは、Cが外出した後、D,E、F及びeと、同日午後7時ころ、店付近のうどん屋で待ち合わせ、その後、被控訴人らは、店の道路を挟んで反対側の空き地に車を止めて、控訴人らが来るのを待っていた。
 イ 控訴人らとCは、同日午後8時ころ、店に現れ、食事のために同店に入ったので、被控訴人らは、自動車を店の駐車場に移動して待機していたところ、同日午後10時40分ころ、控訴人両名及びCが、店から出てきた。そこで、Bは、Xに駆け寄り、Aもこれに続き、eはワンボックスカーを運転して移動させて、その付近に止めた。
 BがXのそばに駆け寄りXの腕を取ろうとしたところ、Xは、悲鳴を上げ、ワンボックスカー付近で仰向けになって、同車の左前タイヤ部分に右足を掛けて抵抗したが、A,Bが、Xを抱き起こし、同車内にいたSBとともに、Xを同車に乗せ、Cも同車に乗り込んで、eが同車を運転して、Cが賃借していたマンション302号室にXを連れて行った。
 ウ Yは、自己が運転してきた自動車に乗ろうとした際、Xの状況に気付き、Xの方に駆け寄ろうとしたが、その前に立ちふさがったFを押しのけようとしてFにぶつかり、勢い余って前のめりになって転倒し、アスファルトの地面に四つんばいの姿勢になり、眼鏡が外れた。Xを乗せたワンボックスカーが発車した後、Yは、駐車場に残ったD及びFと対面したが、同被控訴人らに対し、左手及び両膝を負傷したとの抗議はしなかった。Yは店に戻り、店員に警察への通報を依頼し、駆けつけた警察官に対し、Yが傷害を負い、Xが拉致されて連れ去られた事情を説明した。しかし、警察官は、その後、Yに眼鏡と財布を届けるために、店駐車場に戻って来たF及びDに出会ったが、同被控訴人らに対し事情聴取をすることはなかった。
 エ Yは、同月11日、病院で診察を受け、左手及び両膝窩部外傷で、加療約1週間を要するとの診断を得て、当該負傷部位及び破損したスラックスの写真を撮影し、同月14日、神奈川県警宮前警察署に被害届を提出した。
 オ Aは、同月13日から同年3月途中まで年次有給休暇を取り、その後、同年5月 26日まで欠勤し、Bは、パートタイムの仕事を辞め、Cは、同年1月末ころ、退職し、それぞれXとともに生活できる態勢を整えて、マンション302号室等に移り住んで、Xと一緒に生活した。
 A,Bは、マンション302号室において、X中心の生活を送り、Cに家事全般を担当させ、Xには、昼ころ起床して、2時間程度入浴し、BやCが、Xの体をマッサージし て、ゆったりとした生活をさせ、時には、Xとトランプなどのゲームに興ずることもあった。その一方で、Xが、居室で1人となることがないように配慮するとともに、Aは、上記居室の玄関ドアの防犯チェーンがゆるまないように、チェーンに南京錠を取り付け、また、Xが逃げ出すことのないようにふすまをはずし、トイレの鍵をかからなくしていた。
 Xは、当初こそ、A,Bらの行為に抗議することがあったが、同年1月末ころから、落ち着きを見せ、A,Bに対し、統一協会の信仰を持った経緯や同協会の教義について話をするようになった。
 カ A,Bは、同年2月初めころ、前記マンションの住人から、同被控訴人夫妻らが騒音を立てたことに苦情を言われたため、知人を通じて、乙号室を借り受け、同月1月5 日、Mが運転する自動車で、X、Eとともに、同居室に移動した。
 A,Bは、同居室の窓にもボルト付きの金属棒やサッシ止めを取り付け、ビニールシートを貼り付けるなどした。Xは、このころ、日本基督教団発行の統一協会に関する冊子を読み、A,Bらと、その感想を述べ合うなどするようになっていた。
 キ 同年4月10日、警察官が教会に事情聴取に訪れたが、A,Bは、同日、Xを連れて乙号室から被控訴人Sから紹介を受けた人物から借り受けていた630号室に移った。その際、上記居室の鍵を預かっていた被控訴人Sが、A,Bらを自動車で先導して上記居室に案内したが、同被控訴人は、この日に、Xと会話を交わすことはなかった。A,B は、上記居室についても、玄関ドアの防犯チェーンに南京錠を取り付けた。
 ク Xは、630号室に移ってからも、引き続き日本基督教団発行の冊子を読み、A,Bらと、その感想を述べ合うなどしていた。
 そして、同月19日午後7時ころ、Xの承諾を得たA,Bの依頼で、被控訴人Sが上記居室を訪問してXと面接し、その際Xは、被控訴人Sの問いかけに応じたり、逆に同被控訴人に対しキリスト教と統一原理の違い及び統一協会の問題点について、説明を求めたりした。
 被控訴人Sは、その後、同年5月中旬にかけて、7回程度、上記居室を訪問し、Xに対して統一協会の教義や活動について説明したが、Xが、これに反発することもあった。
 ケ Xは、同月23日、A,Bに対し、内心の意思はともかくとして、統一協会から脱会する意思を表明した。A,Bは、これを心から喜び、また、同月25日に同居室を訪れてXと面談した被控訴人Sも、Xが改心するものと受け止めた。
 Xは、同月26日、A,B,Cとともに、教会に赴き、統一協会の元信者と会って話をし、これ以降、Xは何度か同教会に赴き、同教会の礼拝等に参加するようになり、被控訴人Sとともに、統一協会の信者がその家族と滞在しているマンションの居室に赴くなどした。
 コ Xは、同年6月4日、B及びCとともに、教会に赴き、同教会で開催された聖書研究会に参加し、また、統一協会の元信者らの集まりに参加し、統一協会の元信者らと話をした。その後、被控訴人Kが、Xと夕食をとりながら話をした。
 Xは、同月5日、Bと教会に赴き、被控訴人Sと話をした。
 A,B,Cは、同月七日、Xの発案で、Xとともに、埼玉県内の温泉に出かけて一泊旅行をしたが、この宿泊先は、Xが、本屋で旅行関係の本を買い、自ら選んで電話で予約したものであった。
 サ Xは、同月9日、事前に被控訴人Kに電話で連絡し、B及びCと教会に赴き、被控訴人Kと、今後の身の振り方について相談した。Xは、その後の同日午後5時ころ、市内のJR駅付近で、B及びCと別れて、Yの下に帰った。
 シ Xは、同月14日、弁護士に対し、A,Bらと過ごした状況等を説明し、同月16日、神奈川県警宮前警察署に対し、A,Bらによる監禁について被害届を提出した。ま た、控訴人らは、同年9月4日に至って、弁護士とともに宮前警察署に赴き、Yに対する傷害罪、Xに対する逮捕監禁罪を理由に、被控訴人らを告訴する旨の告訴状を提出した。
2 控訴人らは、A,Bらが、共謀の上、2度にわたり、Xを、Xの意思に反して、違法に、拉致、監禁し、統一協会からの脱会を強要したと主張する。
 前記1に認定した事実によれば、A,Bらは、平成7年10月23日から同月27日までの間及び平成9年1月10日から同年6月9日までの間の2度にわたって、Xをあらかじめ用意したマンション等の居室に同行するように求め、これに同意しないXの腕を取って抱きかかえるようにし、あるいは路上に仰向けになって抵抗する同控訴人を抱き起こして車に乗せ、上記各居室に連れて行ったものであり、上記各居室においては、玄関ドアの防犯チェーンに南京錠を、窓にはボルト付きの金属棒、サッシ止め及びビニールシートを取り付けたり、ふすまをはずしたり、トイレの鍵をかからなくしたりして、Xが居室から逃げ出すことを防ぐための細工をし、Xを常時A,Bらの監視の下に置いて、Xの自由な精神的・身体的活動を制約するような生活環境の下に少なくない期間にわたって留め置 き、その間、Xに対し、統一協会の教義や活動の問題点等について話し合いを求めたことが認められるのであり、かかる事実に、Xが既に成人し、一人の社会人として生活している者であり、Xの信仰の対象が霊感商法や合同結婚式等で社会的に多くの問題を引き起こしている統一協会であるとはいえ、個人の信仰にかかわる問題でもあることを考えると、被控訴人夫妻らの上記行為は、社会通念に照らして相当と認められる範囲を超えたものと評価される余地がないではない。
 しかしながら、Xを各居室に同行する際の被控訴人夫妻らの有形力の行使は、上記に指摘したとおりのものにすぎず、本件全証拠によるも、被控訴人夫妻らが、Xを各居室に留め置くために有形力を行使したことは認められない。また、第1回目の期間は、結果として、わずか4日間という短期間のものであること、2回目の期間は短いとはいえない期間に及んではいるが、前記1に認定した事実によれば、Xは、その当初にこそ被控訴人夫妻らの行為に抗議の姿勢を示したものの、被控訴人夫妻がX中心の生活に心掛け、昼ころ起床して、2時間程度入浴したり、BやCからマッサージを受けたりするゆったりとした生活を続けるうちに、次第に被控訴人夫妻やCとの生活になじむようになり、被控訴人夫妻に対して、統一協会の信仰を持った経緯や同協会の教義についても話をするようになったことが認められ、一方、本件全証拠によるも、Xが被控訴人夫妻と生活している期間において、同夫妻から受けている制約を逃れるために暴れるなどして抵抗した様子はうかがわれない。さらに、前記1に認定した事実によれば、被控訴人夫妻がXに対し上記行為に及んだのは、社会的に多くの問題を引き起こしている宗教団体であるとの認識を有していた統一協会により愛する娘を奪われ、両親の承諾もなく合同結婚式によって配偶者を決めて入籍し、しかもその娘との会話も十分できなくなってしまった悲痛な思いと、親として娘の命、健康、生き方を心配し、娘の幸せを願う情愛の気持ちから、統一協会の信者となったXと統一協会の教義や活動の問題点等についてじっくり話し合い、Xが統一協会に対する信仰を考え直す機会にしてもらいたいとの願いからであると認められ、被控訴人夫妻らがXに対し危害を加えてでも改心させようとする意思は全くうかがわれない。
 以上の事情を併せ考えると、被控訴人夫妻らのXに対する前記行為は、社会通念に照らして相当と認められる範囲を逸脱したものとまでは断定できず、少なくとも、Xに対して損害賠償をもって償わなければならないほどの違法性を帯びた逮捕、監禁に当たるということはできず、また、統一協会からの脱会強要に当たると評価することもできない。
 よって、この点に関する控訴人らの主張は失当である。
3 控訴人らは、被控訴人牧師らが、日本基督教団の統一協会に対する激しい反対運動を展開する統一原理問題全国連絡会に所属し、常習的に統一協会の信者に対する拉致、監禁及び脱会の強要を行っていたものであるが、統一協会の壊滅を図る目的で、被控訴人夫妻らの不法行為を指示、指導したと主張する。
 しかし、前記2に判示したとおり、被控訴人夫妻らの行為が、Xに対する、違法な、逮捕、監禁及び統一協会からの脱会の強要とまで評価することはできないから、控訴人らの上記主張は、その前提を欠き、失当である。
4 控訴人らは、被控訴人Sが、Xに対し、Xの意思に反する、違法な面談及び統一協会からの脱会の強要を行ったと主張し、X本人は、原審の本人尋問においてこれに沿う供述をする。
 前記1に認定したとおり、被控訴人Sは、平成9年4月19日午後7時ころ、被控訴人夫妻の依頼により、630号室を訪問し、Xと初めて面談し、その後、同年5月中旬にかけて、7回程度上記居室においてXと面談し、統一協会の教義や活動について話合いを行ったが、Xがこの間に被控訴人Sの発言に反発することもあったこと、同年5月23日、Xが被控訴人夫妻に対し、統一協会から脱会する意思を表明したことが認められる。
 しかし、前記1の認定事実及び証拠によれば、被控訴人夫妻が被控訴人Sに対して、Xとの話合いを依頼するに当たり、Xは、これに承諾を与えていること、Xは、自らキリスト教と統一原理の違いについて検証したいとの姿勢を示し、被控訴人Sに対し、キリスト教と統一原理の違い及び統一協会の問題点について、説明を求めるなどしていることが認められ、加えて、前記2に判示したとおり、被控訴人夫妻らのXに対する行為を違法な逮捕、監禁に当たり、また、統一協会からの脱会強要に当たると評価することはできないことを併せ考えると、被控訴人Sが、630号室において、Xと面談し、統一協会の教義や活動についてその意見を述べたことをもって、Xの意思に反する違法な面談であるとか、統一協会からの脱会の強要であると評価することはできない。
 X本人の前記供述は、これを否定する趣旨の被控訴人S本人の供述に照らして採用できず、他に被控訴人Sの不法行為を認めるに足りる的確な証拠はない。
5 控訴人らは、被控訴人夫妻らが、平成9年1月10日午後10時40分ころ、Xを拉致、監禁しようとした際に、D及びFが、これを防ごうとしたYの両腕両肩をつかみ、前方にうつぶせに押し倒して、地面に組み伏せるなどの暴行を加え、Yに、加療約1週間を要する左手及び両膝窩部外傷の傷害を負わせたと主張し、Y本人は、原審の本人尋問においてこれに沿う供述をし、同様の内容の陳述書及び状況再現写真を提出している。
 前記1に認定したとおり、Yが、平成9年1月10日午後10時40分ころ、店駐車場において、上記傷害を負った事実は認められる。
 しかしながら、Cは、原審の本人尋問において、Yが、勢いよくXの方に走ってきた が、何かにつまずいて四つんばいの状態で地面に伏せたと供述し、Fも、YがXの方へ駆け寄ってきたので、FがYの前に立ちふさがったところ、Yに勢いよくぶつかられ押しのけられたが、Yは前にのめるような形で両手を伸ばしていたと陳述(乙6)し、Dは、原審の本人尋問において、DもFもYに対し押さえつけたりしていないと供述している。
 前記1に認定した事実によれば、Yは、駐車場に残ったDとFに対し、左手及び両膝を負傷したことを抗議していないこと、Yの通報により駆けつけた警察官は、店駐車場に 戻ったF及びDから事情聴取をしていないことが認められ、さらに、Yの負った上記負傷は、当該負傷部位をアスファルトに強く擦過することによって生じたものと認められる が、これは、Cが供述し、Fが陳述する行為態様によって生じたと考えても矛盾しないことを併せ考えると、Yの上記供述及び陳述を採用することはできず、Yの傷害は、前記1に認定したとおり、Yの前に立ちふさがったFにぶつかって勢い余って自ら地上に四つんばいの状態で転倒したことによって生じたものと認めるのが相当である。
 そうすると、D及びFによるYに対する暴行の事実を認めることはできず、他にこれを認めるに足りる的確な証拠はないから、控訴人らのこの点についての主張は失当である。
6 そうすると、控訴人らが主張する被控訴人らによる不法行為は、いずれもこれを認めることができないところ、不法行為の存在を前提として、被控訴人らに対し、暴行、脅 迫、拉致、監禁及び暴行、脅迫、拉致、監禁、面談、電話等の方法を用いて同控訴人が信仰する宗教の棄教の強要の差止めを求めるXの請求は、その前提を欠き、失当である。
7 以上によれば、控訴人らの本訴請求は、その余について判断するまでもなくいずれも理由がないから、これを棄却した原判決は相当であり、本件控訴を棄却することとし、主文のとおり判決する。
東京高等裁判所第2民事部
裁判長裁判官
裁判官
裁判官
綿